元魔王様とシャルルメルトの街 6

 中には他に沢山の使用人がいるが他にそれらしい人がいないので、この男性がシャルルメルト公爵だろう。


「私が公爵のリュウセン・シャルルメルトだ。セダン伯爵からの手紙は見させてもらった。先ずは座ってくれ。」


「いえいえ、わしらは長居をするつもりはありません。手紙を届けにきただけですから。」


 ダナンとしてはジルがやらかす前に早く立ち去りたい。

トゥーリの手紙を届けて探索の許可を貰えればそれでいい。


「そう言わず持て成させてくれ。伯爵とは良好な関係を築いている。使者だからと言って蔑ろにする事は出来無い。」


「そうですか?では。」


 公爵にそこまで言われては断るのは難しい。

ダナンは諦めてソファーに腰掛け、ジル達もそれに倣う。


「それと口調は普段通りで構わない。ダナン殿の名は私の領地まで届く程有名なのでな。」


「ならば話しやすい様に喋り方を戻させてもらう。」


「護衛のジル殿や契約精霊のシキ殿も敬語は不要だ。伯爵の手紙で事前に説明を受けている。優秀な冒険者なので優遇している事もな。」


 どうやらトゥーリが手紙にジルの事を書いていたらしい。

王侯貴族に対するジルの態度も分かりきっているので事前に知らせていた様だ。


「後で不敬罪とか面倒な事は言わないんだな?」


「ああ、普段通りの話し方で構わない。」


「分かった。」


「了解なのです。」


 ダナンに言われていたので口を開くつもりは無かったのだが、公爵が気にしないのであれば問題無いだろう。


「それで今回の目的は鉱山の利用だったな?」


「結晶石が取れると聞いたのでな。領主から紹介をもらって訪れてきた。」


 トゥーリからの紹介状も一緒に渡してある。


「今我が領に訪ねてくる者の大半はそれ目当てだからな。鉱山での採掘に関しては構わない。人が多くて出入りに制限を掛けていたのだが、友好貴族の使者ならば私の許可で直ぐにでも鉱山を利用出来る様にしよう。」


「助かる。」


 トゥーリに紹介状を書いてもらって助かった。

そのおかげで事が順調に運びそうであり、ダナンが嬉しそうな表情を浮かべている。

これで目的の結晶石を採掘する権利が手に入った。


「早速向かうのか?」


「そうしたいところだが今日は早めに休んで明日に備えるつもりだ。」


「そうだな、我も久々にゆっくりと休みたい。」


「長旅で疲れたのです。」


 魔法での爆速移動では無く、ダナンの従魔による空の移動だったので、地上で向かうよりは断然早かったがジル達の移動と比べると時間が掛かっている。

野宿も多かったので久しぶりに街のベッドで身体を休めたい。


「ならば屋敷に泊まっていくといい。部屋数だけは多いからな。」


 この後宿屋を探そうかと思っていたのだが公爵がそんな提案をしてきた。


「公爵家の屋敷に?平民のわしらが泊まってもいいものなのだろうか。」


「使用人も住み込みの者が多い。特に気にする事では無いぞ。」


 貴族の屋敷に泊まり慣れていないダナンが迷っているが平民の使用人もいるなら少しは気が楽だ。


「公爵の行為に甘えさせてもらうか?」


「我はどちらでも構わん。」


「シキもジル様と一緒でどっちでもいいのです。」


「ならばお言葉に甘えるとしよう。今から宿を探そうと思っていたので助かる。」


 全員で公爵家の世話になる事にした。


「気にしないでくれ。今日は精一杯持て成すとしよう。では夕食まで部屋で寛いでいてくれ。」


「お部屋にご案内致します。」


 公爵が一人のメイドに目配せするとジル達を部屋へと案内してくれた。

案内された部屋は高級宿屋にも勝る豪華な内装であった。


「こちらへどうぞ。何かご用がありましたらそちらのベルを鳴らして下さいませ。では失礼します。」


 メイドが一礼して部屋を出ていく。

待遇が貴族と変わらない。


「まさかシキにも一室与えられるとはな。さすがは公爵家か。」


 ジル、シキとライム、ダナンとそれぞれに部屋が割り振られていた。


「ジル様、入ってもいいのです?」


「ああ、いいぞ。」


 少し部屋で寛いでいるとシキとライムが尋ねてきた。

許可を出すと部屋の中へ入ってくる。


「あんなに広い部屋にライムと二人だと落ち着かないのです。」


「そうなのか?使用人を付けてもらえたから、トレンフルの時みたいに楽に過ごせるのではないか?」


 トレンフルの屋敷では、まるで女王様の様にメイド達に甲斐甲斐しく世話をされていた。

複数のメイド達がジル達の要望に応える為に待機してくれているので、あの時の再現も可能だ。


「あの時は知り合いの屋敷だから寛げていたのです。さすがにいきなり知らない屋敷では難しいのです。」


 トレンフルは元契約者のブリジットと契約していた頃に暮らしていた場所だ。

勝手知ったる屋敷だからこそ出来た事である。


「まあ、何かあれば我の部屋を尋ねてくるといい。」


「そうするのです。夕食にはもう少しあるから何かして時間を潰さないです?」


 暇潰しにジルの部屋を尋ねてきた様だ。

豪華な内装であっても室内でやれる事は限られる。


「そうだな、屋敷でも見て回るか?出歩いても構わないと言われている事だし。」


「賛成なのです。」


 ジルとシキは公爵家の屋敷を見て回って時間を潰す事にした。

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