元魔王様とスライムテイム 4

 村はスライム目的で外から来た人が多い。

そしてジル達が乗っているのは貴族の馬車なので、万が一盗まれる事を考慮して見張りを残していく必要があった。


 ハニービー達もいるのでホッコ、シズル、エレノラを残してジル達は渓谷に向かう。

渓谷に辿り着いたジル達は安全なルートから下へと降りていく。


「人もスライムも多いわね。」


 見渡す限り渓谷内にはどこにでもいると言った感じだ。

スライム目的で訪れている者がこれだけいれば村が賑わうのも当然だろう。


「本当に選びたい放題って感じだね。」


「だがこの辺りは特に珍しいスライムもいない。さっさと奥に進むぞ。」


「そうだね、先頭はジル君に任せるよ。」


「分かった。」


 ある程度スライム種のいる場所が分かれていると言っても、数が多いスライムの中から目的のスライムを見つけるのは難しい。

なのでジルは最初から空間把握の魔法を使って探しながら進んでいく。


「それにしてもこの辺りでスライムを相手にしている人達は何が目的なのかな?」


 比較的どこでも見られるスライムもいるので、わざわざ相手にする必要は無いと感じる。


「危険なスライムが少ないから戦闘訓練に丁度良いのではないか?」


「あまり戦闘に慣れていない人でも倒せるスライムだから、魔石でお金稼ぎにもなるのかもしれないわね。」


「村でも素材や魔石の買い取りはしていました。そこまで高くはありませんが、纏まった数を集めればそれなりの額になりますし、何よりも人が多いので安全面が保証されているのが大きそうですね。」


「確かに村人の姿もちらほら見掛けるしね。」


 ここには村人や若い子供も多い。

安全に魔物との戦いや小銭稼ぎが出来るので初心者に人気な場所の様だ


「この辺りからは少しスライムも強くなる。トゥーリ、油断するなよ。」


「了解だよ。」


 渓谷を進んでいくと普通のスライムが少なくなり、特殊なスライムが多くなってくる地帯に差し掛かる。

油断をすると怪我をするので注意しておく。


「おっ、さっきの話しに上がったバーニングスライムだな。」


「格好良いスライムじゃないか!」


「トゥーリ様、危険ですからあのスライムは駄目ですよ。」


 燃え盛るスライムに興味を示したトゥーリの肩をキュールネが掴んで止めている。


「あら、あのスライムのいる地面が凍っているわ。フロストスライムじゃないかしら?」


「おおお、身体はカクカクしているのに柔らかそうな不思議スライム!」


「トゥーリ様、これ以上近付くとお身体に触ります。」


 今度は冷気を振り撒くスライムに近付こうとしたトゥーリをまたもやキュールネが止める。


「キュールネ、君は心配性だね。そんな事じゃテイムは出来無いよ?」


「トゥーリ様が危ないスライムばかり選ぶからです。もっと安全なスライムにして下さい。」


「そう言われても私には安全なスライムかどうかなんて分からないんだけど。」


「あれなんか安全そうじゃないか?」


 ジルが万能鑑定で確認したスライムを指差して言う。

目的のスライムを空間把握で見つけてこの場所まで誘導してきたのだ。


「白いスライム、初めて見るよ。」


「私もです。希少なスライムでしょうか?」


 トゥーリとキュールネが白い色のスライムに興味を示す。

珍しいスライムなのは間違い無い。


「あれなら昔見た事あるわよ。」


「ラブちゃん、どんなスライムか教えてもらえるかい?」


「トゥーリちゃんのお目当ての子よ。光魔法か神聖魔法が使える筈だわ。」


「おおお!早速出会えるとは幸運だよ!」


「そうね。」


 ラブリートがチラリとジルに視線を向けるが気にしないでおく。

ジルが様々な魔法適性を持っている事をラブリートは知っているので、何かしらの魔法で見つけたとでも思っているのだろう。


「それでどうやってテイムするつもりなんだ?何か武器でも貸せばいいのか?」


「魔物をテイムする方法は何も武力だけじゃない。それに私は自慢じゃないけど全然戦闘出来無い。」


「「知っている(わ)。」」


 トゥーリは大人びた性格ではあるが見た目は子供だ。

貴族として机仕事は得意だが戦闘は全く専門外なのである。


「まあ、そう言う事だから別の方法を使うつもりだよ。準備はしてきているからね。」


 トゥーリがそう言ってキュールネに視線を向けると魔法道具の鞄からお皿を取り出した。


「それは肉か?」


「ワイバーンの肉を使ったステーキだよ。昨日キュールネに作っておいてもらったんだ。」


 お皿の上に乗るワイバーンのステーキ肉から暴力的な匂いが辺りに漂う。

思わず涎が出そうになる。


「美味そうだな。」


「ジル君にあげる為に用意したんじゃないからね?今回はあげないよ?」


 ジルの視線から隠す様にお皿を抱える。

食欲に負けたジルに奪われたらテイムの為に用意したお肉なのに、あっという間に胃袋の中に消えてしまう。


「ステーキでテイムね。スライムは雑食だけど気にいるのかしら?」


「村で聞いた情報だと結構お肉でテイムしたって言う人が多かったよ。それが高級肉ならきっと楽勝さ。」


 トゥーリはステーキの乗ったお皿を持ちながらスライムに近付いていった。

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