元魔王様とエトワールの生誕祭 3

 広いパーティーホールに通されて少し待っていると、王族が入場してくる。


「エトしか分からんな。」


 今日の主役であるエトワールはダンジョンで出会った時と違って正装である。

お忍びの時と服が違うだけで随分と印象が変わる。


「自国の王族くらい覚えておきなさいよ。」


 ラブリートが溜め息を吐きつつ紹介してくれた。

エトワールの前を歩く王冠を被った優しげな人物がジャミール王国現国王のクロワール・ネクト・ジャミール、その横を寄り添って歩くお淑やかな女性が王妃パキファニア・ネクト・ジャミール。


 そしてエトワールの横を歩く長い金髪の美しい女性がエトワールの姉であり王女のリルファニア・ネクト・ジャミールと言うらしい。

その王族達の後ろに騎士や宮廷魔法使いが続く。


「ちなみに後ろを歩いているのは各王族の家臣達よ。重役に付いている人も少なくないわ。」


「ほう、あの者達はそう言う立場だったか。」


 エトワールの後ろに続く者達の数名は見覚えがある。

トレンフルのダンジョンでエトワールに同行していた者達だ。

大物達を引き連れてのダンジョン探索だった様だ。

それだけ妹を助けたくて必死だったのだろう。


「知り合いだったの?」


「前に少しな。」


「目立ちたくないと言っている割に知り合いが大物だらけね。」


 それは否定出来無い。

平民の知り合いも当然いるが、王侯貴族や重役の知り合いもそれなりに出来てしまった。

望んだ訳では無いが成り行きでそうなっているのだ。


「二人共、お喋りはそこまでだよ。」


 パーティーホールの壇上に上がった王族達を見て話すのを止める。


「皆、今日は私の為に遠路はるばる王都まで集まってくれた事感謝する。ささやかではあるが料理と酒を用意してあるので、今日は思う存分楽しんでいってくれ。」


 エトワールが挨拶を済ませると会場中から拍手が起こる。

パーティー始まりの合図だ。

早速集まった者達が知人を探したり、出会いを求めて声を掛けたり、豪華な料理や酒を堪能したりと行動を起こす。


「先に言っておくけど途中で王家の方々と軽い謁見があるからね。謁見と言っても生誕祝いの品を贈って少し話す程度だけど忘れたら駄目だよ。」


「それまでは自由時間と言う事だな?」


 ジルの視線はトゥーリでは無く料理に向けられている。

今回同行した理由の一つが目の前に広がっているのだ。

早く食べたくて仕方が無い。


「私が呼ぶまでは自由に料理を楽しんでていいけど、呼んだら直ぐに戻ってくるんだよ?」


「分かっている。」


「キュールネ、ジル君は任せるね?」


「お任せ下さい。」


 ジルの後をキュールネが追っていく。

事前に話し合って二人にそれぞれ付こうと決めていたのだ。

見張り役がいないと何をやらかすか分からないので心配なのである。


「と言う事は私はトゥーリちゃんとかしら?」


「そうなるね、パーティー中でも護衛はしっかり頼むよ?」


 この場には王国中の王侯貴族や重役に付く者達が集まっているが、だからこそこう言った場所を襲撃されると国が傾きかねない。

油断が大きくなるパーティー中だからこそ護衛はより一層気合いを入れなければならないのだ。


「誰に言ってるのよ。私の隣りなんて王国で二番目くらいに安全な場所よ?」


「二番目?」


「最近のジルちゃんを見ているとそう思えてきちゃうのよね。」


 ラブリートは楽しそうに笑っているがそれの意味を理解したトゥーリは驚愕の表情となる。


「つまり国家戦力と言われるSランクのラブちゃん以上って事?」


「実際に戦った事が無いからはっきりとは分からないわね。近接戦闘なら良い分かもしれないけど、何でもありならジルちゃんには勝てないと思うわよ?」


 ラブリートはジルが火魔法以外にも多くの魔法適性を持っている事を知っている。

それにジルの強さはまだまだ底が知れないと思っていた。

そんなジルが本気で戦えば、Sランクの自分一人では勝負にならないのではないかと思えていたのだ。


「ラブちゃんにそこまで言わせるジル君って一体。」


「今後ジルちゃんとの関係がどうなっていくかは分からないけれど、敵対だけは避けた方がいいわね。ジルちゃんと本気で殺し合いなんて分が悪くて受けたくはないもの。」


 国家戦力と呼ばれるSランクの者達は、その名の通り国案件の大事に招集される事がある。

余程の事情が無ければ普段から優遇措置を施しているので応じなければならないのだが、それが自分にとって死地になり得るのであれば向かいたいとは誰も思わない。


「今は良好な関係が築けている自信があるよ。そして今後もそうありたいと私は思ってる。何より見ていて退屈しないからね。」


「それは同感だわ。」


 山の様に料理を盛った皿を持ち、美味しそうに味わっているジルを見て二人が呟いた。

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