元魔王様と温泉の町 6
案内された幾つかの場所を回って黒鋼岩を無限倉庫に収納していく。
わざわざ破壊しなくても収納するだけで終わるのでとても楽な依頼である。
「まさか我々の困り事をこんなに簡単に解決してもらえるとは思わなかったわ。」
自分達の悩みの種であった黒鋼岩を簡単に消していくジルを見て呆れている。
「でも姉さん、これ程の容量を持つ収納系スキル持ちなんて滅多にいないですよ。現実的なのはやはり壊せる人を見つける方だと思います。」
「と言ってもこんなに硬い岩を壊せる人ってかなり限られるわよ?また黒鋼岩で困ったらこのお兄さんに依頼するしかないんじゃない?」
確実に対処出来るジルを知ってしまったので、わざわざ他に対処出来る者がいないか探す為の労力が大変だ。
それなら黒鋼岩で行き詰まった時に指名依頼を出したい。
「一応この町に今訪れている我の同行者の一人も壊せるとは思うぞ。」
国家戦力にして近接戦闘に長けたラブリートであれば、この硬い岩をも砕ける力はあるだろう。
「えっ!?こんなに硬い黒鋼岩を壊せる人がもう一人いるの!?」
「どんな規格外な集団なのか非常に興味がありますけど今は置いておきましょう。その方も冒険者ですか?」
「ああ、ラブリートと言う冒険者だ。」
「ラブリートって闘姫じゃないの!?そんな大物冒険者が来てたの!?」
ジルの言葉に町長が驚愕の表情と声を上げる。
女将の方も声は出していないが、その表情が驚きを物語っている。
元冒険者である二人なのでさすがにラブリートは知っている様だ。
「我と同じ宿に泊まっているぞ。」
「成る程、どこかで見掛けた覚えがあると思っていたのですが、まさかSランク冒険者の闘姫でしたか。」
「元冒険者なのに気付かなかったの!?」
妹を信じられないと言う目で見ている町長。
確かにラブリートの見た目は分かりやすいので、見た事があれば直ぐに気付けそうだ。
「筋肉がありながらも痩せ型の身体の方が気を引かれますから。」
「我が妹ながら相変わらず残念な性格。」
妹の唯一の欠点に溜め息を吐く町長。
そんな雑談をしながらも黒鋼岩の除去は順調に続いていき、最後の場所にやってきた。
「ここで最後よ。一番掘り進めている場所だったからなんとかしたかったのよね。」
「鉱山の深い位置だからかは分かりませんけど、この辺りは良質な温泉石が取れるんです。その分この辺りの魔物はそれなりに強いんですけどね。」
道中出会った魔物も鉱山の入り口に比べてランクが高かった。
と言ってもジルが苦戦する筈も無く、銀月で全て一刀両断されていった。
「この黒鋼岩を退かしたら依頼達成だな。」
ジルが黒鋼岩に触れて無限倉庫のスキルを使用する。
「お疲れ様、ってあら?」
「広い空洞?」
黒鋼岩が無限倉庫に収納されると、その先に空洞が現れた。
自然に出来た空洞かは分からないが、空洞内に大きな魔物が一体いる。
「明らかに強そうな魔物がいるわね。ここのボスと言ったところかしら?」
「あの魔物の後ろにも道が続いていますね。通る為には倒していけと言う事でしょうか?」
まるでそれを守る様に魔物の背後に道が続いている。
無視して通るのは無理そうだ。
「くうー、冒険者魂をくすぐる光景ね!温泉石以上のお宝や希少鉱石があるかもしれないわよ!」
魔物の後ろに続く道を見て町長が目をキラキラと輝かせている。
長く眠っていた冒険者としての気持ちが蘇ってきている様だ。
「是非見てみたいですけど、姉さんや私に倒せる様な魔物ではないみたいですよ?」
待ち構えている魔物はいかにも強そうなゴーレムだ。
町長達の装備では耐久負けしてしまうだろう。
「そんなの分かってるわよ。でもここに優秀な冒険者がいるじゃない?」
「あれを倒せと?依頼は黒鋼岩の除去だった筈だが?」
期待のこもった視線を向けてくる町長だが、魔物の討伐は依頼の範囲外だ。
「貴方も冒険者ならあの先が見たいとは思わないの?」
「別に思わんな。」
温泉石が手に入ればジルとしては他に必要な物は無いので現状の依頼でも充分ではある。
「冷めてるわねー。いいわ、報酬の温泉石の量を増やすって事でどう?」
「ふむ、量か。確かこの辺りは質の良い温泉石が取れると言っていたな?」
現状でも充分だがどうせなら質の良い物が欲しい。
そうすれば浮島に作る温泉の質も上がるだろう。
「分かったわよ、量も増やすし質の良いのを優先して回してあげる。だからもう少しだけ付き合ってちょうだい。」
「交渉成立だな。」
ジルは想像通りの返答をもらえて満足したので、姉妹の前に歩み出て腰から銀月を抜いた。
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