元魔王様と聖女の魔法訓練 2
ジルに治療代が高過ぎると言われた司祭は少し残念そうな視線を向けてきた。
「教会で部位欠損を含む治療をする際には多くの方がそう仰られます。ですがこれは正当な値段なのですよ。」
ジルの様に値段に付いて文句を言う者は多いのだろう。
聞き飽きたとでも言いたそうな表情だ。
「先ず皆さんの誤解を解いておきましょう。神聖魔法は世間では劣化魔法と呼ばれていますが、それは大きな間違いです。」
司祭の発言に少し驚きつつも、それに関しては同意だとジルは心の中で思った。
トレンフルで魔法の授業をした際にもそう教えている。
転生前の世界では神聖魔法を含む、爆裂、氷結、雷霆、重力、呪詛の六つの魔法は派生魔法と呼ばれていた。
しかしジルが転生している間にそれらの魔法は劣化魔法などと呼ばれて、基礎魔法よりも下に見られる事も多かった。
その理由は適性を示す者が少ない、魔力消費が大きい、高位の魔法の習得難易度が高い、詠唱破棄に至るのが困難と言った様々な理由からだ。
ジルから言わせれば基礎魔法よりも高度な魔法なのでそう言った事情は当然なのだが、人は手軽に使える基礎魔法に重きを置く者が多かったのだ。
「神聖魔法とはその名の通り、聖なる神の魔法なのです。欠損した身体の一部を戻したり、凡ゆる呪いを打ち消したりと正に神の身技。そんな有り難い魔法を受けるのです、そのくらいの金額は普通だと思いませんか?」
名前に神と付いているがそれは単なる偶然である。
司祭が言う様な事実は無い。
「劣化魔法では無いと言う発言だけは同意出来るな。だが先程も言った通り魔法一回に掛かる金額では無い。」
「使い手が少ない事も原因の一つなのですよ。この怪我を治すには超級神聖魔法、パーフェクトヒールが必要です。ですがそれ程の神聖魔法の適性を持つ者は王都に私しかいません。」
確かに光魔法の派生魔法である神聖魔法の適性を持つ者はそれ程多くは無い。
その中でも超級魔法を使えるまでに至っている者となると更に少ないだろう。
「ジル君、司祭様に治してもらうしかないよ。神聖魔法の使い手が少ないのは本当だからね。」
「私も光魔法には適性があるのだけれど神聖魔法は無いのよね。」
高いとは思うがトゥーリは受けるしかないと思っている様だ。
ラブリートも自分が使えればよかったのだがと困った表情をしている。
「ではご納得いただけたと言う事で宜しいですね?」
「全然宜しくないわ!」
司祭が二人の様子を見て笑顔でそう言うと、突然部屋の扉が勢い良く開かれた。
そこには白を基調とした神聖な服に身を包む艶のある白銀の長い髪を持つ美女が立っていた。
「なっ!?グランキエーゼ殿、勝手に出歩かれては困ります!」
ユテラが慌てた様に立ち上がる。
この美女はグランキエーゼと言う名前らしい。
「見過ごせない言葉が聞こえたのよ!黙ってはいられないわ!」
グランキエーゼが仁王立ちしてその整った顔でユテラに鋭い視線を向けている。
「ユテラ司祭、大金貨10枚とはどう言う事かしら?」
「…これは我が教会では正当な値段です。」
少し罰が悪いのかユテラの声が小さくなる。
「話しにならないわね。大司祭様のお耳に入れば貴方は司祭の座を落とされるわよ?私腹を肥やす為に教会が存在する訳では無いの。」
「…。」
話しの流れから同じ教会関係者なのだろう。
そのグランキエーゼから見ても大金貨10枚と言うのは高い治療費らしい。
「まさか大司祭様の目が届かない別の国だからってこんな事をする司祭がいるとは思わなかったわ。視察に来た甲斐があったってものよね。これだと他の教会も巡る必要がありそうだわ。」
「ですが神聖魔法の使い手が少ないのも事実です。相応の献金を貰うのは当然かと思いますがね。実際にこの奴隷の治療は私でなければ出来ません。それともグランキエーゼ殿が治療されますかな?」
「それは…。」
ユテラが言い返すとグランキエーゼは言葉に詰まる。
それを見て我が意を得たとばかりに続ける。
「これで分かったでしょう?貴重な神聖魔法の使い手には相応の報酬が当然なのです。神聖魔法に高い適性を持つ
「ぐぬぅ。…い、いいわ、やってやろうじゃないの!この子は私が治療するわ!」
エレノラの方を向いてグランキエーゼが宣言する。
「聞き間違いですかな?貴方がこの奴隷を治すと?」
「そうよ!私が完璧に治してあげるわよ!」
グランキエーゼがユテラを睨みながら言う。
暴利な治療代を請求しての治療なんてさせないとその表情が物語っている。
「それは面白いですね。では今日中に治して差し上げてください。もしも出来無いなんて事になれば私を頼って下されば直ぐにでも治しますよ。ですがその時は私の経営方針に口出しはしないでいただきたいですけれどね。それでは失礼。」
ユテラは笑いながら部屋を後にした。
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