56章
元魔王様と魅了で敵対 1
騎士団との訓練を終えた翌日、トゥーリに集められて屋敷のテラスに集合する。
席に着いたジル達にキュールネが紅茶とお菓子を用意してくれてホッコが嬉しそうに味わっている。
「さて、集まってもらったのはそろそろセダンに帰ると言う事を伝えたかったからなんだ。皆王都は満喫出来たかな?」
王都にやってきたメンバーが揃うとトゥーリが皆を見回してそう言ってきた。
それなりの期間を王都に滞在したがそろそろセダンの街に帰らなければいけない。
長期間の領主の不在も限界はある。
「ようやく帰るのか。我はもう充分満喫したつもりだぞ。」
「ホッコもなの!」
最初は生誕祭が終わっても直ぐに帰らないと聞いて何をしていればいいのかと思っていたが、それなりに色んな事をして暇を潰せた。
「私はまだまだ王都の店巡りをしたいけれど、そろそろ帰るなら仕方無いわよね。具体的にはいつ頃の予定なのかしら?」
ラブリートはまだ王都の化粧品を買い漁りたい様子だ。
既にとんでもない量を買っている筈なのだが、それでも満足していないらしい。
屋敷の者達から聞いた話しだと大金貨を数十枚は使っているのではないかと噂されていた。
「君達の都合が良いのなら明後日くらいには出てもいいよ。」
「我らは構わないからラブリート次第だな。と言ってもあまり長引かせてほしくはないが。」
帰る頃には合計で三ヶ月近くセダンの街を離れていた事になるので、シキ達や浮島の事も気になる。
ある程度自由にしてもいいと言ってあるので、留守の間にどれくらいの変化があったか楽しみでもあるのだ。
「分かっているわよ。明後日だとすると今日と明日は自由に動けるんでしょ?この二日で全力で買い漁るとするわ。」
「そうかい?なら、明後日を出発予定としておこうか。」
ラブリートが間に合うならそうしようとトゥーリが明後日を王都出発と決めた。
「それはいいのだが、トゥーリは大丈夫なのか?」
「明らかに疲れているわよね?」
ジルとラブリートに尋ねられたトゥーリの表情は見るからに悪い。
体調不良と言うよりは何かをして疲れ果てた様な顔だ。
「疲れるのも当然だよ。昨日は一日中侯爵家の跡取りに連れ回されたんだよ?周りの視線からの気疲れが凄まじいよ。今日は一日中自堕落に過ごすつもりさ。」
限界だとばかりにテーブルに突っ伏して言う。
昨日相当疲れる様な事があったらしい。
「可哀想なトゥーリ様。せめて身の回りのお世話は私にお任せ下さい。」
「ありがとねエレノラ。」
トゥーリに優しく声を掛けるのは王都の奴隷商館で購入したエレノラと言う奴隷だ。
出会ったばかりの頃は酷い怪我を負っていたが聖女グランキエーゼの魔法によってすっかり元の美しい姿を取り戻している。
今はトゥーリの後ろに控えて護衛を務めるシズルの様な役割りをしている。
他の奴隷の子供達は王都の屋敷の使用人達に任せる事になるが、エレノラはセダンの街に帰る際に一緒に連れていく事になっている。
「侯爵家の跡取りと言うと王城で会ったトゥーリの婚約者か。」
「将来有望な子からのお誘いなんて良かったじゃない。」
ローレッドと言う名前の爽やかな好青年だ。
侯爵家の跡取りと言う立場でありながらジル達平民を見下す事無く接してくれて印象は良い。
「君達は他人事だと思って。それと婚約者じゃないからね。求婚されてはいるけど了承はしていないんだから。」
二人は面白がっているがトゥーリからしてみると人生を左右する重大な事だ。
とても優秀で優しい素晴らしい人だと知っているが、だからと言って結婚したいかは別なのだ。
「はぁ、一先ず私はゆっくり二度寝でもしてこようかな。昨日の疲れで活動する意欲も湧かないよ。」
「皆様、失礼致します。」
ここにいて更に弄られても余計に疲れるだけなのでトゥーリは早々に席を立つ。
エレノラも一礼してその後に付いていく。
「それじゃあ私も早速お店を回らないと。この機会に化粧品を買い漁るわ。」
「そんなに買って持ち運べるのか?」
「私の持ってる魔法道具の鞄もそれなりには入るのよ。でも入り切らない分はジルちゃんに頼むわね。」
無限倉庫のスキルがあればラブリートがどれだけ買い込もうと全て収納出来る。
なので持ち帰れないと言う事態にはならない。
「そうならないくらいの量にすると言う選択肢は無いのか?」
「無いわね。それじゃあね。」
手を振ってラブリートも席を立つ。
残り二日で王都中を回らないといけないので時間は有効的に使わなければならない。
「ラブリート様、実はシズルも化粧品が好きらしく、王都のそう言ったお店にも詳しいらしいですよ。」
「それは良い事を聞いたわ。」
立ち去るラブリートにキュールネが教えると、庭で剣を振っていたシズルが拉致されていった。
本人は突然の事に困惑していたがラブリートの力に抗える訳も無く、されるがままに二人は屋敷を出ていった。
「ジル様の今日のご予定は?」
「特に決まっていないな。」
キュールネに紅茶のお代わりを注いでもらいながら答える。
やるとしてもホッコの訓練くらいだ。
「ジル様、今大丈夫なのです?」
何をしようか考えているとシキから連絡が入った。
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