元魔王様と温泉の町 2
翌日、目を覚ましたジル達は朝食を済ませて屋敷を出る。
「「「いってらっしゃいませ。」」」
屋敷の使用人達が一斉に頭を下げて見送ってくれる。
主人であるトゥーリの見送りの為に全員が早起きして待機してくれていた。
「また私がいない間の屋敷の管理はお願いするね。」
「はっ、お任せ下さい。」
執事長らしき老人が頭を下げるとメイド達もそれに続く。
王都に用事があって再びトゥーリが訪れるまで、しっかりと屋敷の維持をしてくれるだろう。
「君達も元気でね。」
トゥーリと同い年かそれよりも幼い子供達に手を振る。
奴隷商館で購入して屋敷で使用人見習いをさせている子供達である。
「僕に未来をくれたトゥーリ様の為に毎日頑張ります!そしていつか執事になってお仕えして恩返しします!」
「私も奴隷に落ちて絶望してたけどトゥーリ様のおかげで生きる意味を見出せました!お膝元でお仕え出来る様に努力します!」
その後も子供達が感謝の言葉と目標を次々にトゥーリに言うので中々終わらず、執事長が途中で話しを切り上げてくれた。
奴隷と言う立場に悲壮感を抱いていた子供達はもうおらず、未来に向けて希望を夢見ている。
「セダンから応援しているよ。次に会うのを楽しみにしているからね。」
そう言い残して馬車に乗り込み、馬車が屋敷を出発する。
そのまま馬車は王都を出て街道を進む。
「しっかりと付いてくるんだぞ。」
馬車の上で寝転びながらジルが言う。
誰に向けてかと言うと馬車の近くを飛んでいるハニービー達だ。
ジルがアーミーワスプを殲滅した際に強い者の庇護下に入りたいと一部のハニービー達が言ってきた。
ハニービー達がいればいつでも極上蜂蜜が得られる様になるのでジルとしても文句は無く、浮島に連れて帰る事にしたのだ。
「のんびりとした旅も悪くないな。」
「クォン。」
珍しく魔物の姿になっているホッコが同意する様に鳴く。
馬車の上は少し狭いので本来の姿になってジルのお腹の上に乗っている。
「だがこれが1カ月以上も続くとなると途中で飽きてくる。」
たまにはゆっくりするのも良いのだが、さすがに毎日の様にしていると身体が鈍ってくる。
こう言うリフレッシュは時々で丁度いい。
「ジル君ジル君、そんな君に朗報だよ。実は王都で情報を仕入れておいたんだけど、帰る途中にある小さな村で面白い事が起こっているんだ。」
馬車の窓を開けてトゥーリがジルにそう話し掛けてくる。
「面白い事?」
「それは到着してからのお楽しみって事にしておくよ。」
「だから来る時と違う道を走っているのか。」
普通であれば王都に来た道を逆に辿ってセダンに帰還する筈だ。
しかし今通っている道はセダンの方角に向かってはいるが全然知らない道であった。
「気分転換だよ。ちなみに大して掛かる時間は変わらないから安心してね。」
「それなら文句は無い。」
帰る時間が大幅に伸びるのであれば遠慮したかったが、そうでないのならトゥーリの提案に乗っておく。
「その面白い村とやらにはどれくらい滞在するのかしら?」
「普通に道中の休憩として一泊するだけの予定だけど、目的が長引いたら数日延長してもいいかもね。」
どうやらトゥーリはその村に何か目的があるらしい。
「どこまで伸ばせるかはジルちゃん次第ね。ついでに私も道中の町に少し寄りたいわ。王都のお店で聞いて帰る時に是非寄ってみてって言われてね。」
ラブリートも帰りに寄り道をしたいと言う。
二人共帰る道中での楽しみを見つけてきているらしい。
「それじゃあそこにも行ってみようか。」
「道中なら別に構わないが、ラブリートの方はどんな用事だ?」
「温泉で最近賑わっている町があるのよ。休憩ついでに入っていきたいわ。」
「ほう、温泉か。」
ジルは目的を聞いて興味を抱く。
鬼人族の里で異世界の風呂の文化に触れてからとても風呂を気に入っているのだ。
無限倉庫にいつでも入れる様にと木製の湯船も常備しているくらいだ。
「あれ?ジル君が興味を示すなんて珍しいね。」
「そうか?我は結構風呂は好きな方だぞ。」
温泉には入った事が無いので帰り道ならば是非入ってみたい。
「なら決定ね。お肌がスベスベになるって評判で絶対行ってみたいって思っていたのよ。」
女性並みに美容に気を使っているラブリートらしい理由だ。
「ふむふむ、私も今から気にした方がいいかな。」
自分の肌をぷにぷにと揉みながらトゥーリが呟く。
まだ歳が二桁に突入したばかりと非常に若いので、肌も一切衰えを感じさせない。
ラブリートが時々羨ましそうな視線を向けていたりする程だ。
「お子様には早いんじゃないか?」
「失礼だなジル君、私も立派な淑女なんだよ?」
「「あと5年は早い(わね)。」」
「やれやれ、本当に失礼な護衛達だよ。」
二人の発言に特に怒ったりはせず、静かに首を横に振るだけの大人な対応をするトゥーリだった。
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