元魔王様と浮島待機組の現状報告 3
前に孤児院を訪れた際にはあまり人通りのない区画だと思っていたが、久しぶりに戻ってきたジルからすると状況が一変していた。
新しい建物が幾つも建っており、セダンの街の中央通り程ではないが人もそこそこ行き交っている。
「ここも人が増えたんだな。」
「ジル様達がいなくなってからセダンには沢山人が訪れているのです。」
「シキ殿が広めた料理がセダンで広まり、他の街から人を集めておるのじゃ。今やセダンはグルメの街として他で有名らしいぞ。」
その料理はセダンだけに留まらずに他の街にも広まっている。
今や王都にもフライドポテトが広まっている程だ。
「その効果で滞在する者も結果的に増えている訳か。」
「セダンでも土地が余っている場所はあるのです。領主不在だったのであまり大きな動きはしてないですが、どんどん発展していってるのです。」
この辺りに建物が増えているのもその為だろう。
街全体が賑わうのは良い事だ。
「これから向かう拠点も発展に一役買っていると思うのじゃ。」
「店を開いているんだったな?」
「最近は大繁盛なのです。」
シキが飛びながら胸を張っている。
自分の店の商売が上手くいっておりご機嫌だ。
「ここらを行き交う者達は拠点の店目当てでもあるのじゃ。」
「成る程な。」
ジル達と同じ方向に向かう者、そして逆方向から向かってくる者が多いのはそれが理由だ。
「話していたら見えてきたのです。」
「ほう、随分と賑わっているな。」
「人が沢山なの。」
かなりの人だかりが出来ている店が見えてくる。
どうやらあれが拠点らしい。
店員達が大急ぎで動いている。
「表は店の邪魔になるので裏から入るのじゃ。」
ナキナに案内されて店の裏手に移動して中に入る。
「あれ?兄ちゃん?」
「ん?確かお前はベルだったか?」
扉を開いて中に入ると見覚えのある子供がいた。
孤児院の子供であり、昔盗みを働いたのを捕まえた事があるベルと言う少年だ。
「うん、久しぶりだな兄ちゃん。遠出してたって聞いたけど今帰ってきたんだな。」
「そうだ。ところでこんなところで何をしてるんだ?」
見たところ客と言う訳では無さそうだ。
「ジル様、この子は従業員なのです。」
「従業員?」
「前に孤児院を助けてくれただろ?それで俺達も兄ちゃん達に恩返しがしたくて、精霊様が人手を探してるって聞いて雇ってもらってるんだ。」
「孤児院の年長組、神父、シスターが店を手伝ってくれているのです。シキは商品を補充するだけで勝手に売ってくれるから楽ちんなのです。」
ベルだけで無く孤児院全体的にシキが店員として雇い入れているらしい。
なのでシキが商品の補充を行うだけで店は回り続ける。
「俺達も商品を売るだけで高い賃金を貰えるから助かってるんだ。今じゃあの頃の貧困生活が嘘みたいで、皆笑顔で暮らせてるよ。」
そう言って笑うベルの表情もあの頃に比べると幸せそうに感じる。
今はしっかりと食べれているのか、身体付きも健康そうだ。
「それは良かったな。これからもシキの頼みを聞いてやってくれ。」
「うん、そろそろ交代の時間だからいってくるよ。」
ベルが店先に戻っていく。
楽しんで仕事をしてくれている様で何よりだ。
「中々上手く商売しているみたいだな。」
「どっちも得してる良好な関係なのです。」
「妾達の代わりに売ってくれるから時間も確保出来て助かっておる。」
「それじゃあ浮島に行くのです。扉はこっちなのです。」
案内されたのは店のある一階から階段で登った二階にある部屋だ。
扉には関係者以外立ち入り禁止と書かれている。
「孤児院の人達にもここは入ったら駄目って言ってるのです。シキの秘密の部屋なのです。」
信仰の対象である精霊の秘密がある部屋と言えば、興味はそそられるが恐れ多くて触ろうとしない者の方が多そうだ。
「様々な重要書類があると言う設定にしておる。人の目にあまり触れさせたくないと説明したら皆納得してくれたぞ。雇い主に迷惑は掛けたくないと言ってのう。」
「それなら安心して扉を設置出来るな。」
孤児院の者達も恩を仇で返す様な事はしてこないだろう。
その点でいくと信用出来る者を雇えていて安心だ。
「ほう、中々広いな。」
「実際にここで店関係の仕事をする事もあるのです。だから扉以外は仕事道具も多いのです。」
部屋の中は豪華な執務室と言った感じでかなり広めに作られている。
地上の拠点でもあるので、仲間達が不自由無く寛げる程度の部屋にはなっている。
「扉はそれじゃな。内装には拘っておるからインテリアに見えなくもないじゃろう?」
「確かにな。」
壁に設置されているのが浮島へ続く魔法道具の扉だ。
装飾の一つにも見えるのであまり違和感は無い。
「久しぶりの浮島か。」
「楽しみなの。ハニービー達も一緒に付いてくるの。これからの住処なの。」
ホッコの言葉に了承する様に頭の上を旋回している。
どれくらい変わったのか楽しみにしつつ、ジルは浮島への扉を開いた。
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