元魔王様とシャルルメルトの街 7
公爵家と言うだけあって屋敷の中だけでもかなりの広さがある。
一人であれば迷っていたかもしれない。
「シキがいると広過ぎる屋敷どころか迷路であっても迷う心配が無いから助かるな。」
「お任せなのです。シキの記憶力は完璧なのです。」
知識の精霊であるシキは一度見聞きした情報を完全に記憶しておける力がある。
これにより一度通った場所は覚えているので迷う事は無い。
「お、あそこはテラスではないか?」
「公爵様が自慢のお庭があるって言ってたのです。」
「少し見学でもするか。」
テラスに行くとかなり手入れが行き届いたガーデンが見える。
珍しい物も多く見えたのでもっと間近で観察してみようと言う事になり庭に出てみる。
「ほう、見事なガーデンだな。」
「希少な植物も沢山なのです。ライム、食べたら駄目なのですよ?」
シキに注意されて食べないよとでも言う様にライムがプルプルと揺れている。
「お気に召されましたか?」
ガーデンの珍しい植物を見ていると近付いてきた女性が声を掛けてきた。
「この家の者か?」
「はい、リュウセンの妻トアシエルと申します。」
平民であるジル達に丁寧にお辞儀しながら言う。
「公爵夫人だったか。」
「こんにちはなのです。」
「はい、こんにちは。夫からお客様が来ていると聞いていましたが、貴方方ですね?」
公爵家に泊まる事になったのでジル達の事が家族や使用人にも共有されているのだろう。
「もう一人いるけどな。」
「ジル様、もう少し丁寧に話さないと不敬罪にされちゃうかもなのですよ?」
「公爵からは許可が出ているぞ?」
「人それぞれなのです。」
公爵が許してもその妻である公爵夫人が良しとするかは分からない。
「ふふっ、私は気にしませんから大丈夫ですよ。身分の差を気にする貴族の前では気を付けた方がいいかもしれませんけどね。」
トアシエルがくすくすと笑いながら言う。
この家の者達は貴族では珍しく身分に口煩く無い様だ。
「やれやれ面倒な事だ。」
「貴族とはそう言うものなのです。それはそうと私はまだ用件を聞いていなかったのですが、何を目的にシャルルメルトへ?」
「結晶石だ。鉱山へ入る許可を貰いにな。」
「成る程、やはり移住希望ではありませんよね。」
ジルの言葉を聞いてトアシエルが少し残念そうな表情を浮かべている。
理由は分からないが移住希望者を望んでいる様だ。
「シャルルメルトは人材不足なのか?冒険者の仕事はそれ程無いと聞いているが。」
「確かに戦闘を得意とする冒険者にとっては退屈な領地かもしれません。ですが公爵領である私達もそれ相応の戦力は保持しておかなければならないのです。」
領地を守る警備隊、有事の際に協力してくれる冒険者、領主が自由に動かせる私兵と治安を維持する為には戦える者をそれなりに揃えておく必要があるのだ。
「公爵と言う爵位の責か。国や街を守る力が無ければ、他国や他の貴族に足元を掬われかねないからな。」
自国の貴族全てが自分に対して善意ある行動をとってくれるかは分からない。
中には自分の領地を広げる為に他者を貶めようとする者も少なからずいるのだ。
「それもあります。そして突然の災厄にも対応出来る戦力は手元に欲しいのです。」
「公爵令嬢のスキルか。」
「はい…。」
ジルの言葉に悲しそうな表情で頷く。
自分の娘が武力対策しなければいけないくらい危険なスキルを有しているのは、母親からすれば悲しい事だろう。
「実際に目にした事が無いのだが、それ程強大な力なのか?」
「大規模に発動してしまったのは一度だけです。ですがその一度でシャルルメルト領は崩壊しかけた事があります。」
公爵領と言うだけあってシャルルメルトは広大な土地だ。
その領地が崩壊しかけるとは相当な被害があったと思われる。
「シャルルメルトの大規模な事件…、盗賊による魔物の氾濫なのです?」
「さすがは精霊様、お詳しいですね。」
そのスキルによる被害はシキも知っている様だ。
それだけ有名なのだろう。
「シキは知っているのか。」
「はいなのです。盗賊が公爵令嬢を身代金目当てで拐ったのが始まりだった筈なのです。」
「不覚を取って幼いリュシエルを連れ去られてしまい、あの子の恐怖でスキルが発動してしまいました。それにより辺り一面は瞬時に地獄の様に。」
魔誘のスキルが牙を剥いて、原因を作った盗賊達は真っ先に殺されて一切死体も残らなかったらしい。
周囲を魔物に囲まれた状態で幼いリュシエルは更に恐怖したが、公爵家の優秀な騎士達が間一髪で間に合ってリュシエルを魔物から守ったらしい。
それでも辺りを埋め尽くす魔物からリュシエルを守りつつ屋敷まで連れ戻したり、公爵領に集まってきた大量の魔物の討伐をしたりと、魔誘のスキルの影響の後始末で相当な人的被害を出してしまった。
その結果公爵領が人員不足に陥ると言う大被害を受けたのだ。
「全ての魔物を討伐してリュシエルは取り戻しましたが、その結果多くの者の死を目の当たりにして自分のスキルの恐ろしさを知り、あの子は人と関わる事が減ってしまいました。そして今では…。」
悲しそうな表情でトアシエルが屋敷の一室に目をやる。
おそらく人と出会ってスキルが発動しない様に引きこもっているのだろう。
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