元魔王様と浮島待機組の現状報告 2

 久々に宿屋に戻ったジルはリュカや女将に迎えられ食事を取っていた。

その間にホッコがハニービー達に食事を与えてくれている。


 シキ達にも仲間になったハニービーの事は道中で軽く説明済みだ。

さすがに知識の精霊であるシキは知っていたが、ナキナは初めて見る魔物なので興味を示していた。


「美味い、手が止まらん。」


「そうでしょう?最近どんどん料理の腕を上げてるんだ。」


 皿に乗った料理が次々とジルの口の中に消えていくのを見て宿屋の看板娘であるリュカが嬉しそうに呟く。


「ん?リュカが作ったのか?」


「色々な料理を出す様になって厨房が一人じゃ回らないの。だから今は私も厨房に立ってるんだ。」


 元々厨房は女将が一人で担っていて、リュカは接客を担当していた。

しかし客が当初よりも増えて、働いている人数も二人から増えている。


「そう言われると見た事の無い料理が多い気がするな。」


「全部シキちゃんに教えてもらった新作料理だよ。ジルさんも食べた事無いって聞いたから出してみたんだ。」


「ほう、セダンではそんな事になっていたのか。」


 王都に旅をしている間にシキが更に料理を広めた様だ。

目の前にある異世界の料理はどれも素晴らしい出来である。

シキに習って作れる様になる為に努力したのだろう。


「ジル様がいない間にセダンではこの宿屋から様々な料理が広まったのです。今やフライドポテトだけがこの街での流行りではないのです。」


「それは食べ歩きが楽しみだな。」


 フライドポテトの時みたいに独自の料理に派生していき、セダンで様々な美味しい料理が生まれてほしいものだ。


「料理のおかげでうちの宿屋も大賑わいで、シキちゃんには大感謝だよ。」


「その分のお礼は貰ってるから気にしなくていいのです。」


「従業員が増えたのもそれが理由か。」


「連日客足が増える一方で二人では絶対回せないからね。ジルさん達が泊まってくれた時から良い事ばかりで本当に感謝しているんだ。」


 一時期は経営が危ないと困っていたが、今や連日客が大量に押し寄せる人気宿屋となっている。

人の収容人数がいつもオーバーしているので改築の話しまであるらしい。


「我らはやりたい様にしているだけだから気にするな。」


「ふふっ、シキちゃんと同じ事言ってる。それでも私達にとっては恩人でお得意様なのはずっと変わらないから、いつでも気軽に食事でも泊まりでもしにきてね。」


「ああ、気軽に寄らせてもらう。」


 ジルとしてもセダンを訪れて最初に泊まった思い出深い宿屋だ。

これからも定期的に訪れたいと思う。


「リュカー、こっち手伝ってちょうだーい!」


「はーい、それじゃあごゆっくり。」


 女将に呼ばれてリュカが厨房の手伝いに向かった。


「先程宿屋に来る前に少し聞いたが、今はここに泊まっていないんだったな?」


「はいなのです。最近宿屋は人気になって人も増えたので別の場所にセダンの街での活動拠点を作ったのです。」


 前はこの宿屋をセダンでの拠点としていた。

しかし何かと秘密が多いジル達なので、活動拠点を新たに移していた。


「浮島への扉も今はそちらに移しておる。それでもこの宿屋に食事に来る事は多いんじゃがな。」


「今まで料理はここから広めてもらってたから美味しい料理が食べたければここ一択なのです。」


「成る程な。泊まらなくても今後も利用させてもらう事にはなりそうだ。」


 知識の精霊であるシキが、今まで覚えた様々な世界中の料理を教えてくれているとリュカ達は思っている。

なのでここでなら思う存分異世界の料理を教えて再現してもらえる。


「それで新しい活動拠点とやらはどこにあるんだ?」


「ジル様とは前に近くを通った事があるのです。孤児院の近くなのです。」


「あの辺りか。」


 孤児院のある場所はスラム街とまでは言わないが、セダンでも多少貧しい者達が住む区画だった。


「広々と使えて土地の安い場所を探したらそこになったのです。」


 あの辺りは人が少なく廃墟や空き家が多かった。

安く土地を購入するだけならぴったりの場所だろう。


「今はそこに店を構えておる。シキ殿が浮島で実験している成果物の販売店じゃ。」


「前のドライフルーツとかか。」


「そうなのです。自分達で販売出来る店を構えたので他の商会に交渉する必要も無くなったのです。」


 前々から自分達で作った物を売る店を建てる予定はあった。

ジル達がいない間にそこまで話しが進んでいた。


「売り上げも順調で良い感じじゃぞ。そしてその店の二階に浮島への扉を設置してある。」


「食事が終わったら早速向かうのです。色々と話したい事が溜まっているのです。」


「それは我もだ。お互いの報告をしようではないか。」


 美味しい食事を存分に堪能してから、ジル達はセダンの街の拠点へと向かった。

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