元魔王様と旅の報告 3

 素材についての説明が終わった後はシキに空き家はないかと尋ねて案内してもらっていた。

浮島には多くの建物が新たに建っているが、まだ内装が無い建物も多い。


「本当に何も無いな。」


「ご要望通りなのです。」


「それでここで何をするんじゃ?」


「早速こいつを使ってみようかと思ってな。」


 ジルが無限倉庫から取り出したのは王都から帰る最中に寄った町で入手した温泉石だ。


「何じゃそれは?」


「おおお、珍しいのです。温泉石なんて久しぶりに見たのです。」


「温泉石とな?」


 ナキナは初めて見る鉱石であり知らなかった様だが、さすがにこの世界で生きて長い知識の精霊であるシキは知っていた。


「シキは知っていたか。」


「はいなのです。ナキナ、これは温泉石と言って文字通り温泉を作り出してくれる石なのです。」


「ほほう、温泉を作り出す石とは、また面白い物を見つけてくるのう。」


 温泉と聞いて興味を示したのか、ナキナが温泉石をまじまじと見つめている。


「セダンに戻る最中の町で依頼を受けてな。その礼として貰ってきたんだ。」


 浮島に温泉を作る為にかなりの数を確保してきた。

これで足りないと言う心配は無いだろう。


「つまりこの空き家に温泉を作るのです?」


「そう言う事だ。浮島に自分達専用の温泉を作る為に手に入れてきたんだからな。」


「いつでも入れる様になると言うのは有り難いのう。」


「では早速取り付けるか。」


「配置は任せてほしいのです。」


 シキの指示に従って温泉石を使った魔法道具の取り付けや浴槽作りをしていく。

せっかく一から作るので拘った温泉や内装にしたい。

異世界通販で良さげな物を購入して設置しつつ仕上げていく。


「完成なのです。」


 かなり金の掛かった豪華な温泉となったが、自分達で楽しむ物なのだから良い物が出来たと喜んでおく。


「早速起動させてみてくれ。」


「了解じゃ。」


 ナキナが魔法道具に魔力を流すと石像の口から温泉が出始めて広い浴槽に注がれていく。


「しっかり湯気が出ておるのう。」


「これでいつでも入れる温泉の完成なのです。」


「他にも温泉石を貰ってきているからもう少し増やしてもいいな。」


 数があった方が皆でそれぞれ楽しめる。

ウルフ達が利用するかは分からないが外にも作っておいてもいい。


「それならこっちで預かってやっておくのですよ。この建物を増築して温泉宿みたいにしておくのです。」


「そうか?助かる。」


 無限倉庫は共通なのでシキならいつでも取り出せる。

設計に関しても知識のあるシキの方が作業者に指示しやすいと思うので任せる事にした。


「ついでに温泉石を採掘した場所にはこんな物もあったんだ。」


「黒い石?」


「これは黒鋼岩なのです。周りの魔力を吸収して硬度を上げる滅茶苦茶硬い岩なのです。」


 温泉石だけで無く黒鋼岩についても知っていた。


「これも知っていたか。」


「さすがは知識の精霊じゃのう。」


「えっへんなのです。」


 自分の持つ知識を褒められて得意気に胸を張っている。


「そんなに硬いなら良い打撃武器が作れそうじゃな。」


「それがそうでもないのです。黒鋼岩は硬度が高過ぎて狙った形に加工するのが難しいのです。普通の鍛治師だと取り扱えない物なのです。」


 普通の武器を作る際に使っている鍛治道具では、黒鋼岩の硬さに道具が負けて直ぐに使い物にならなくなってしまう。

加工するには相応の道具を揃える必要がある。


「我が銀月を使っても二回斬らねば真っ二つに出来無い程に頑丈だったからな。」


「普通は剣で黒鋼岩は斬れないのです。武器の方が先に折れてしまうのです。ジル様は例外なのです。」


 魔力量が多いジルと優秀な武器の銀月が揃ったからこそ出来た事だ。

同じ様な事が出来る者はそういない。


「ではこの黒鋼岩は使い道が無さそうじゃな。」


「そうでもないぞ。我のレールガンの玉代わりとかなら使えそうだ。」


「確かにそれで黒鋼岩を使うなら威力が更に上がりそうなのです。」


 加工目的では無く単純に硬さを活かす玉代わりなどであれば直ぐにでも使用出来る。

実際に使用した感じも手応えは充分にあった。


「それにナキナの言う通り武器に使えば頑丈だと思うぞ。」


「しかし狙った形に加工出来んのじゃろう?」


「王都で知り合ったんだが、混合生成と言うスキルを持つ者ならどんな素材でも加工出来ると思うぞ。」


 スキルによって素材を混ぜ合わせて新たな物を作り出す。

これを使えば黒鋼岩の硬さに悩む事も無い。


「混合生成?聞いた事が無いのです。」


 どうやら知識の精霊であるシキも初めて聞くくらい珍しいスキルの様だ。


「自分は混成装具師だと名乗ってスキルの凄さを語っていた。我の融合のスキルの上位互換だな。」


「それは凄いのです。」


「それに融合のスキルにも黒鋼岩は使えるぞ。消費すれば武器の硬度を高める事も出来るだろう。」


 素材を消費する事でその特性を一部付加する事が出来る。

黒鋼岩を素材にすれば多少なりとも武具の硬度を高められるだろう。


「ダナンの作った武器だと素材から鍛治師の腕まで一級品なので効果はあまり無さそうなのです。でも他の武具強化になら全然使えそうなのです。」


「黒鋼岩は大量にあるから機会があれば試してもいいかもな。」


 と言っても黒鋼岩はそのまま収納してきて大岩の状態なので、使うには小さくする必要がある為、それは面倒なのでまた今度と言う事にしておいた。

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