元魔王様と聖女の魔法訓練 3
突然部屋に入ってきたグランキエーゼと呼ばれた女性と司祭のユテラがジル達の前で言い争った結果、エレノラの治療はグランキエーゼが行うと言う事になった。
突然の事でジル達は黙って見守っていたのだが、ユテラの高過ぎる値段よりも正当な値段で治してもらえるのならば是非頼みたい。
しかしユテラが部屋から出ていって少しするとグランキエーゼが勢い良くジル達に頭を下げてきた。
「ごめんなさい!」
「えーっと、何について誤っているんだい?」
謝っている理由が分からずトゥーリが尋ねる。
「突然こんな事になってしまって。でも同じ教会の人間としてあんな値段で治すのは見ていられなくて。」
「それはこちらとしても有り難いよ。正直大金貨10枚は高かったからね。」
払えなくはないが相当な出費になるのは確かだ。
これからセダンに帰る為の物資や王都でしか手に入らない物などを仕入れてから帰る予定なので余計な出費は抑えたい。
「貴方は司祭とは違って正規の値段で引き受けてくれるのよね?」
「え、えーっと。」
ラブリートの問い掛けに気まずそうに視線を逸らすグランキエーゼ。
「どうしたんだ?治してくれるのではないのか?」
「ご、ごめんなさい!治したいのは山々なんだけど、私は上級神聖魔法までしか使えないの!」
そう言って深々と頭を下げてくる。
エレノラの片目の欠損や両足の火傷の跡を綺麗に治すとなるとユテラの言っていた通り超級神聖魔法のパーフェクトヒールと言う魔法が必要になってくる。
しかし上級までしかグランキエーゼは習得していないと言う。
それではエレノラの治療をする事は出来無い。
「え?それってつまり。」
「…私ではこの人の治療が出来無いのです。」
言葉がどんどん尻すぼみになっていく。
治療出来無いのにユテラを追い返してしまった責任を感じているのだろう。
「あらら、治療出来無いのに喧嘩を売っちゃったのね?」
「ご、ごめんなさい!」
「しかしそれは困ったな。結局あの司祭に頼らざるをえないのか。」
「大金貨10枚は高いわよね。」
トゥーリとラブリートが困った様に呟く。
グランキエーゼが治せないとなるとユテラに頼るしかない。
「あの、トゥーリ様、私の怪我は無理に治して頂かなくても。」
想像よりも高い治療代でありトゥーリ達が困っている様子を見てエレノラが言う。
自分を買って復讐まで果たしてくれたトゥーリに迷惑を掛けたくなかった。
「エレノラ、何を今更言っているんだい?これは決定事項だよ。君を治し終わった後は私の身の安全を全力で守ってほしいんだからさ。治さない選択肢なんてあり得ない。」
「トゥーリ様…。」
エレノラがトゥーリの言葉に涙を浮かべる。
奴隷に対してこんなに真摯に接してくれる主人がどれだけいるか。
元々が酷い主人だったので余計にエレノラは感動していた。
「まあ、そんな感動的なやり取りをしていても治せない事には変わりないのだがな。」
「うっ。」
それを見ていたジルが現実を口にするとグランキエーゼが胸を押さえて苦しそうな声を出す。
グランキエーゼとてエレノラの事は治してやりたいのだ。
「はははっ、あの様子だと値段交渉とかも応じてはくれないだろうしね。治してもらうなら大金貨10枚は確定だね。」
むしろ一度追い返しているので増額される可能性すらある。
あの男ならやりかねないとトゥーリは思った。
「ジルちゃん、暴利って言うんならあの司祭に頼りたくはないのよね?」
「当然だ。大金貨10枚も掛かる魔法があってたまるか。」
「それなら何か良い案があるのかしら?」
ラブリートがそう尋ねてくる。
何かと規格外なジルなるばこの状況を変える案があるのではないかと思った。
「私ももし良案があるなら聞かせてもらいたいな。」
「ふむ、グランキエーゼと言ったな?」
「う、うん。」
「上級神聖魔法までは使えると言っていたが適性が低い訳では無いのだろう?」
ユテラが聖女と呼んでいて敬語を使っていた事から教会内ではそれなりに高い地位にいる事が分かる。
それならば相応の神聖魔法の適性を持っているはずだ。
「一応神聖魔法に関してはかなり高い適性を持っているわ。それでも超級神聖魔法となると、そう簡単に会得出来無いのよ。上級ですら数ヶ月前に全て使える様になったばかりだもの。」
習得に向けて訓練はしているらしいがその域までは至っていない。
それだけ高位の魔法ほど難易度が高いのだ。
「練習中と言う事か。だが高い適性を持っているのならやる事は一つだろう。」
「そ、それは?」
「簡単な事だ。使える様になるまで練習するのだ。」
ジルはグランキエーゼを見てニヤリと笑みを浮かべた。
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