54章
元魔王様と聖女の魔法訓練 1
今日はトゥーリに呼ばれて屋敷の応接室に集められた。
これから出掛ける予定があり、ジルとラブリートも同行を求められたのだ。
「今日はエレノラの治療をする為に教会に向かうよ。やっと司祭様の予定が空いたからね。」
王都の奴隷商館で購入した奴隷のエレノラは片目を失っていたり酷い火傷を負っていたりと、光魔法やポーションで治せるレベルを超えていた。
なので教会の神聖魔法の使い手である司祭にお願いしていたのだ。
「長かったわね。そんなに忙しいのかしら。」
「神聖魔法の使い手は少ないからね。」
「すみません、わざわざ私の為に。」
エレノラが申し訳無さそうに頭を下げる。
「これから私の護衛としてたっぷり働いてもらうんだ。そんな状態だと支障しかないからね。」
「トゥーリ様、ありがとうございます。必ずお役に立ってみせます。」
既に復讐もトゥーリのおかげで終わっている。
エトワールの生誕祭の場で国王を前にポージャの違法奴隷の件を告発。
それにより犯罪奴隷落ちが決定したのだ。
「エレノラの治療が終わると言う事は、セダンの街へ帰還か?」
最大の目的であるエトワールの生誕祭は終わった。
観光もそれなりに出来たのでエレノラの治療が終われば王都でする事も無くなる。
「そうなるね。予定としてはもう何日か滞在してからかな。その間に物資を揃えて出発する予定さ。同行する魔物も増えたからその分も必要だね。」
「いつの間にか増えていたわよね。ハニービーに好かれるなんて珍しいわ。」
「我と言うよりはホッコだけどな。」
三人が庭に目を向ける。
ホッコとハニービー達が楽しそうに追いかけっこをして遊んでいた。
従魔でも無いのにこんなに危険がないのは友好的な魔物なのとジル達と戦っても勝てないと分かっているのだろう。
「トゥーリ様、そろそろ時間です。」
時間を確認していたキュールネが教えてくれる。
司祭との待ち合わせの時間になった様だ。
「それじゃあ教会に向かおうか。」
ジル達は馬車に乗って王都の中を移動する。
少し走らせると神聖な印象を持つ大きな建物が見えてくる。
「到着しました。」
「エレノラちゃん、持つわよ?」
「すみません、ラブリート様。」
「このくらい全然問題無いわ。軽過ぎて心配なくらいよ。」
エレノラがラブリートに抱えられて馬車から降りる。
両足の火傷により一人で歩くのは困難なのだ。
「ふむ、これが教会か。」
「ジル君は来た事ないのかい?」
「大きな怪我をする機会が無かったからな。と言うかセダンにも教会ってあるのか?」
転生前も転生後も全く必要とした事が無かったので、存在は知っていたが気にした事も無かった。
「一応セダンを含めてどこの大きな街にも大体あるよ。教会は冒険者ギルドみたいな国の管理じゃない独立組織だからね。」
どうやらジルが知らないだけでそれなりに広く活動しているらしい。
「それぞれがトップとなる者の下活動している組織なのよ。冒険者ギルドならグランドマスター、教会なら大司祭ね。」
「グランドマスター?初めて聞いたな。」
冒険者をしているが聞いた事の無い単語である。
当然大司祭についても聞いた事は無い。
「冒険者ならそれくらい知っておきなさいよ。グランドマスターってのは冒険者ギルドを束ねる最高責任者の事よ。この国にはいないけれどね。」
冒険者ギルド発祥の地にギルドの最高責任者であるグランドマスターがいるらしく、この国にはいないらしい。
人族歴の浅いジルが知らないのも無理はない。
「それじゃあ入ろうか。」
トゥーリに続いて教会の中に入っていく。
「教会へようこそ。本日はどの様なご用件でしょうか?」
ジル達を見て一人のシスターが近付いてくる。
「今日教会に訪れる旨を伝えたトゥーリです。司祭様はいるかな?」
「トゥーリ伯爵様ですね?お話しは伺っています。こちらにどうぞ。」
シスターにも話しが伝わっている様でジル達は教会の奥に案内される。
「ユテラ様、トゥーリ伯爵様がお見えになりました。」
「通して下さい。」
シスターが一番奥の部屋の扉をノックして尋ねると、中から入室の許可が出る。
扉を開けて中に通されると、一人の恰幅の良い男性がソファーに座っていた。
「これはこれはトゥーリ伯爵様、ようこそ教会へ。どうぞお掛けになって下さい。奴隷の方もご一緒に。」
ユテラと呼ばれた司祭がソファーに座る様に勧めてくる。
エレノラを座らせてジル達も座る。
「司祭様、忙しい中時間を作ってもらってすまないね。」
「構いませんよ。私の力は傷付いた方を癒す為のものですからね。」
そう言ってユテラがエレノラの方に視線を向ける。
「そちらが患者ですか?」
「そうだよ、魔物にやられてしまったらしいんだ。」
「火傷に片目の損失ですか。さぞ辛かったでしょう。ですがご安心下さい、私が完治させてみせましょう。」
エレノラの現状を見て同情する様な表情を浮かべて、それを安心させる様に自信満々に宣言する。
「ほ、本当ですか!」
もう自分の外見は治らないかもしれないとエレノラは思っていたので完治すると聞いて嬉しそうな声を上げる。
「ええ、勿論ですよ。つきましては治療代としての献金がこのくらい必要なのですが。」
そう言って依頼主のトゥーリに治療代の書かれた小さな紙を渡す。
「だ、大金貨10枚?」
「そ、そんなに!?」
値段を見たトゥーリが少し驚き、エレノラはその金額に驚愕している。
「かなり酷い怪我でしてね。治療代はそれくらい掛かってしまうのですよ。」
「大金貨10枚だと?たかが魔法一回の対価としては高過ぎだ。」
申し訳無さそうにしている司祭に向けて、ジルが提示した金額に真正面から文句を言った。
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