元魔王様と魅了で敵対 2

 突然頭の中に響く契約精霊の声。

これは真契約による恩恵の一つ、意思疎通による遠距離会話である。


「シキか、どうかしたか?」


 今はセダンの街にナキナや影丸達と残っていてジル達とは別行動を取っている。

王都行きよりも浮島の発展をさせる為に残ったのだ。

そんなシキとは定期的に意思疎通でやり取りをしていたりするので、久しぶりの会話と言う訳でも無い。


「少しお願いがあって連絡したのです。」


「お願い?」


「そうなのです。実はお金が欲しいのです。」


「金?無限倉庫に入っているだろう?」


 ジルのスキルである無限倉庫の中には王都に来てから稼いだ分も追加で入れられている。

元々それなりにあったのでかなりの額が入っている筈だ。


 そして真契約を結んだシキはジルの無限倉庫のスキルを使えるので、中身が共有の無限倉庫から金の取り出しが出来る。


「ジル様が稼いだ分やシキが稼いだ分が纏めて入っているのは当然知っているのです。でも全然足りないのです。」


「足りない?異世界通販のスキルで何か買うのか?」


 これだけの金額でも足りない買い物となると額が文字通り桁違いの異世界通販のスキルくらいしか思い浮かばない。

浮島の発展の為に金は自由に使っていいと許可しているので、何か入り用になったのかもしれない。


「買うのはオークションなのです。今バイセルの街に来ているのです。」


「バイセルか。随分と懐かしいな。」


 前にジルもオークションに参加する為にバイセルの街を訪れた事がある。

今の仲間であるナキナと出会ったのもその街であった。


「ダナンに連れてもらってナキナとライムと来ているのです。最初は目的無く楽しむだけで来たのです。でもダナンがオークションに出品される目玉商品の情報を掴んでしまって欲しくなっちゃったのです。」


 オークションに出品される物はその時々で異なる。

そして価値のある物や需要の高い物は目玉商品として扱われる。


「その品物の名前は?」


「ダンジョンコアの欠片なのです。」


「ほう、それは随分と珍しい物だな。」


 ダンジョンコアの欠片とはその名前の通り、ダンジョンの最奥にあるダンジョンを形作っているコアの一部だ。

ダンジョンコアを破壊する事で稀にドロップする事がある貴重な素材である。


 ダンジョンコアを破壊するとダンジョンも崩壊してしまうので、確実にドロップする訳でも無いダンジョンコアの欠片が高騰するのは必然だ。


 有用な素材だがトレンフルの様にダンジョンを財源の一部として見ているところもあるので、簡単にダンジョンコアを破壊する事も難しい。


 そんなダンジョンコアの欠片はダンジョンのみでだが非常に活躍する魔法道具を作る材料となる。

シキが何を作りたいのかは分からないが無限倉庫にもストックが無い珍しい素材なので入手したいのだろう。


「オークションでも出品されるのは珍しいのです。この機会を逃すと次はいつ手に入るか分からないのです。」


 ダンジョンコアの欠片はこの世界で長く過ごしているシキでも片手で数えられるくらいしか見た事が無かった。

なので得られる機会があるならば逃したくは無い。


「確かにな。魔王時代からある無限倉庫の中にも在庫は無いしな。ちなみに何を作るつもりなんだ?」


「ダンジョンコアなのです!」


「ダンジョンコア?復元させると言う事か?」


 基本的にダンジョンコアの欠片を使って作れる魔法道具はダンジョンの階層を探知する物やダンジョンの魔物に特攻を持つ武器の様なダンジョン探索に役立つ物であった。

ダンジョンコアを作れると言うのは聞いた事が無い。


「ふっふっふ、その通りなのです!実は異世界通販で購入したダンジョンが主流の世界の本の中にダンジョンコアを作る方法が記されていたのです!」


「ほう、ダンジョンコアの作製か。この世界にはまだ無い技術だな。」


 異世界の知識と聞けば納得だ。

この世界よりもダンジョン関連で発達している世界は当然あるだろう。

そしてそんな未知の知識を得たシキが試したいと思うのも理解出来る。


「これを使えば思い通りの場所にダンジョンを作る事が可能になるのです!そしてダンジョンを浮島の中に作りたいのです!」


「成る程な、そしてそれにはダンジョンコアの欠片が必要不可欠。今回のオークションで確実に手に入れたいと言う事か。」


 ダンジョンは街の財源になるくらい金を生み出す場所だ。

浮島に作って自分達で独占出来れば、ダンジョンコアの欠片の購入資金くらい直ぐに取り戻せそうである。


「オークションは明日始まるのです。でも今のお金だと少し心許ないのです。だからナキナと影丸にも急遽バイセルのギルドで依頼を受けてもらっているところなのです。」


「それでも足りなそうだから我にも声を掛けたと言う事か。」


 短時間の依頼で稼げる額なんてたかが知れている。

少しでも人数を増やして効率を高めたいのだろう。


「もし暇ならジル様にも協力を要請したかったのです。でも忙しいなら大丈夫なのですよ?」


 シキとしては是が非でも入手したい物だが、忙しいジルに頼んでまで欲しいとは思っていない。

それに心許ないだけで足りる可能性もあるのだ。


「構わないぞ。丁度何をして過ごすか悩んでいたところだ。我の方でもギルドで良さげな依頼を探してみよう。」


「それは助かるのです!是非お願いするのです。」


「任せておけ、それではな。」


 意思疎通による会話を終えて今日の予定が決まった事をホッコとキュールネに伝えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る