元魔王様と世界最強の従魔使い 2

 レギオンハートが住んでいると言うパンデモニウム島に上陸したジル達は島の中を進んでいく。


「目指すは島の中心にそびえている山です。」


「あの山を根城にしているって前に言ってたわね。」


 レイアとテスラが言う山とは、この島の中央にある巨大な山の事だ。

どの場所から上陸しても近道が無く、登るのはとても苦労する。


「かなり険しい道だな。」


「とっても遠いの。」


「呑気な会話をしておる場合ではなかろう!囲まれておるんじゃぞ!」


「ウォンウォン!」


 先を見てジルとホッコが感想を呟いているが今正に魔物に囲まれている真っ最中であった。


「ギガントエイプ、Bランクの魔物ですね。」


「これだけの数となるとAランククラスの脅威度はありそうね。まあ、私達にとっては大した事無いけど。」


 レイアは剣をテスラは拳をそれぞれ構える。

普通ならかなり危うい状況なのだが、この集団に限ってはそこまで大事でも無い。


「ウホホ!」


 ギガントエイプのボスらしき者が指示をすると一斉にジル達に飛び掛かろうとしてくる。


「ゴブ!」


「ウボッ!?」


「ん?」


 どこからともなく現れたゴブリンが自分よりも遥かに身の丈が大きいギガントエイプを手に持っている武具で斬り刻む。

そして直ぐに次、またその次とあっという間にギガントエイプの群れを全滅させてしまった。


「魔物の乱入、それもゴブリン種か。」


「新たな敵の様じゃな。それも軽々とBランクの魔物を倒すとは厄介そうじゃ。」


 明らかに普通のゴブリンでは無い。

あれだけの数のギガントエイプを瞬殺してしまうとは最低でも上位種、そして特殊個体の可能性すらある。


「獲物が取られたの!?それならあのゴブリンと勝負するの!」


「ウォン。」


「影丸離すのー!」


 駆け出そうとしたホッコの襟首を影丸が咥えて阻止している。


「落ち着けホッコ。今のお前ではまだ勝てん。あれは普通のゴブリンでは無い。」


 見た目こそ普通のゴブリンにそっくりだが、内包する魔力量や先程の動きは比べ物にならない。

人型の戦闘が板に付いてきたホッコでも勝つのは難しいだろう。


「あれ?あのゴブリンって。」


「テスラも見覚えがありますか。記憶違いでは無さそうですね。」


 レイアとテスラは目の前のゴブリンに見覚えがある様で武器を下ろす。

そしてゴブリンの方もギガントエイプは瞬殺してもジル達に敵意を向けてこない。


「二人共、このゴブリンを知っておるのか?」


「見たのは随分前だから自信は無かったけど、おそらくこれから会おうとしている人の従魔ね。」


「珍しい魔物を多く従魔としていましたからね。このゴブリンもその内の一体です。」


 ジルには見覚えが無いが、どうやらレギオンハートの従魔らしい。

一応万能鑑定を使用して視てみると、確かにレギオンハートの従魔である事が分かった。

ちなみにこの魔物はアサシンゴブリンと言うらしい。


「ゴブゴブ。」


「付いて来いって事かしら?」


「ジルさん、先に私達が会って事情を説明してきます。少し待っていて下さい。」


「分かった。」


 歩き出したアサシンゴブリンの背後をレイアとテスラが追い掛けていく。

事前に会う約束をしていた訳でも無く、元魔王が人族に転生しているのもレギオンハートは知らないので説明しに向かってくれた。


「今のゴブリンが従魔とは。相当な魔物使いの様じゃのう。」


 アサシンゴブリンがいなくなって一息吐いたナキナが呟く。


「ん?ナキナ、これから会う者の名前を知らないのか?」


「聞いておらんぞ?」


 影丸の強化目的なのだがその主人であるナキナは誰に会うのか分かっていなかったらしい。

ここに来るまで誰も名前を教えていなかった。


「うっかりしていた。これから会う者の名前はレギオンハートだ。」


「レギオンハート?はて、何処かで聞いた事のある名前じゃな。」


 ナキナが首を傾げて思い出そうとしている。


「ふむ、さすがに集落に引き篭もっている鬼人族の姫でも聞き覚えがあるか。」


「誰が引き篭もりじゃ。これでも鬼人族の中では世界を見て回っている方じゃ。」


 奴隷になったのもジル達を探して集落から出て旅をしていたからだ。

鬼人族の中では行動的な方だろう。


「ならばレギオンハートが誰かくらい直ぐに分かってくれ。」


「そんなに有名人じゃったか?」


 未だに思い出せないナキナが尋ねてくる。

有名かどうかで言えば間違い無く有名な方だろう。

四天王の中では魔王と並ぶくらい、最も他種族に名が広まっていた筈だ。


「レギオンハートは豪将と呼ばれた元魔王軍の四天王だ。千魔の使い手の二つ名を持つ従魔使いの達人だぞ?」


「なんじゃとー!?元四天王じゃとー!?」


「四天王って何なの?」


「ウォン?」


 ジルの説明に思わずナキナが絶叫して驚いている。

やっとレギオンハートが誰なのか分かった様だ。

しかしホッコと影丸は聞き覚えが無い言葉ばかりでよく分かっていない。


「魔王が率いる魔族の軍団、その魔王軍の中でも最強格の四人、その内の一人って事だ。」


 個人が保有する戦力で見ればレギオンハートは凄まじかった。

数多の従魔を従えるレギオンハートの戦力は正に軍隊。

元魔王ジークルード・フィーデンに次ぐ魔王軍最強の矛であった。


「最強!いつか勝負してみたいの!」


「レギオンハートと勝負か?まあ、受けるかはあいつ次第が頼むくらいはいいんじゃないか?」


「楽しみなの!」


 ホッコはジルが最強と呼ぶレギオンハートに興味津々だ。

従魔として魔物を大量に従えているので魔物に対しては優しい方だ。

ホッコのお願いも了承してくれるかもしれない。


「元四天王に勝負を挑もうとするとは怖い者知らずじゃのう。」


 それぞれがレギオンハートへの想いを抱き、二人の帰還を待つ事にした。

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