元魔王様とエトワールの生誕祭 7

 バイセルの街での事を説明し終える。

途中でポージャが自分に都合の悪い部分を改竄しようと話しに加わろうとしてきたが、国王の一言で黙らされていた。


「成る程、それで不敬罪か。」


 全てを聞き終えた国王が顎に手を添えて考える素ぶりを見せる。


「言っておくが我は悪いとは思っていないぞ。身分で何でも思い通りになると勘違いしているそこの貴族が悪い。」


「き、貴様!」


 ジルの言葉にポージャが睨み付けてくる。


「双方落ち着け。一先ずこの場は私の顔を立てて争いは止めさせてもらう。エトワールの祝いの場に水を差したくは無いからな。」


 これ以上騒ぎを大きくすればエトワールにも迷惑が掛かって、せっかくの生誕祭が台無しになるかもしれない。


「それにトゥーリ伯爵はその冒険者にとっての領主ではあるが当事者では無い。なので問題は当事者間で解決する様に。」


「わ、分かりました。」


 ポージャは悔しそうに頭を下げて頷く。

トゥーリと婚約してセダンの領地を手に入れたかったのだろう。


「これで話しは終わりでいいか?」


「お待ち下さい国王陛下、少々この場をお借りしてお耳に入れたい話しがございます。」


 周りを見回して尋ねた国王にトゥーリが申し出る。


「それは今でなくてはならないのかトゥーリ伯爵?」


「そうですね、話しの中心人物がいらっしゃるので。それに国王陛下にとっても悪くないお話しかと。」


「ふむ、では聞こう。」


 今日はエトワールの生誕祭ではあるが普段会えない貴族同士の交流の場でもある。

それは王族も変わらず、有益な情報交換等は積極的に行いたい。


「私が今回王都を訪れる際、到着する前に盗賊団に襲われました。幸いな事に優秀な冒険者のおかげで大量に生け捕りにする事が出来ました。」


「当然であろうな。」


 国王はジルやラブリートを見て頷く。

盗賊程度に遅れを取る者達では無い。


「盗賊達は王都の奴隷商館に犯罪奴隷として売り渡したのですが、その時に奴隷を購入しまして気になる事が。」


「気になる事?」


「確かエレノラちゃんだったかしら?」


「ああ、出会った時は憎しみに取り憑かれていたな。」


「その奴隷がどうしたのだ?」


 奴隷落ちの境遇は色々あるので心境は様々だ。

中にはそう言った奴隷も少なからずいる。


「詳しく話しを聞いたところ、どうやら貴族に陥れられたらしく。」


 トゥーリはジルやラブリートに話した内容を国王にも説明していく。

それを聞いていくと段々国王の表情に怒りが窺えてくる。


 罪無き者を私利私欲の為に一方的に所有物とする違法奴隷は重罪である。

それを自国の貴族が行ったと聞けば怒りもするだろう。


 それだけで無く貴族が守るべき民を、目撃者だからと口封じまでするとは到底許される事では無い。

そしてトゥーリの話しを聞いていた周りの者達も誰がそんな事をと困惑や怒りの感情と共に話していたが、一人だけ会話が進むに連れて顔を青くしている者がいた。


「トゥーリ伯爵、その者については分かっているのか?これは国王として見過ごせない案件だ。」


「ええ、当然私も一貴族として野放しにしてはおけませんからね。おや?ポージャ殿、随分と顔色が悪いですが大丈夫ですか?」


「あ、え、いや。」


 突然話しを振られたポージャが言葉に詰まる。

トゥーリが話し始める前と今とでは明らかに様子が違い、挙動不審で真っ青な表情になっている。


「まあ、それも仕方ありませんか。何せ今から国王陛下に断罪されるのですからね。」


「ではその犯人は。」


「はい、ポージャ殿です。」


 トゥーリが断言すると国王含める周りの者達の視線が一斉に一箇所に集まる。


「ぬ、濡れ衣だ!僕はそんな事していない!証拠があるなら出してみろ!」


 ポージャが真っ青な表情になりながらもトゥーリに向かって怒鳴り付ける。

国王の前でそれが事実だと判断されれば後の人生が真っ暗なのは確定事項となる為、誰でも否定するだろう。


「やれやれ、往生際が悪いですね。それに国王陛下の前でお話しするのですよ?証拠くらい用意しているに決まっているじゃないですか。」


「なっ!?」


 トゥーリの言葉にポージャが驚愕した表情を浮かべる。

まさか証拠を持っているとは思わなかったのだろう。


「キュールネ。」


「こちらです。」


「国王陛下、こちらを。」


「うむ。」


 キュールネが取り出した書類をトゥーリが受け取って国王に渡す。


「違法奴隷の取引書か。」


 一通り目を通した国王が怒りを含んだ声で呟く。


「一応被害者であるエレノラに確認を取らせる事も可能ですが。」


「よい、実際に屋敷と取引相手の奴隷商人を当たれば済む事だ。それにどちらが信用に足るかは明白だ。騎士よ、ポージャを捕えろ!」


 国王がそう言った瞬間にポージャが数人の騎士に囲まれて取り押さえられる。

そして身動きが出来無い様に拘束されて連れていかれる。


「や、やめろ!離せ!僕は侯爵家の跡取りだぞ!」


「全く、デブリッジめ。武力だけで無く教育もしっかりとやらんか。」


 ポージャの親であるデブリッジ侯爵に悪態を吐いている国王。

大至急領地の屋敷に監査が入るらしく、それまでポージャは牢屋の中で捕らえられるらしい。

これでポージャ関連の騒動は幕を引いた。

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