元魔王様とシャルルメルトの街 8
心配そうに屋敷の一室の窓を見るトアシエル。
おそらくあの部屋に公爵令嬢のリュシエルがいるのだろう。
その表情は凶悪なスキルを怖がらず、ただただ娘を心配している母親のものだ。
「スキルの効果を実感した事による恐怖か。それに見た目の問題でも人前に出たがらないのだろう?」
スキルを封じる為に貴族令嬢には似合わない首輪を付けていると聞いた。
「それもありましたが、首元を隠す服装をすれば問題ありません。なのでどちらかと言うと恐怖の面が大きいでしょう。」
「他人から向けられる目か。」
その一件を生き延びた者、シャルルメルトの外にいてその話しを聞いた者、その誰しもがスキルの所有者であるリュシエルに恐怖を抱いても不思議は無い。
「普通の人ならそのスキルを怖いと感じてしまうと思うのです。」
「そうですね。リュシエルが害の無い子でもそのスキル一つのせいであの子の人生は狂わされました。あの子は悪くないのに…スキルを持っていると言うだけで…。」
「可哀想なのです。」
トアシエルが悲しそうな表情で呟き、それを見たシキも悲しそうな表情へと変わっていく。
優しいシキは人の不幸に感情移入しやすい。
「あの子も多くの者の恐怖が自分では無くスキルに向けられていると言うのは分かっているのです。なので人にそう言った感情を向けられるのにも慣れてしまいました。そんな事に慣れてほしくはないのですけどね。」
「それでも屋敷からは出られないのか?」
「最悪の事態を考えてしまっているのです。万が一首輪が機能しなくなったり、首輪が破壊されてしまった時の事を。」
一度スキルによって起こってしまった領地崩壊の危機。
それを一番近くで経験したからこそ、もう二度と引き起こしてはならないとリュシエルは思っている。
そう考えて屋敷に引きこもっているのだ。
「またスキルによって魔物を呼び寄せてしまうと考えている訳か。」
「あのスキルは普通の者にとっては害悪でしかありません。ですが見方を変えれば。」
「強力な兵器にもなるのです。」
「そう言う事です。」
魔物を誘き寄せる魔誘のスキル。
ただ発動させただけならば、その土地に大きな被害を与えて終わる。
だが悪意を持って発動させるつもりなら、敵対する者の領地や国に被害を出す兵器にもなる。
「わざとスキルを発動させて大量の魔物を呼び寄せる。スキル持ちも無事では済まないがその土地も大損害を受けるだろうな。」
悪意ある者にとってはリュシエルは魅力的な人間兵器に見えるだろう。
「大きな街や小さな国くらいなら落とせてしまうかもしれません。なので悪人はリュシエルの持つスキルを求めます。だからこそリュシエルは人を直ぐに信用出来ず、屋敷の外に出たがらないのです。そのせいで満足のいく学生生活も送らせてあげられず、一生こもりきりの人生になってしまうかもしれません。」
簡単に人を信用してスキルを利用されれば大変な事態に発展する。
付き合う人も慎重に見極める必要がある。
「ジル様…。」
「シキ、そんな悲しそうな顔をするな。この話しを聞いてシキならどうしてやりたいかなんて我なら直ぐに理解出来る。」
「ありがとうなのです。」
相棒の頭を撫でながらジルが言う。
こんな話しを聞いて何もしない選択肢をとるシキで無い事は、長い付き合いなので分かっている。
「リュシエルに会ってみてもいいか?スキルをどうにか出来る訳では無いが、本人と少し話しをしてみたい。」
これだけ有名になってしまったスキルを取り除くのは難しいが、他にも手はあるかもしれない。
一先ず会って話しをしてみたい。
「リュシエルとですか?しかし…。」
「いいだろう。」
ジルの言葉に突然やってきた者と会わせるのはどうなのかと悩んでいたトアシエルだが、別のところから声が掛かった。
「貴方、聞いていたのですか?」
「途中からだがな。」
トアシエルの代わりに許可を出したのはリュウセン公爵だ。
「いいのか公爵?得体の知れない冒険者を娘と出会わせても。」
「直接会って私自身信用出来ると感じた。それに伯爵の手紙に信用の出来る人物だとも書かれていた。そちらの不利益となる行動に関しては、確約は出来無いが九分九厘無いと思うともな。」
ジルと直接会った事に加えてトゥーリから渡された手紙の内容で会わせても問題無いと判断した様だ。
「信用されている様で疑っているのがよく分かるのです。」
「トゥーリめ、王都までしっかり護衛してやった我をまだ信用出来んか。」
トゥーリの手紙の内容に少しイラッとしながらも公爵達にリュシエルの部屋まで案内された。
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