元魔王様と王城襲撃 5
ガーデンエリアの他の賊は騎士達が既に倒していたので今の男が最後だ。
「大丈夫か?」
身を寄せ合っている二人の女性に近付きつつ話し掛ける。
すると満身創痍の騎士が二人を背にして立ちはだかる。
「はぁはぁ、何者だ。」
騎士は剣を杖代わりにして立っているのがやっとの状態だ。
それでも後ろの二人を守る為にその目だけはジルを捉えて離さない。
「賊を倒したのを見ていなかったのか?敵では無い。」
「確信足り得ないな。先程まで味方と思っていた者まで襲ってきている現状では。」
確かに城内でエトワールを襲っていた者の中には騎士も多かった。
随分と敵対者に潜り込まれていた様だ。
「まあ、お前がどう思おうが我にはどうでもいい事だ。我は依頼を果たしに来ただけだからな。」
「依頼だと?」
「その二人のどちらかはエトの妹か?」
「エト…、エトワール殿下の事か?貴様、何と言う口の聞き方を。」
騎士がエトワールの呼び方に文句を言ってくる。
最初に名乗られた時の呼び方をしているだけなのに、誰に言っても不敬だと言われてしまう。
「そう言う面倒なやり取りは一度で充分だ。それでどうなんだ?」
「…確かにこちらの方はステファニア王女殿下だ。」
「そうか、ならば依頼は達成だな。」
見たところ外傷も無い。
騎士達が文字通り命懸けで守っていたのだろう。
ガーデンエリアの安全は確保出来たのでここに留まる必要も無い。
「おい、何処へいく?」
「周囲の警戒だ。ラブリートがいるから城内は問題無いだろう。だが外にはまだ残党がいるかもしれん。」
先程倒した賊の男よりも強そうな者の気配は感じられないので、城内はラブリートの無双状態だろう。
直ぐに賊は殲滅される筈なので戻るよりは外の警戒をしていた方が良さそうだ。
「あ、あの。」
「ん?」
「姫様、危険です!」
ジルに近付く王女様を見て騎士が声を上げる。
「この方は私たちを助けてくれたのです。危険なんてありません。」
「確かにそうですわね。とても頼もしい殿方でしたわ。」
二人がジルに近寄ってくる。
片方は騎士を軽く諫めて、もう片方はジルを興味深そうに見ている。
「助けて頂いてありがとうございました。エト兄様の妹のステファニアです。」
リルファニアに似ており、少し幼くした様な可愛らしさがある。
姉妹揃って美しく長い金色の髪を揺らしており、宝石の様にキラキラとした翡翠色の瞳がこちらを見ている。
「私からもお礼申し上げますわ。私は隣国のキリアル帝国が第二皇女、ステリアル・ティナ・キリアルですわ。」
もう一人の美しい女性は隣国の皇族らしい。
ステファニアよりも少し大人びた印象が感じられる。
艶のある長く白い髪はシルクの様に綺麗であり、とても目を引く綺麗な赤と青のオッドアイを持っていた。
「王族と皇族とは随分と豪華な組み合わせだな。」
「おい、口の聞き方に気を付けろ!」
「喧しい奴だ。」
騎士が文句を言ってくるが聞き入れるつもりは無い。
相手が誰であってもジルが媚びへつらう事は無いのだ。
「申し訳ありません。少し頭が堅い騎士なのです。この方は恩人なので口の聞き方なんて構いません。」
「し、しかし姫様。」
「私も構わないですわよ。ステフがいいのであれば普通に接してもらいましょう。」
「…。」
ステファニアの言葉に言い淀む騎士だったがステリアルの追撃で黙るしかなくなった。
「ふっ、残念だったな騎士よ。」
「ぐぬぬぬ。」
ジルの言葉に悔しそうな表情をして唸っている。
それでも仕える主人が許可したので何も言えない。
「そんな事よりも早く回復してやった方がいいのではないか?まだ息のある者もいるぞ。」
倒れている騎士の中にはまだ生きている者もいる。
治療してやれば命は助かるだろう。
「はっ!貴様の無礼な態度で頭から抜けていた。」
「やれやれ、ポンコツ騎士め。」
「何だと!うわっぷ!?」
騎士は近付いたきたジルに頭からポーションを掛けられる。
飲む方が及ぼす効果は高いのだが、掛けるだけでも動けるくらいには回復する。
「な、何をする!」
「回復してやったのに文句を言われる筋合いは無い。」
「回復?あっ、いつの間に。」
騎士は自分の身体が動く様になっている事に気付く。
先程までは傷だらけで少し動くだけでも身体に痛みが走ったのだが、外傷も癒えて身体に走る痛みも随分と和らいでいた。
「残りはお前がやれ。ポーションはくれてやる。」
「そ、そうか。有り難く貰っておこう。」
騎士はジルから幾つかのポーションを受け取るとまだ息のある味方に服用させて回復させる。
味覚を犠牲にして次々とポーションで治療されていく。
「ポーションまで頂いてしまって、本当に助かります。」
「私の護衛も何人かは救われるかと思いますわ。」
「良かったな。我を向かわせたエトに感謝するといい。」
エトワールがあの判断をしていなかったら、賊に全員殺されていただろう。
ジルとしても万能薬を譲った相手がせっかく自由になれたのにこんな事で殺されずに済んで良かった。
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