元魔王様と王城襲撃 3
目の前の騎士が身体全体を魔装して身体能力を強化していく。
「退けろ平民が!」
剣まで魔装してジル目掛けて勢い良く振り下ろしてくる。
そして騎士の目はその背後にいるエトワールを捉えている。
「武器の有無程度で勝てるとでも思ったか?」
「ごはっ!?」
ジルは魔装された剣が振り下ろされるのと同時に前に踏み込み、騎士よりも早くその身体に蹴りを放つ。
騎士は魔装されて防御力も高まっているのだが、軽々と後方に吹き飛ばされていく。
「やれやれ、招待客にこれ程無法者が紛れているとはザルな警備だ。」
辺りを見回すといたる場所で王族を狙って武器を取り出す者達が見える。
「…これだけ紛れていて気付けないのはあり得ん。誰か手引きした者がいるだろうな。」
さすがに数が多過ぎる。
これだけの数を全て通す程王城の警備はあまくない。
「ならばさっさと片付けて見つけ出すか。」
「私は武器が無いと少し厳しいかもしれない。」
エトワールが別の騎士の剣を回避しながら言う。
ジルの様に無手で戦える力は無いらしい。
「武器を出してもいいが、後でごちゃごちゃと面倒な事は言うなよ?」
「収納系スキルや魔法道具に武器を入れて持ち込んだ件なら問題無い。調べようが無いし目の前の敵がそうしているのだからな。」
本来は収納されているか分からないので対処出来無いだけで、取り出すところを見つかればアウトなのだが、王族直々に許可を貰えたので問題無いだろう。
「それなりに使えると思うが過信するなよ?」
「助かる。」
ジルは無限倉庫のスキルを使って普段使用していないミスリルの直剣を取り出して渡す。
剣を持ったエトワールの動きが別人の様に良くなる。
囲まれていて人数的に不利なのだが上手く立ち回っている。
「しかしこの数は少し厳しいか。」
「我がいるのだ、直に殲滅出来る。」
王城の中なので派手な魔法を使う訳にもいかず近接戦闘で倒しているので時間が掛かる。
それでも数の有利くらい簡単にひっくり返せる。
「いや、ジルには別の場所に向かってもらいたい。」
「別の場所?」
「王城のガーデンエリアだ。そこにも王族がいるのでな。」
そう言ってエトワールが指差す方にはテラスがあり、そこがガーデンエリアに繋がっている様だ。
「ふむ、その王族目当てかは分からないが中々強そうな賊がそちらに向かっている様だな。」
「っ!?頼む、ジル!信頼出来る護衛を付けてはいるが心配だ!妹を、ステフを助けてくれ!」
ガーデンエリアにいるのはエトワールの妹であるステファニア王女らしい。
ジルがエトワールと出会うきっかけになった人物である。
「分かった。だがエトは一人で大丈夫なのか?」
「正直厳しいが、他の助けがくるまで持ち堪えてみせる。」
エトワールはかなり剣が得意な様だが襲ってくる賊にも同程度の力を持つ者は多い。
このままでは数の暴力で押し切られてしまうかもしれない。
「殿下、微力ながら助太刀します。」
賊を倒しながらジル達の下にやってきたのはキュールネだ。
テーブルの上に置かれていたフルーツナイフを魔装して賊と戦っている。
「たしかトゥーリ伯爵の。」
「キュールネに任せておけば安全だな。我の代わりにエトを頼むぞ。」
「お任せ下さい。その代わりにジル様は絶対に王城を破壊したりしないで下さいね!」
ジルの後ろ姿に向かってキュールネの必死な声が聞こえてきた。
本当であれば無茶な事をしないかガーデンエリアに同行していきたいのだろう。
しかし王族を一人にする訳にもいかず、そう願うしか無い。
「邪魔だ!」
ジルは魔装した拳や足で賊を吹き飛ばしながらテラスを目指す。
少しでも中の負担が減る様に敵を倒しながら進んでいく。
テラスへの進行方向は特に賊が多かったが、どこからか魔法が飛んできてまとめて吹き飛ばしてくれた。
見ると魔法道具を身に付けた騎士達が無双している。
キュールネに危険かもしれないと伝えた騎士達だったが、主人を守る為の装備であり敵では無かった様だ。
「王族を守ろうとするお前も敵だ!」
遠くにいた冒険者風の男がジルに向かって杖を向ける。
その杖の先端には火球が生み出される。
ジルの使う魔法と比べると遥かに威力が劣るが、室内で火魔法が引火すれば相当な被害になってしまう。
「ファイア…。」
「危ない事しないの。」
「ぶべらっ!?」
男はジル目掛けて魔法を放とうとしたが、その瞬間に殴り飛ばされて壁に埋まる。
「ジルちゃん、こっちは任せておきなさい。」
火魔法を阻止してくれたのはラブリートである。
その周辺にも大勢の賊と思われる者達が横たわっている。
「ああ、頼んだぞ。」
ラブリートが動けるのならば室内は直ぐに鎮静化出来るだろう。
ジルはエトワールに任された野外の敵に集中出来る。
「さっさと倒しちゃうわよ!」
「それはいいんだけど、あまり激しく動かないでね?私は頭脳担当で肉体はか弱な少女なんだからね?」
ラブリートの背中からそう声が掛けられる。
今ラブリートの背中にはトゥーリが背負われており、冷や汗を流していた。
「これくらいで泣き言なんて情けないわよ?随分とゆっくり動いてあげてるんだから。」
「Sランクのゆっくりは常人にとっても早いんだよ!」
ラブリートはトゥーリをずっと背負った状態で守りながら多くの賊を倒していた。
その度に背中からは絶叫が響いていた。
非戦闘員のトゥーリからすれば高速で戦闘するラブリートにしがみつくだけでも精一杯なのだ。
「でも急がないと王族の命も危険なんだから我慢しなさい。」
今のところ被害者はいないがどこかの均衡がいつ崩れてもおかしくない。
「だったら降ろしてよ!?」
「一人だけにするのは危険じゃない。誰が敵になるか分からないんだから。大人しく私の背中にいなさい。さあ、行くわよ!」
「ちょ、待っ!?」
その後も室内の賊を殲滅し終えるまでトゥーリの絶叫が響き渡った。
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