元魔王様とエトワールの生誕祭 6
国王の登場に周囲がどよめく。
王族達は軽い謁見もあるので皆とは離れた位置にテーブル席が用意されていた。
そこで食事中の筈の国王が自ら足を運んできたのだ。
「こ、国王陛下、お騒がせして申し訳ありません。」
どこかの貴族がそう挨拶すると周りの者達が後に続いて皆頭を下げる。
ちなみに近くにいるトゥーリやキュールネが頭を下げているのにジルは下げていない。
相手が誰であろうとその態度を崩す事は無い。
そして隣りで頭を下げているトゥーリはそれを横目にだらだらと冷や汗を流し続けていた。
本当にこのジルと言う男は相手が王族だろうと敬ったりしないのだと今回で確信した。
「頭を上げよ、今回はエトワールの生誕祝いであってわしは主役では無い。本来は無礼講ではあるが、あまり揉め事を起こしてほしくはないな。」
その視線が向けられるのはジルとポージャだ。
王族に視線を向けられた両者の反応は真逆である。
ジルは気にせずキュールネの手に持つ飲み物を再び取って喉を潤し、ポージャはビクリと身体を震わせている。
そんなジルの行動にトゥーリとキュールネも震えていた。
「お、お言葉ですが陛下、この平民は私に不敬罪を働きました。なので相応の罰が必要ではないかと。」
さすがに立場の違う国王を前にしてポージャも勢いを失っている。
「ふむ、お主の言い分も聞こう。」
「へ、陛下!?平民に意見を求めずとも私が…。」
「双方の意見に食い違いがあるといかんのでな。」
ジルに意見を述べられると困るのか、ポージャが阻止しようとするが一蹴されてしまう。
「ほう、話しの分かる王ではないか。」
「き、貴様!国王陛下に向かって無礼であるぞ!」
「今直ぐに詫びろ!地に頭を擦り付けろ!」
ジルの言葉遣いに王族の護衛と思われる騎士が怒り、ジルを威圧する様に前に出てくる。
武器は持っていないが殺気まで向けてきているのでジルもいつでも反撃出来る様にしておく。
「辞めておきなさい。」
ジルの背後に一瞬で移動したラブリートが肩に手を置きながら言う。
トゥーリもハラハラとした表情をしているので一旦従っておく事にした。
「貴方達も殺気と魔力を抑えなさい。」
「ラブリート殿!?しかしこの冒険者が!」
「聞こえなかったのかしら?私が抑えろと優しく言ってあげている内に実行しなさい。力ずくがお望みかしら?」
ラブリートが両手の指をバキボキと鳴らしながら言うと、それを見た騎士達は直ぐに従った。
さすがにラブリートは迫力が違う。
「御免なさいねクロワール王。でもこうしないとその騎士達が半殺しにされていたかもしれないわ。」
事実ジルは殺気を放ってはいなかったが、攻撃してくるなら相応の反撃はしてもいいと思っていた。
殺気を向けると言う事はそう言う覚悟が出来ていると言う事だ。
「わしの騎士達がか。闘姫にそこまで言わせるとは。」
国王がジルに興味深そうな視線を向けてくる。
王族の騎士と言う事で実力は国でもトップクラスの騎士達だ。
その者達を簡単にあしらえるとは余程の実力差が無ければ難しい。
そしてSランクのラブリートにそこまで認められている冒険者と言うのも珍しかった。
人外の力を持つSランク冒険者達は自分に近しい実力者しか認めないのである。
「では闘姫が抑えればよかろう?」
どこかの貴族が勝手な事を口にしているがラブリートは少し呆れながら首を横に振る。
「この子は私のお気に入りなの。敵対は避けたいわね。例え王命であっても。」
「ふむ、お前達下がっていろ。」
「し、しかし!」
「闘姫と戦って生き残る自信があるのならば止めん。」
そう言われて誰が戦うと名乗りを上げられるだろうか。
そんな者はラブリートと同等の力を持つ化け物か、身の程を知らない馬鹿者だけである。
「これでいいな?」
「ええ、あとこの子は私以上に王族でも敬ったりしないから、それが気になるなら話さない方がいいわよ?」
元魔王と言う立場だった事もあり、人に
相手が誰であろうと態度を変えるつもりは無い。
「家臣達は気にするのだろうが私は構わないぞ。」
王族と平民と言う大きな立場の違いがあっても国王は気にしないと言う。
実際にジルの言葉に苛立ちや不快感は抱いていない様だ。
「そう?じゃあ話しの続きね。」
「うむ、話しを戻すとしよう。言い争っていた原因を聞かせてもらえぬか?」
随分と話しが逸れてしまったが再び元に戻る。
「ん?我か?」
「お主以外に誰か分かる者がいるのか?」
そう問われると答えは否だ。
あの場にいたのは自分以外だとシキとダナンだ。
しかしこの場にいるのはジルだけだ。
「ふむ、補足は任せたぞトゥーリ。」
「その場にいなかったのに!?」
ジルはポージャとの一件を思い出して説明していき、トゥーリは裏取の為にナキナやシキに掻い摘んで聞いた当時の話しを必死に思い出して頑張って補足していった。
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