元魔王様とスライムテイム 9

 キングスライムを手懐けたので村が危険に陥る心配も無くなった。

自領の民達の安全を確保する事が出来てトゥーリも満足そうにしていた。


 その日はもう引き上げる事にしてジル達は村に戻って馬車で休んだ。

充分な睡眠を取ってジルが一番最初に目覚める。


「ふわぁ、朝か。」


「むにゃむにゃ…もう食べられないの。」


 隣りでは幸せそうな寝顔のホッコが寝言を呟いている。


「ホッコ、朝だぞ。」


「ん。」


 軽く揺すってホッコを起こす。

放置しておくと出発するまでずっと眠っていそうなので、自分が起きるタイミングで起こすのが日課になっている。


「ふわ~、おはようなの主様。」


「ああ、おはよう。今日は朝から出発らしいから早めに起きていた方がいいぞ。」


「まだねむねむなの…。少し身体を動かしてくるの。」


「ならば我も付き合おう。」


 ホッコが眠気覚ましに身体を動かすと言うのでジルも付き合う事にした。

馬車から降りて二人で身体を軽く動かしてランニングを始める。


「朝から活動している者が多いな。」


 二人は村から渓谷に向かってランニングをしている。

早朝から渓谷は人が多く活動していて賑わっている。


「スライムがいっぱいなの!」


「そう言えばホッコは留守番していたから見ていないのか。」


「そうなの!こんなに見たのは初めてなの!」


 渓谷の中を動くスライム達を見てホッコが目をキラキラと輝かせている。

スライムは遠目から見る分には可愛いので癒される。


「トゥーリとラブリートがそれぞれテイムしたから後で移動時間にでも遊ばせてもらうといい。」


「ライムとどっちがプルプルか検証するの!」


 ライムと別れてそれなりに時間が経つ。

久々にスライムと遊べるのが楽しみな様子だ。


「…ぉーーーい!」


「ん?」


「どうした?」


「主様、あっちから声が聞こえるの。それに何人かの冒険者がこっちに走ってきてるの。」


 ホッコが指差したのは渓谷に降る道がある方角だ。

ジルの視界にはまだ見えない距離だが、魔物であるホッコには走ってきている人が見えている。

少しするとジルにもその様子が見えてきた。


「お、我にも見えてきたぞ。随分と必死だが何かに追われているのか?」


「特に何も見えないの。」


「本人達に話しを聞くのが一番だな。」


 向こうもジル達目指して一直線に走ってきているのでランニングを中断して待っていると、直ぐに冒険者達が辿り着いた。


「どうかしたのか?」


「はぁはぁはぁはぁ。」


「落ち着け、ほら水だ。」


 かなりの全力疾走だったので息を切らしていて何も言葉にならない。

ジルが無限倉庫から水を取り出して人数分渡してやると全員が勢い良く口に流し込む。


「ぷはぁ、生き返った。」


「すまない、感謝する。」


「それで何があった?」


 この慌て様はただ事では無さそうだ。


「あ、ああ。俺達は徹夜でスライム狩りをしていたんだが、突然渓谷に魔物が飛び込んできてな。」


「魔物?スライム以外の魔物か?」


 この渓谷辺りにはスライムが大量発生した事により他の魔物が寄り付かなくなっている。

ジル達も昨日スライム以外の魔物は見ていない。


「そうだ、初めて見る魔物だったが、口から触手を伸ばしてて甲殻に包まれた丸型の魔物だ。」


「そいつがスライムに触手を突っ込むと、まるで飲み物を飲むみたいに身体を吸い取っていったんだ。」


「見る見るスライムの身体が小さくなって、残ったのは魔石だけだった。」


「ふむ、特徴を聞いてもピンとはこないな。」


 冒険者達が口々に魔物について説明するがジルの記憶にそんな魔物はいない。

新種の魔物かジルが知らないくらい珍しい魔物なのかもしれない。


「初めて見る魔物だったが獲物を横取りしやがったからな。遠距離から魔法を浴びせてやったんだが硬い殻に守られてピンピンしてやがった。」


「あのままだとスライムが全滅させられちまう。」


「それは村人達も困るか。」


 せっかくスライムのおかげで村も賑わっているのに、そのスライムがいなくなってしまえば普通の村へと戻ってしまう。


「主様、眠気覚ましに倒しにいくの!」


「そうだな、出発までには時間があるだろうし。」


 ホッコが気合いを入れて渓谷を指差して言う。

ジルも魔物一体倒すくらいならそれ程時間が掛からないので同意する。


「お、おい大丈夫か?危険な魔物かもしれないんだぞ?」


 自分達では歯が立たなかった魔物だったので少し心配そうな視線を向けてくる。


「大丈夫なの、主様に倒せない魔物はいないの!」


「まあ、少し戦ってみて不利だと感じたら撤退する。村にいる他の者達への伝言は任せるぞ。」


 ホッコが魔物狩りをする気満々なので、倒せそうになければ変わればいい。


「分かった、渓谷のその付近には俺達以外に人はいなかったから人的被害は気にしなくていいぜ。」


「倒せるなら倒してくれると助かる。」


 冒険者達としてもスライムを狩り放題なこの渓谷が無くなるのは困る。

ジル達が対処してくれれば有り難いと思っている。


「一先ず魔物を見にいくか。」


「出発なの!」


「気を付けてな!」


 冒険者達に見送られながら魔物がいると言う場所を目指してジル達は走って向かった。

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