元魔王様と温泉の町 5

 町長と女将に案内されて温泉石が採掘出来ると言う鉱山に向かう。

二人共冒険者時代の格好に着替えて準備万端だ。


「武器も装備しているところを見ると、それなりに魔物も出てくるんだな?」


「はい、殆どがDランクで一番掘り進めている場所でCランクくらいでしょうか。」


「これでも元Bランク冒険者だからね。それくらいの魔物なら問題は無いさ。」


 土地をもらえるだけの活躍をしたと言うので高ランクの冒険者だとは思っていた。

Bランクならその辺の魔物に苦戦したりはしないだろう。


「そのBランクでも壊せない岩があるのか。」


 高ランク冒険者が全員攻撃力に特化している訳では無いがそれ相応の力は持っている筈だ。

それでも壊せないとなると少し特殊な岩なのかもしれない。


「私達は火力重視と言うよりは速度重視の冒険者でしたから、壊せる程の力が無いのかもしれません。」


「それでも装備はそれなりの物を持っていて何度かチャレンジはしているんだけどね。」


 二人の装備を見ても中々質の良さそうな物を揃えている印象だ。


「そろそろ到着するよ。」


 先の方に採掘作業をしている者達が見えてくる。


「お疲れ様です、皆さん。」


「町長様に若女将さんじゃないか。」


「わざわざこんな場所まで来るとは、岩の対処方法でも思い付いたのか?」


「ん?あんたこの町の人族じゃないな?二人に付いてるって事は雇われたのか?」


 作業を中断して現場の男達が尋ねてくる。


「その通りです。岩の破壊役として現役の冒険者の方を雇いました。報酬に温泉石を渡す事になっていますが、採掘する場所が広がれば私達にとっての利益は計り知れません。」


「まあ、そもそも破壊出来ればの話しだけどね。」


 町長がそう言って視線を向けた先には巨大な黒い岩がある。

人が余裕で通れる通路を丸ごと塞ぐ程大きい。


「それが噂の岩か?」


「ああ、この黒岩が信じられないくらいに硬くてな。少し見てな。」


 ドワーフの一人が自分の身の丈よりも大きなハンマーを担いで振りかぶる。


「ふんっ!」


 ハンマーを当たる直前に魔装させて威力を高めて岩を叩く。

かなりの衝撃が洞窟に響くが黒岩は表面が少し欠けた程度だった。


「魔装したハンマーでぶっ叩いてもこの程度だ。こんな大岩を破壊するとなるとどのくらい時間が掛かるか分からない。」


「成る程、確かにかなりの硬度を持っていそうだな。」


 ジルも初めて見るので万能鑑定のスキルを使用してみる。


「黒鋼岩か。自然の魔力を吸収して硬度を高める岩石だな。」


 さすがに硬度の限界はあると思うが魔力は大抵どんな場所にも存在しているので、信じられないくらいに硬くなっているのだろう。


「ほほう、そんな名前だったのか。」


「鑑定系の魔法道具かスキルか?便利だな。」


「これなら武器なんかにも使えるんじゃないか?」


 男達が黒鋼岩の特性から何かに使えないかと真剣に話している。


「形にするだけでもかなり大変だと思うぞ?加工出来れば頑丈な武器にはなりそうだけどな。」


「それでどうだい?壊せそうかい?」


「やってみよう。少し離れていてくれ。」


 ジルが皆を離れさせてから銀月を抜いて魔装する。


「ふっ!」


 勢いよく振るった銀月で黒鋼岩を斬り付ける。

すると表面にハンマーの時とは違って大きな亀裂が刻まれた。


「すごい!岩に大きな亀裂が!」


「もう一回くらい斬ればいけそうじゃないですか!」


「はっ!」


 ジルが再度銀月を亀裂に目掛けて振るうと、亀裂が黒鋼岩全体に広がっていき、幾つもの岩へと分かれて崩れた。


「「「おおお!」」」


「さすがですね。依頼して良かったですよ。」


「ナイスよ。良い冒険者を連れてきてくれたわ。」


「町長、では早速始めます。」


「ええ、お願いね。」


 斬られた黒鋼岩を運んで退かせば通路の進行を妨げる物は無くなる。

男達は更に下へと掘り進めていく。


「思ったよりも硬かったがなんとか斬れたな。」


「素晴らしい剣の腕前でした。他の黒鋼岩もお願いしますね。」


 ジルであっても簡単に斬れない岩がまだまだある。

あまり銀月に無理をさせて折れるのは困る。


「あとどれくらいあるんだ?」


「掘り進めた先に黒鋼岩があって進めなくなっている坑道があと四箇所程ですかね。」


 案内されて次の黒鋼岩のある場所へと向かう。

直ぐ近くにあるらしくて数分で現場に到着した。


「早速見えてきましたよ。あれもその一つです。」


「早速先程の様に斬ってもらえますか?」


「それでもいいがあまり硬い物を斬って武器に負荷を掛けたくない。除去出来れば他の方法でも良さそうだな。」


 そう呟いてジルが黒鋼岩に手を触れる。

そして次の瞬間には巨大な黒鋼岩が目の前から消える。


「「えっ!?」」


 突然消えた黒鋼岩を見て町長と女将が目を丸くしている。


「やはりこちらの方が手っ取り早い。」


「な、何をしたんですか!?」


「我は収納系のスキル持ちでな。黒鋼岩を収納したのだ。」


 無限倉庫に収納すればわざわざ斬って取り除いたりする必要も無い。

巨大な黒鋼岩を丸々収納出来る程のスキル所持者は限られるがジルの無限倉庫なら簡単だ。


「あんなに大きな岩を収納ですか!?かなり収納容量が必要に思われますけど。」


「収納容量に制限が無いのでな。かなり珍しいらしく我も重宝している。」


「「羨ましい(です)!」」


 収納系のスキルや魔法道具の便利さを理解している二人は、ジルの言葉に心底羨ましそうな表情をしていた。

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