元魔王様と温泉の町 3
王都からセダンに向けて順調に進んでいたジル達はラブリートの言っていた町に到着した。
門で入場の手続きをしてもらって中に入ると温泉特有の香りが漂ってくる。
早速宿を取って全員が温泉を楽しむ事にした。
ジル以外は一応全員女性なので後で合流する事にして一人で広い温泉に浸かる。
「ふぅ。」
思わず息が漏れるくらい良い温泉である。
今の時間は人が少ないのか貸し切り状態だ。
「やはり風呂はいいな。手足を思い切り伸ばせる広い温泉は最高だ。」
手足を温泉の中で存分に伸ばしながら呟く。
無限倉庫にある湯船も広くはあるが手足を存分に伸ばせる程では無い。
温泉だからこその贅沢だ。
「さて、早速長湯のお供でも出すか。」
温泉を存分に満喫する為に宿の方で買い物をしてきた。
「これだけ大量に持ち込めるのも収納スキルを持つ者の特権だな。」
取り出した物を広い板の上に並べて湯に浮かべる。
板の上には温泉卵、饅頭、氷菓子、酒と様々な物が置かれている。
「美味いな、現地で全部買ったものだが浸かりながら楽しめるのがいい。」
温泉宿の売店でお勧めされていたので片っ端から購入してきたがどれも美味しい。
気に入った物は後で追加購入する事にした。
「セダンの街から少し離れていて気軽に入れないのが残念なところだな。」
「そんなお客様に耳寄りな情報をお持ちしました。」
ジルの呟きに答える女性の声。
貸し切りの温泉だった筈なのだが、いつの間にか背後に人が立っていた。
「女将、ここは男湯だぞ?」
立っていたのは温泉宿の女将である。
先程挨拶したので覚えている。
「この宿の女将ですから、私にはどの場所でも行く権限があるのです!」
「そ、そうか。」
力強く女将が言うのでジルは気圧されて頷く。
湯船に首から下は浸かっていてはっきり見える訳でも無いので、女将が構わないならジルも別に問題は無い。
「それで耳寄りな情報についてですが。」
「そう言えば何かを伝えにきてくれた様だったな。」
わざわざ男湯にまで乗り込んできた女将の話しを一先ず聞く事にする。
「はい、偶然にも温泉に気軽に入れないのが残念だとお聞きしまして、それを解決出来る手段をご紹介しようかと。」
「ふむ、聞かせてもらおう。」
偶然かどうかは置いておくとして、気軽に温泉に入る手段があるのなら教えてもらいたい。
「簡単な事なのですが、温泉を作り出す物を手に入れればいいのです。」
「温泉を作り出す物?」
「はい、あちらに温泉が出ている石像があります。」
女将が指差したのは今ジルが入っている温泉に湯を継ぎ足し続けている魔物の石像だ。
大きく開かれた口から湯が注がれている。
「あの石像の口の部分にある石が見えますか?」
「白色の石の事か?」
魔物の口の奥には拳大の白い石が取り付けられている。
「そうです、あれこそ温泉を作り出す鉱石である温泉石です。」
「温泉石?初めて聞くな。」
「この辺りではつい数ヶ月前に見つかりましたからね。耳馴染みが無いのはそれででしょう。」
「成る程な。」
温泉は地下から湧き出しているイメージだったが、ここの温泉は特殊な鉱石から生み出しているらしい。
「本来あの石像は水を出すだけの魔法道具なんです。ですがその魔法道具に温泉石を取り付けるだけで温泉を生み出す魔法道具に早変わり!どうです?素晴らしい鉱石でしょう?」
水を生み出す魔法道具と言うのはそれなりに知られている。
それを簡単に温泉が出る魔法道具に変えれてしまう鉱石らしい。
「そんな鉱石があったのか。つまり温泉石を手に入れれば自分が暮らす街でも温泉に入れると。」
これさえあればどこでも温泉を生み出す事が出来る様になる。
セダンでもこの町と同じ様に温泉を楽しむ事が出来そうだ。
「そう言う事になります。簡単に手に入りはしないですけど。」
「何故だ?温泉石の周りに厄介な魔物でもいるのか?」
鉱山は魔物の棲家となりやすい。
厄介な魔物が近くにいれば採掘する事が出来無いので、冒険者への依頼もよくあるのだ。
「いる事はいますが現状は対処出来る範囲内ですね。手に入れるのが難しい理由は簡単です。今や温泉石はこの町の財源になっています。簡単に流出させて町に人が来なくなるのは困るのです。なので町長がこの町に住む者以外の採掘行為を禁止しているのです。」
「そう言う事か。確かにそれだと入手が難しいか。」
勝手に余所者が町の財源に手を出したとなれば非難轟々だろう。
自分達の生活に関わるので簡単には譲ってくれなさそうだ。
「ですが手に入れる方法が無い訳ではありません。私に良い考えがあります。」
「ほう、我にとっては有り難いが、よそ者に温泉石についての情報を簡単に流していいのか?」
「
女将は本音を心の中で呟きながら良い笑顔で言った。
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