元魔王様とスライムテイム 10

 冒険者達が魔物を目撃した地点に近付いていくと昨日まで沢山いたスライムが殆どいなくなっていた。


「随分と昨日に比べて少ないな。一日でこの変わり様とは。」


 魔物が他の魔物を食べる事は普通にある。

弱肉強食の世界なので自然な事だ。

しかしこんな短時間でこれだけのスライムを食べる魔物がいるとは聞いた事が無い。

プレデタースライム以上の捕食者がいる様だ。


「魔物が全部食べちゃってるの?」


「そうかもな。スライム目的で来た者達からすればいい迷惑だろう。」


「村人も困っちゃうの。スライムのおかげで村が活気あるって昨日村人の皆が言ってたの。」


 このままでは渓谷内にいるスライムが全て食い尽くされてしまうかもしれない。

せっかくキングスライムを説得したのに全て食われては無駄になってしまう。


「そろそろだな。」


「いたの!」


 教えられた場所に近付くとホッコが遠くを指差して言う。

今正にスライムを捕食している魔物がいた。


「ほう、我も初めて見る魔物だ。」


「ホッコもなの。」


 ジルは万能鑑定を魔物に使う。


「名前はスライーター、適性魔法やスキル構成は…ってなんだこの数は?」


「主様、どうかしたの?」


「魔物の持っている魔法とスキルが多くてな。かなりの高ランクの魔物か?」


 普通の魔物ではあり得ない数の適性とスキルだ。

先ず低ランクの魔物と言う事は無さそうだ。


「いや、成る程。原因はこのスキルか。」


「何か分かったの?」


「強奪(スライム種)と言うスキルを持っている。倒したスライム種から強制的に魔法適性やスキルを奪うスキルみたいだな。ライムの持つ変化吸収と似ている。」


 食べたスライムから奪っているとしたらこの数も納得だ。

キングスライムが多種多様なスライムを召喚していたせいで、とんでもない数を奪っている。


「色んなスライムがいるとすっごく強くなっちゃうの!」


「そうだな、こいつを放置しておくと村人も危険だろう。かなり広範囲を空間把握で探ったがスライーターはあいつだけだな。」


 他にも同種の魔物がいるかと思ったが相手は目の前の魔物だけだ。

放置するには危険な魔物である。


「それならホッコが戦うの!初めての魔物との戦いなの!」


「いいだろう、我は援護に回ろう。だが油断するなよ?」


「了解なの!」


 ホッコが戦いたいと言うので送り出す。

初めての相手との戦闘はとても経験になるのでホッコにはどんどんやらせてあげたい。


「スライーター、勝負なの!」


「ジュルル!」


 ホッコの声に反応して食事を中断する。

触手を何本も伸ばして涎を撒き散らしている。


「うえー、気持ち悪いの。」


「ジュルッ!」


 スライーターが触手をホッコに向かって伸ばしてくる。


「その触手には気を付けるんだ。かなり伸びるみたいだぞ。」


「アイシクルエンチャントなの!とりゃーなの!」


 氷結魔法で強化された龍聖剣で触手を攻撃する。

すると触れた触手が凍って動きが止まる。


「触手が凍っている今の内なの!」


 ホッコが触手の横を通り抜けてスライーターに一気に接近する。


「とりゃーなの!」


 氷を纏った龍聖剣をスライーターの甲羅に向かって振り下ろす。

すると甲高い音を鳴らして龍聖剣が跳ね返された。


「かったいのー!?」


「ジュルッ!」


 今度は動きが泊まったホッコに向かってカウンターとばかりに、至近距離から様々な魔法をスライーターが放ってくる。


「断絶結界!」


 ジルがホッコを中心に結界を展開する。

全ての攻撃が結界に阻まれてホッコには届かない。


「主様、ありがとうなの。」


 体制を整えて再び武器を構える。


「ホッコ、あの殻は防御系のスキルも相まって相当な強度だ。先ずは魔法で動きを止めるんだ。」


「了解なの!魔法の訓練は怠っていないの!」


 ホッコが魔法を発動させようとスライーターに掌を向ける。


「ジュルッ!」


「少し大人しくしていろ、フォースディクライン!」


「主様の魔法で遅くなったの!これなら回避は余裕なの!」


 新たに伸ばされた触手を回避しながら狙いを定める。


「中級雷霆魔法、ライトニングなの!」


「ジュル!?」


 スライーターがホッコの魔法の直撃を受ける。

龍聖剣によって魔法の威力が強化されており、かなりの効き目の様だ。


「これで痺れて身動きが取れないの!アイシクルエンチャントなの!」


 再び氷結魔法で強化し直してスライーターに飛び掛かる。


「受けてみるの!龍爪なの!」


 先程は攻撃が弾かれたので、龍聖剣のスキルを使った全力の攻撃を叩き込む。

ホッコの剣が当たって弾かれた後に、スキルによる追撃がスライーターの甲羅をバキバキと粉砕して身体を斬り裂く。


「…ジュ…ルル。」


 スライーターは予想外の攻撃に致命傷を負って地面に倒れる。

さすがに龍の攻撃に耐えられる力は無かった様だ。


「とんでもない威力だな。まさかあの硬そうな殻も粉砕してしまうとは。」


「やっぱりこの剣は最強なの!」


 ホッコが自慢の龍聖剣をブンブンと振り回しながらご機嫌に言う。


「これで魔物も倒せたし回収して帰るとするか。トゥーリ達も起き出して準備をしている頃だろう。」


「了解なの。」


 無限倉庫にスライーターを回収したジル達は眠気もすっかり吹き飛んだので村に戻る事にした。

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