元魔王様とスライムテイム 5

 餌付けでテイムしようとトゥーリが近付いていく。

もしスライムが攻撃の意思を見せた時の為に他の者達はいつでも動ける様にしている。


「スライム君、美味しいお肉だよ。」


 トゥーリが白いスライムに近付いてお皿を地面に置く。


「お、ステーキに気付いた様だね。」


 お皿へとゆっくり這い寄ってくる。


「トゥーリ様、油断なされないで下さい。突然攻撃されるかもしれません。」


「わかってるよ。」


 直ぐに動ける様にしておきながらスライムを観察する。

トゥーリとの距離が近いが、白いスライムからは敵意を全く感じないので問題無さそうだ。


「おー!食べてる食べてる!」


 ステーキの下までやってきた白いスライムは、お皿ごと体内に入れてシュワシュワと音を立て始めた。


「食べてるのかしら?どちらかと言うと溶かしているわよね?」


「スライムの食事は溶かす事なのだから食べているとも言えるだろう。」


 スライムは雑食なので基本的には何でも溶かして食べる。

だが個体によって好物があるのは分かっている。

シキの従魔であるライムも人族が食べている様な普通の食べ物を美味しそうに食べる時があるのだ。


「情報通りにお肉が好きなのかしら?」


「どうだろうな。食べ終わった後の反応次第だ。」


 時間を掛けてステーキとお皿を溶かして食べている。

数分掛けて白いスライムの体内からステーキとお皿が消えた。


「美味しかったかい?」


 トゥーリが尋ねると白いスライムがぴょんと跳ねてトゥーリの懐に飛び込む。

突然で驚いたがトゥーリは優しく受け止める。


「トゥーリ様!?」


「大丈夫だ、攻撃と言うよりは懐いただけだ。」


「そ、そうでしたか。」


 ジルに言われて慌てていたキュールネが落ち着く。

従者としては心臓に悪い行為だった。


「プルプルでひんやりしてて触り心地が良いね。」


 白いスライムを撫でながらトゥーリが感想を呟いている。

その間ずっと大人しく撫でられている。


「これはテイム成功なのかしら?」


「ステーキは気に入ったんじゃないか?後は名付けをしてスライムが受け入れるかどうかだな。」


 テイムを完了させるには魔物側が従魔になってもいいと思いながら名付けを受け入れる必要がある。


「名付けか。どんな名前がいいかな?」


 少しの間白いスライムを見つめながらトゥーリが思案する。


「決めた、君の名前はシロルだ。シロル、私の従魔になってくれないかな?」


 トゥーリが尋ねると白いスライムが腕の中でポヨンポヨンと揺れ動く。

そしてお互いの身体が淡く光った。

トゥーリの名付けを受け入れたのだ。


「テイム成功の様だな。」


 万能鑑定を使って確かめたので間違い無い。


「やった!ついに私にも従魔が出来たんだ!」


「トゥーリちゃん、よかったわね。」


「トゥーリ様、おめでとうございます。ご無事に終えられてよかったです。」


「シロル、後でまた美味しいお肉をあげるからね。」


 その言葉にシロルが嬉しそうに揺れている。


「さて、次はどんなスライムをテイムしようかな…ってうわ!?シロルどうしたの?」


 突然シロルが腕の中で激しく揺れ始めた。


「直ぐ浮気するから怒っているんですよ。」


「えっ?そうなの?」


 肯定する様にシロルが優しく揺れる。


「ご、ごめんよシロル。そんな気は無いから許してくれ。」


「ではテイムは終了ですね。」


「シロルがこの調子なら仕方無いね。次はラブちゃんの番にしよう。」


 せっかくテイムしたばかりのシロルに嫌われたくはないので追加のテイムは諦める事にした。


「サポート系のスライムが欲しいと言っていたな?」


「闇魔法か呪詛魔法を使えると嬉しいわね。」


「ならばもう少し奥に進んで探してみるか。」


 空間把握で近くにいない事は分かっている。

いるとすれば渓谷の更に奥だろう。


「ん?誰か倒れているぞ?」


 渓谷を進むと地面に横たわっている人を見つける。


「怪我でもしたのかな?大丈夫ですか?」


「ああ、別に疲れて休んでるだけだから気にしなくていいぞ。」


 力無くそう言って手を振ってくる。


「強いスライムでも現れたか?」


「この辺りに戦闘で手こずる様な強いスライムはいない。苦戦してるのは速度の方だな。」


「速度?」


「あっちの岩陰に金色のスライムがいるのが見えるか?」


 指差された岩の近くで金色のスライムが跳ねている。


「いるわね。」


「あれと銀色のスライムはかなりの希少種らしくて捕獲の依頼が出されている。でも素早くて中々捕まえられないんだ。」


「何か魔法でも使って逃げ場を狭めれば?」


「あのスライムには魔法が効かないんだ。だから自力で捕える必要がある。」


 魔法が効かない魔物と言うのも珍しいが存在する。

高ランクの魔物に有りがちなので、あの金色のスライムもそれなりにランクが高いのかもしれない。


「それでスライムに速度負けして、疲れて倒れていた訳ね?」


「そう言う事だ。他にも珍しいスライムは沢山いるからターゲットを変えてもいいんだがな。」


 この渓谷には多くの種類のスライムが存在する。

捕まえられないスライムに拘る時間が勿体無い。


「結構見て回っているのかしら?」


「長期間滞在しているからな。渓谷の内情は中々詳しい方だと思うぞ。」


「だったら闇魔法か呪詛魔法を使えるスライムを知らないかしら?」


「当然知っているぞ。」


 空間把握を使えば探せるのだが、情報が手に入るならそれを頼りに見つけるのでも構わない。


「だったら交換条件よ。私があの金色スライムを捕まえてあげるから情報をもらうわ。」


「捕まえられるなら構わないぞ。」


 普通に渓谷を回れば簡単に手に入る情報だ。

それを話すだけで希少なスライムを入手出来るなら安いものであると冒険者は考えていた。


 ラブリートが金色スライムを視界に捉えて全身を魔装する。

次の瞬間、その場からラブリートが消えて、離れた場所で金色スライムを捕獲しているラブリートがいた。


「はい、これで教えてもらえるわね?」


「たった数秒で…。俺の苦労は一体…。」


 無事に交換条件を満たしてスライムの情報を聞き出す事が出来た。

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