元魔王様と旅の報告 6

 これで大体の説明は終えた。

だが重要な話しがまだ残っている。

後で皆にも共有する予定だが、取り敢えず残ったシキにだけは先に話しておく事にした。


「後で我から皆にも伝えておくが、黒フードの情報も掴んできた。」


「王都の旅で出会ったのです?」


「いや、直接対面した訳では無い。強化薬と言うのを知っているか?」


「強化薬なのです?聞いた事無いのです。」


 記憶を辿ってもシキには見聞きした覚えが無いらしい。

最近出てきた物であれば、浮島にこもっているシキに情報が届いていなくても不思議は無い。


「服用した者は命を落とす代わりに一時的に強大な力を得ると言う薬だ。それを流している大元が黒フードの連中らしい。」


「そんな危ない薬があったなんて知らなかったのです。」


 効果が効果なので聞き覚えがあれば直ぐに分かるだろう。

黒フードの集団自体が厄介なのに面倒な薬まで所持していて益々厄介な集団になってきた。


「生誕祭のタイミングで王城に襲撃をしてきた者達がいて、その中の一人が使用していた。我とラブリートで分かれて賊を殲滅させたが、強化薬を使用した者は中々強かったぞ。」


「それでも勝つのはさすがジル様なのです。そして相手は運が悪いのです。その二人がいて敵う筈が無いのです。」


 圧倒的な強者達が立ち塞がる様子を想像して、突破出来る光景が思い浮かばない。

元魔王と国家戦力は伊達では無い。


「まあ、そう言う薬があると言うのは覚えておいてくれ。黒フードに辿り着ける手段にもなり得るからな。」


「了解なのです。」


 シキは一度見聞きした情報を完璧に記憶しておく事が出来る能力を持っている。

強化薬について何か情報が得られれば、厄介な黒フード達の位置を特定する手掛かりになるかもしれない。


 面倒事なので情報に関しては王家に流してもよさそうだ。

王族達からしても国を荒らしている集団なので、情報があれば対処に向かうだろう。


「それとこれはまだ直近の話しでどうするかは決めていないのだが一応共有しておく。帰ってくる最中に寄った村で見た事が無い魔物が現れた。」


「珍しい魔物でもいたのです?」


「万能鑑定ではスライーターと出た。知っているか?」


「聞いた事無いのです。」


 誰も知らなかったので珍しい魔物だろうとは思っていたが、シキも知らないとなると既存の魔物では無いと見てもよそうだ。


「作り出された個体か。」


「作り出されたのです?」


「その体内に短剣が刺さっていてな。魔物の構造を変えて強化する呪いの短剣だ。」


「それは人種の悪意が絡んでいそうなのです。」


 何の目的かは分からないが呪いの短剣を使って誰かが意図的に魔物を作り変えている可能性がある。

あのまま放置していれば渓谷内のスライムは全て喰われて、多種多様な魔法やスキルを持つ恐ろしい魔物になっていたかもしれない。


「その魔物は討伐したから問題無いが、また同じ様な事で騒ぎが起こったら少し調べる必要が出てくるかもな。」


「セダンが被害に遭う可能性もあるのです。」


 一応セダン領内で起きた出来事なのでセダンやトゥーリを狙っての事かもしれない。


「今や我らが拠点として暮らしている街だからな。簡単に滅ぼされるのも面白くない。」


「了解なのです。シキの方でも何か情報が入ったら報告するのです。」


「頼んだぞ。」


 セダンで暮らしてそれなりに経つので知り合いも少なくない。

そんな知り合い達が凶悪な魔物に殺されるのも寝覚めが悪いので、向かってくるならば倒すだけだ。


「そう言えばジル様に話していなかった情報がもう一つあったのを思い出したのです。」


「何だ?」


「まだ特に何かあった訳では無いのですけど、最近天使の目撃情報が多いらしいのです。」


「天使か。」


 ジルが魔王からの転生中にこの世界にやってきた異世界の種族だ。

頻繁にではないが何度か交戦した事があり実力も高い。

魔族を敵対視していて聖痕と言う魔法やスキルとは違う特別な力を持つ者もいる。


「敵対種族である魔族の住まう魔国フュデス付近での目撃情報も多いのですけど、最近は人族の国でも見られる様になったのです。」


「目的までは分からないか。」


「はいなのです。でも推測は出来るのです。おそらく人族の国に紛れている魔族探しだと思うのです。」


 魔国フュデス以外にも魔族が隠れ住む場所はある。

それはセダンも例外では無い。

光剣のライエルとの戦闘時に魔族の存在には気付かれている。


「レイアとテスラの件か。やはり生きていると思うか?」


「天使族はしぶといのです。情報を持ち帰っている可能性は高いのです。そしてその場合はジル様もターゲットなのです。」


 魔族を庇いライエルと交戦して返り討ちにしたジルは恨まれていてもおかしくない。

魔族に加担する人族も天使族からすれば敵なのだ。


「魔族だけで無く我を探している可能性もあるか。天使族に敵対行動を示したのだから粛清したいと考えてはいるかもな。」


「ジル様がそう簡単に負けないのは理解しているのです。それでも用心してほしいのです。」


「分かっている。外出時は気を付けるとしよう。」


 お互いの膨大な情報共有をようやく終える事が出来た。

今日はゆっくりと過ごして、明日からまた自由に浮島で過ごしていく事にする。

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