元魔王様と王城襲撃 4
テラスに辿り着いたジルは勢い良く飛び出す。
そしてガーデンエリアで戦闘中の者達を見回して状況判断をする。
「あれか。」
ドレスに身を包んだ若い女性が二人、護衛の騎士に守られて身を寄せ合っている。
既に騎士が数名血を流して倒れており、残った最後の騎士も満身創痍と言った状況だ。
戦っている賊の男がかなりの手練れと思われる。
ジルはテラスから飛び出した勢いのままに騎士と戦闘中の賊に斬り掛かる。
すると騎士を蹴って吹き飛ばした後、剣でジルの銀月を受け止めてきた。
「新手か。」
「王族直々の依頼だ。そこの二人は渡してもらう。」
「そうはいかねえな!」
剣を魔装して銀月を弾く。
そのままジルの腹目掛けて剣を突き出す。
「賊にしておくのは勿体無い腕だ。」
ジルは難無く魔装した足で剣を弾き飛ばす。
そして先程とは逆で銀月を相手の腹目掛けて突き出した。
「ちっ。」
男は舌打ちをしながらその場から飛び退く。
そして剣を拾って構え直す。
「騎士共とは格が違うな。高ランク冒険者か。」
「我はDランクだぞ。」
「つまらねえ冗談だ!」
男はジルと対面しても引く事無く、更に勢いを増して剣を振るってくる。
銀月で受け止めるが一撃一撃が重く鋭い。
「何故こんな襲撃をする?」
「依頼主からの命令だからな。傭兵は危険だが金になる。そしてお前の様な強者と戦える。」
ギラギラとした目を向けてくる。
一種の戦闘狂だろう。
「迷惑な話しだ。魔物とでも戦っていろ。」
「分かってねえな、やっぱ斬るなら人だろ。殺されそうになった時に一番人の本性ってのが見れるから面白くて飽きねえんだ。」
「理解出来んな。」
殺しを快楽として楽しむ者とは何度か戦闘しているが、そう言った気持ちは理解出来無い。
魔王時代も自分達に害を与える存在には相応の報いを与えたが、積極的に殺しに手を染める事は無かった。
「お前も俺に殺されそうになれば良い反応をしてくれるだろうぜ。」
「それは無理な相談だな。我は王族に高い金で雇われている。しっかり仕事をしなければ報酬が貰えん。」
エトワールとはかなりの身分の違いがあるが、それを抜きにして気安いやり取りが出来る関係だ。
そのエトワールからの依頼で妹を頼むと言われたのだから、失敗する訳にはいかない。
「ほう、俺に勝てるってか?」
「お前くらいなら問題無いだろう。」
「言ってくれるな!」
ジルの挑発に乗って全身を魔装して身体強化をする。
そして怒涛の攻撃をジルに浴びせていくが、同じく全身を魔装したジルが全てをさばいていく。
武器を何度か打ち付け合っている最中にジルが後退して少し距離を作り素早く銀月を鞘に納刀する。
「抜刀術・断界!」
「くっ!?」
膨大な魔力で魔装した居合いを男目掛けて放つ。
咄嗟の事に男は武器を全面に出して防ごうとした。
「ぐぼおっ!」
魔装で強化された剣が斬られて、男の身体に斬撃が食い込む。
身体が両断される事は無かったが深い斬り傷が刻み込まれて、夥しい量の血を流している。
「防御は悪手だったな。」
そう簡単に防げる程あまい攻撃では無い。
「はぁはぁ、ここまで実力に…差がある相手とはな。…こんな物には頼りたくなかったが。」
男はズボンのポケットから小瓶を取り出す。
小瓶の中には一つだけ丸い物体が入っている。
「薬?」
「守り抜いてみせろや。」
万能薬に似ている丸薬の様な物を男が噛み砕いて飲み込む。
すると男の魔力量が大幅に上昇した様に感じられる。
「はーはっはっは!力が溢れてきやがる!」
「傷が塞がった?」
高笑いしている男の致命傷とも言える傷が徐々に治っていく。
万能薬は病気や呪いを治す薬なので似ているが違う物の様だ。
「今度はこっちからいくぞ!」
男が倒れている騎士の剣を奪って斬り掛かってくる。
「重い!?」
受け止めたジルだが先程までとは比べ物にならない衝撃が手にのし掛かる。
足が地面に埋まるくらいの衝撃であり、銀月でなければ武器が破壊されていてもおかしくない。
「おいおい、強くなりすぎちまったか?さすがに高価な薬ってだけの事はあるな。」
ジルの強さに苦戦していたが立場が逆転した事により男は笑みを浮かべている。
「薬での自己強化か。だがそんな無理矢理な方法、代償が無いとは思えないが。」
多少の強化と言うレベルを超えている。
先程までとはまるで別人だ。
「当然あるぜ。これは命を燃やして力に変えてるんだからな。こうしてる間に寿命がどんどん減っていく。副作用として使用者が死ぬ代わりに最強の力を得られるって訳だ。」
どうやら生命力を犠牲にして自身を短期間最大限に強化する力を持つ薬の様だ。
服用した者が死ぬ様な薬が普通に出回っている訳は無いので非合法な薬なのは明らかである。
「自分が死ぬとは、馬鹿な薬を使ってるな。」
「その馬鹿な薬の力でお前は死ぬんだぜ!」
膨大な魔力で魔装した剣をジルに振るう。
その身体を武器ごと両断する勢いだ。
しかし魔装したジルの銀月で防がれてしまう。
「何!?」
「受け止められないなんて言ってないぞ。」
先程までよりも武器や身体を魔装する魔力量を増やした。
まだまだジルの全力を引き出せてはいなかった。
「ちっ、こんなのまぐれだろ!」
男が更なる激しい攻撃を加え続けていくが全てジルに防がれて剣が身体に届かない。
それなのにジルの銀月は何度も身体に当たって血を流させてくる。
薬のおかげで治癒されるが生命力はどんどん削られる。
「何で全て防がれる!?何で攻撃が入らねえ!?」
「単純な話しだ。薬で強化したお前よりも我の方が強いからだな。」
「ふざけんじゃねえ!」
怒りに任せて男が剣を振るう。
だが戦いにおいて冷静さを失うと言うのは視野を狭める行為だ。
「剣ばかりで足元が疎かだぞ。」
隙を見てジルが男の足を軽く払う。
それだけでバランスを崩して剣は空を斬る。
「なっ!?」
「じゃあな。」
ジルは賊の首を刎ね飛ばす。
ガーデンエリアの強者は討ち取ったので王族の女性と思われる者を守る事が出来た。
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