元魔王様と旅の報告 4

 ジルが温泉石や黒鋼岩の事について話し終わった後、タイミングよくホッコが戻ってきた。


「ただいまなの。」


「巣作りは順調そうか?」


「大丈夫そうなの。ホッコも少し木を掘る手伝いをしてきたの。」


 そう言って龍聖剣を掲げている。

これで木を削りながら掘ったのなら随分と巣作りは捗っていそうだ。


「うっ、貴重な木が彫られているのです。」


 異世界通販のスキルで購入した木が掘られたと聞いて改めてショックを受けている。

そうなる覚悟はしていたのだが、実際にやられるとやはり勿体無いと感じてしまうのだ。


「また買えばよいのじゃから許してあげるのじゃ。代わりに極上蜂蜜とやらを貰えるのじゃろう?」


「気持ちを切り替えるとするのです。極上蜂蜜の為に多少の犠牲はやむを得ないのです。」


 これは極上蜂蜜の安定供給の為と考えての先行投資だ。

量が確保出来れば莫大な資金源となる。

それで懐が潤えば巣の為に捧げた果物の木も何本だって買える様になる筈だ。


「ところでホッコ殿、最初から気になっていたのじゃが、その手に持つ剣は新たに入手した物かのう?」


 出発前には持っていなかった龍聖剣を見てナキナが尋ねる。

シキも少し興味がある様子だ。


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたの!これは主様がホッコの為に用意してくれた新しい剣なの!」


 ホッコが龍聖剣を振りながら自慢気に話す。


「前に使っていた剣が折れてしまってな。折れた方は適当に渡した物だったから、良い機会だと思って新しく作ったのだ。」


「凄まじい業物ではないか?」


「素人目にも強そうに感じるのです。」


 ナキナとシキが龍聖剣に注目している。

素材が素材なので詳細を知らなくても、その武具の放つ存在感は隠す事が出来無い。

明らかに店売りの剣と質が違うのが分かる。


「当然最強に凄いの!この剣のおかげでホッコは更に強くなったの!」


「名を龍聖剣と言ってとにかく素材が豪華でな。先程話した混成装具師に作ってもらったのだ。」


 ドメスに頼んだからこそ注文以上の武具へと仕上げてもらえた。

自慢のスキルだと誇っているだけの事はある。


「これ程の武具を作れるとは、ただ者じゃ無いのです。」


「何でも作れると豪語するだけはあるよな。まあ、希望する素材を集められなければ、スキルは使えないのだが。」


「成る程なのです。」


 逆に言えば要求された素材を集められるのであれば何でも作る事が出来ると言う事だ。

スキルの中でも破格の性能と言える。


「それは魔法武具かのう?何かスキルがついておるのか?」


「沢山付いてるの。最強の剣なの。」


「後で見せてもらうといい。スキルの中でも龍爪と言うスキルは格段に強いぞ。身構えていなければ我もその威力に吹き飛ばされていただろう。」


 試し撃ちの時に自分に向かって放たせてよかったと思っている。

他の者や道具では受け止めきれずに大惨事になっていた可能性が高い。


「ジル様をなのです!?さすがは龍の名を持つスキルなのです。」


「龍と言うと魔物の頂点に君臨するドラゴン種の攻撃クラスの威力と言う事かのう?」


「まあ、それよりは若干劣るくらいじゃないか?」


「それでも凄まじい威力じゃろうな。」


 ドラゴンと言うだけで最高ランクに位置付けられる程に魔物の中でも強さの次元が違う。

そんなドラゴン種が使う攻撃を意味する名が付けられているとなれば、凄まじい威力なのも納得だ。


「ホッコ、普通の人族と戦う時には使わない様にな?うっかり殺してしまうかもしれん。」


「分かったの。」


「使うならワーウルフ達を除く浮島の住人との模擬戦か、魔物との戦闘、我らに敵対行動を取る殺しても構わない者達だけにするんだぞ。」


 気軽に使用するには威力が高過ぎる。

ここぞと言う時に使う切り札と思っておいた方がいいだろう。


「その浮島の住人の中に含めないでほしいのじゃが?龍の攻撃じゃろう?妾でも死ぬぞ?」


 ナキナがジルの言葉に思わず突っ込む。

浮島の住人は規格外の化け物ばかりで、鬼人族トップクラスの実力を持っていたナキナであっても実力に差があると思わずにはいられない。

話しを聞く限り受け止められる気が全くしない。


「さすがに本物の威力に比べれば劣るから心配するな。まともに受けても半殺しくらいで済む筈だ。」


「充分物騒なのじゃ!ホッコ殿、絶対に妾には模擬戦でも使ってはならんぞ!」


「わ、分かったの。」


 ホッコに鬼気迫る様子で確認すると首を縦に振ってくれたのでナキナは一安心である。

最初に比べてジルに実力が追い付いてきたのではないかとナキナは思っていたのだが、まだまだその背中は遠そうだと感じる会話だった。

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