元魔王様とエトワールの生誕祭 8
国王のおかげで騒ぎも鎮まり、ジルは再びデザートを楽しんでいた。
王宮の料理人達が腕によりを掛けて作ったので料理同様非常に美味である。
「キュールネ、このデザートもかなりいけるぞ。」
「ジル様、私は結構です。それにまだ事は何も解決していません。」
キュールネがジルに指摘された者達を順番に監視しながら言う。
先程のポージャの件は予想外の一件だ。
この生誕祭中に起きるであろう問題は別にある。
「やれやれ、貴族の娘からしても贅沢な料理だと思うのだがな。」
「それはそうですよ。男爵家でこんな豪勢な料理は味わえません。問題が何も無ければゆっくりと味わいたいくらいです。」
キュールネが美味しそうな料理を見て少し残念そうな表情をしている。
「しかしその一瞬の隙が一生の後悔に繋がるのなら、私の選択肢は一つしかあり得ません。大恩ある主人の無事が一番優先されるのです。」
「ラブリートが近くにいるのにか?」
この場で確実にラブリートよりも強いと断言出来る者は一人もいない。
戦えば国家戦力の名の通りに無双出来るのは間違い無い。
「ラブリート様と言えど、個人では対処が難しい事態もあるでしょう。そんな時に身を挺してでも主人の無事を守るのがこの場に同行した私の勤めなのです。自分だけ無事に戻っても皆さんに合わせる顔がありませんから。」
キュールネにとってはトゥーリの配下達の代表と言った覚悟を持って来ているのだろう。
この場に来たくても来れなかった者の代わりにトゥーリの無事は必ず自分が守らなければならないと思っているのだ。
「まあ、それで満足出来るならそうしておけ。」
「はい、そう致します。」
「おーい、そろそろ私達の順番だよ。」
トゥーリとラブリートがこちらに向かってくる。
丁度王族達が話している場所から数名の貴族グループが降りてくるところであった。
「それじゃあ行こうか。キュールネ、私が二人に挟まれている時くらいは、安心して自由に飲み食いしてほしい。たまに見ていたけど何も口を付けていないよね?」
「トゥーリちゃんったらずっと気にしていたんだから。」
「さすがに我とラブリートの近くにいれば危険なんて億が一も無いからな。」
「…お心遣い感謝します。」
主人に見られていた事を知ってキュールネは恥ずかしそうに、そして嬉しそうにテーブルに近付いていった。
さすがにジルが護衛に加わって主人にまでそう言われては否とは言えない。
「それじゃあ行こうか。」
珍しく少し緊張した様子のトゥーリの後ろをジルとラブリートがいつもの調子で付いていく。
そして有名な貴族達とはまた別の意味でジル達は会場にいる者達の注目を集めていた。
若干10歳にして伯爵家の当主を務めるトゥーリ、Sランクにして国家戦力とまで言われる二つ名持ちの冒険者ラブリート。
そして先程貴族と揉め事を起こした時に周囲の者達に注目されていたジルと目立たない筈が無かった。
「王家の皆様失礼致します。今宵はお招き頂き感謝に堪えません。そしてエトワール王太子殿下、生誕18年目おめでとうございます。」
王族の下にやってくるとトゥーリがそう口にして深々と頭を下げる。
噛まずに言えたからか少し安堵していそうな雰囲気が伝わってくる。
「エト、祝いに来たぞ。」
「エトワールちゃん、おめでとう。」
「き、君達~。」
複数の王族を前にしても二人の調子はいつも通り変わる事は無い。
相変わらずの態度に思わずトゥーリは手で目を覆っていた。
「はっはっは、三人共ありがとう。そしてトゥーリ伯爵、この二人と共に行動するのは苦労しそうだな。」
エトワールが非常に愉快そうに笑っている。
王族の者達も同様で誰も気分を害している様子は無い。
「だが何も気にする必要は無い。ラブリート殿は昔からこの通りであるし、ジルは私の恩人なのだからな。私が礼を尽くされる側では無く、礼を尽くす側なのだ。」
そう言ってエトワールが椅子から立ち上がる。
そして他の王族もその後に続く。
「ジル、ずっと直接言いたかった。改めてあの時私に万能薬を譲ってくれてありがとう。本当に助かった。」
そう言ってエトワールが深々と頭を下げる。
その後に他の王族達も続く。
会場にいる他の者達からは見えにくい位置ではあるが護衛の者達にはしっかりと見られており、平民の冒険者に王族が頭を下げると言う光景に目を疑っている。
そんな中で一部の者は王族同様にジルに頭を下げている。
あの現場にいた三人や、重役の者達はその事について聞いているのだろう。
「エト、頭を上げろ。あれは我の護衛対象であるルルネットと手に入れた物だ。我だけの物では無い。」
そう言う条件で渡すとルルネットと話しを合わせている。
「それでも所有権は二人にあった。譲る事に同意してくれて本当に感謝している。」
「感謝は伝わったからそう何度も王族が頭を下げるな。それに対価なら貰っているだろう?」
万能薬を譲る代わりに王家に貸しを作っているのだ。
貴族への貸しとは訳が違う。
「ああ、何か困り事があれば私達に相談してくれ。出来る事なら可能な範囲で力になると約束する。」
「それが直接聞けただけでも充分だ。それに今日の主役はエトなんだからな。後もいるだろうし、この話しは終わりだ。」
「まだ私の感謝の思いはこんなものでは無いのだが、ジルに従ってここまでとしておこう。」
一先ず直接感謝を伝えられたのでエトワールは納得して席に座り直した。
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