60章

元魔王様と浮島待機組の現状報告 1

 スライムを無事にテイムしたジル達は村を出発してセダンを目指す。

そして出発した時よりも時間を掛けてついにセダンに戻ってきた。


「皆さん、そろそろセダンの街に到着します。」


 御者をしているシズルが馬車の中へと声を掛ける。

すると全員がようやく到着かと身体を起こしたり背伸びをしたりしている。


「やっと門が見えてきたわね。」


「久々な感覚だな。」


「それはそうだよ、3ヶ月以上も離れていたんだからね。はぁ、この期間に溜まった仕事が待っていると思うと憂鬱だよ。」


 一人だけこの後に大量の仕事が待っている事が確定しており、深い溜め息を吐いている。


「トゥーリ様、私もお手伝いしますから頑張りましょう!」


「そうだね、エレノラにはこれからも世話になるよ。」


「お任せ下さい!」


「本来の仕事は護衛なのですから、そちらをしっかりとお願いしますね?トゥーリ様の仕事のお手伝いはまだまだ先の話しです。」


 先ずはトゥーリの護衛をしっかり務まる様に覚える事が沢山ある。

領主の仕事が手伝える様になるのはそれらが終わってからだ。


「まあ、そうなるよね。キュールネが手伝ってくれたりは?」


「私にもやる事が沢山ありますから。それに領主のトゥーリ様にしか出来無い仕事も多いです。暫くは屋敷から出られませんね。」


「はぁ~。」


 キュールネの言葉を聞いて更に深い溜め息を吐いている。


「貴族とはやはり面倒だな。」


「私も前に領地を貰える機会があったのだけどトゥーリちゃんの事を知ってたから遠慮したわ。絶対に面倒だと分かっていたもの。」


 トゥーリの今のやり取りを見て絶対に貴族の様な立ち位置になるのは遠慮したいと冒険者組が心に誓う。


「護衛の延長として君達が手伝いに名乗りを上げてくれてもいいんだよ?」


「「却下(よ)。」」


「だよね。」


 分かってはいたが大量に溜まった仕事は自分で片付けるしかなさそうだ。

現実逃避したいがこれも当主の責務である。

そうこうしている間に馬車は門に到着する。


「お疲れ様です。ただいまトゥーリ伯爵様が無事に戻られました。」


「やあ、留守の間もセダンを守ってくれてありがとう。」


 シズルに続いて馬車の窓から顔を出して門番に挨拶をする。


「トゥーリ様、お帰りなさいませ!」


「トゥーリ様が戻られたぞ!」


「街中に知らせを!我らが領主様のご帰還だ!」


 トゥーリを見た門番達が大いに盛り上がっている。

何人かは領主の帰還を知らせる為に街に走っていった。


「大人気だな。」


「領主のお膝元だものね。それにトゥーリちゃんは立場に関係無く接してくれる貴族として親しまれてるし。」


「有り難い事だよ。」


 自分の為に嬉しそうに騒いでくれている領民達を見てニコニコと微笑んでいる。


「それではトゥーリ様、お通り下さいませ。無事のご帰還お待ちしておりました。」


「うん、いつもお疲れ様。」


 直ぐに手続きが終わって馬車が門を潜る。

すると既にトゥーリ帰還の知らせを聞き付けた領民達によって道が出来ているくらいの歓迎ぶりだ。


「やれやれ、人気者の近くは疲れるな。」


「そうね、私達は報告もあるしギルドで降りましょうか。」


「そうかい?それじゃあシズル、ギルドの前で止めてもらえるかな?」


「了解しました。」


 街中を進んでいき馬車はギルドの前で止まる。

預かっていた荷物を無限倉庫から取り出して馬車を降りる。


「二人共、長い間の護衛助かったよ。君達のおかげで安全に楽しく過ごす事が出来た。またいつか護衛の機会があったら宜しくね。」


「考えておこう。」


「あら?もうこんな長期間の依頼は受けないとでも言うかと思ったわ。」


 ジルの返答にラブリートが意外そうな表情で言う。


「我もそれなりに楽しめたからな。たまには出掛けるのも悪くないと思ったのだ。」


「面倒事もあったけど有意義な旅だったものね。ジルちゃんの気持ちも分かるわ。」


 セダンにいては味わえない体験が多かった。

たまにする旅と言うのも良いものだ。


「それじゃあ私は屋敷に戻るよ。またね。」


 そう言い残してトゥーリ達は屋敷へと馬車で帰っていった。


「それじゃあ報告に向かいましょうか。」


「そうだな。」


 ジル達がギルドの扉を開いて中に入る。

するとそれを待っている者達がいた。


「お帰りなのです!」


「二人共、久しぶりじゃのう!」


 出迎えてくれたのはシキとナキナだ。

毎日の様に顔を合わせていたので数ヶ月会っていないだけで数年振りにも感じられる。


「お前達、わざわざ出迎えてくれたのか?」 


「昨日到着すると聞いたから待ってたのです!」


「妾達も早く会いたかったからのう。」


 シキとは定期的に意思疎通によるやり取りを行なっていた。

昨日もそれで明日のこの時間帯には到着しそうだと報告していたのだ。

それを聞いて出迎えてくれたらしい。


「数ヶ月振りだものね。報告は私に任せてジルちゃんは仲間達とゆっくり過ごすといいわ。」


 気を遣ってラブリートが依頼の報告を引き受けてくれるらしい。


「そうしてあげて下さい。お二人共、お疲れ様でした。」


 ラブリートの言葉に続いてやってきたのは、セダンの担当受付嬢であるミラだ。


「ミラも久しぶりだな。」


「ジルさん、お帰りなさい。後はラブリートさんから聞いてこちらでやっておきますから暫くはゆっくりして下さい。」


「そうか?では悪いが任せるとしよう。また落ち着いたら顔を出す。」


 ミラとラブリートに後の事を任せてジル達は宿屋へと向かった。

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