元魔王様とエトワールの生誕祭 2
生誕祭用にトゥーリが用意してくれた正装に着替えて馬車に乗ったジル達は王城を目指す。
これから始まる生誕祭に参加する為に他にも豪華な馬車が同じ方向に向けて多数走っている。
「これ全部が生誕祭に参加する者達か。」
「王族の祝い事はいつも派手だし大人数なのよ。」
ジルと違って冒険者歴の長いラブリートは何回か経験しているらしい。
国家戦力と言われるSランクなのだから貴族どころか王族に直接護衛を頼まれても不思議は無い。
「ジルちゃん、その刀は仕舞っておいた方がいいわよ?」
「そうだね、武器の類は携帯出来無いから預かられる事になる。」
「そうなのか。」
ジルは無限倉庫に銀月を仕舞う。
収納スキルや収納系の魔法道具を持つ者からすると意味が無いのだが、形式上は預かる事になっているのだろう。
「トゥーリ様、到着しました。」
シズルが馬車の扉を開けてくれる。
トゥーリに続いてラブリート、ジル、キュールネが降りる。
ラブリートとジルは護衛でキュールネは世話係として同行する事になっている。
「ありがとね。迎えも頼むよ。」
「お任せ下さい。」
「主様、行ってらっしゃいなの!」
馬車の中からホッコが両手を振っている。
従魔も王族の催し物には同行出来無い決まりだ。
人の姿になれるホッコではあるが、万が一魔物だとバレてしまった時に面倒なので今日は待機してもらう事になっている。
「大人しく帰りを待ってるんだぞ。」
「分かったの!」
ホッコは手元にある袋からドライフルーツを口に入れてニコニコとしている。
実は付いて行きたいとホッコに言われてしまい、話し合っても解決しないので買収したのだ。
袋を渡すと心良く言う事を聞いてくれた。
「それでは皆さん、また後程。」
二人が元の道を引き返していく。
いつまでも入り口付近にいると後続の邪魔になってしまうので城の入り口に向かう。
周りは着飾っている貴族や豪商と言った権力者ばかりであり、冒険者の装いをした者はあまり見掛けない。
護衛に連れられているのは殆ど騎士ばかりだ。
騎士は準貴族と言える立ち位置であり、せっかくの王家の祝い事なので身分の高い騎士を連れ歩きたいのかもしれない。
「ようこそお越し下さいました。招待状を拝見します。」
係の者にキュールネが王家から届いた手紙を見せる。
「拝見しました。セダン伯爵様、特別招待枠のジル様、そしてお連れのお二方、どうぞ中にお入り下さい。」
「有り難う。」
トゥーリが軽く手を挙げて礼を済ませ、四人は中に進んでいく。
早速だが入ったばかりのホールがとても大きくて広い。
ワイバーンくらいなら何十体でも入りそうであり、さすがは王城と言ったところだ。
「最終確認だけど、くれぐれも王城内で好き勝手に動かないでね?」
トゥーリがここに来るまでに何度も言ってきた台詞をまた口にする。
「もう聞き飽きたぞ。」
「トゥーリちゃんもしつこいわよね。」
「聞き飽きるくらい、しつこいくらい言っても不安は無くならないけどね。」
トゥーリは生誕祭に参加する為に王城に居座るこの時間が不安で仕方無かった。
キュールネは貴族の出であり信頼出来る部下なので勝手な行動はしないと安心出来る。
しかし護衛に連れてきている二人は別だ。
その実力は圧倒的に信頼出来るが貴族である自分に忠誠を誓っている訳でも無く敬っている訳でも無い。
ある程度行動は制限出来ても自分の自由に動かせる様な二人では無いのだ。
王城では二人の行動をキュールネと共に良く見張っておかなければならないと思っている。
本来主人と護衛なので役目が逆かもしれないが仕方無い。
王城で問題を起こされると自分の立場が非常に危うくなるのだ。
「トゥーリ伯爵、それにラブリート殿、お久しぶりですね。」
「げっ。」
遠くから声を掛けて近付いてくる爽やかな好青年がいる。
その声を聞いてトゥーリが小さく嫌そうな声を出す。
どうやらあまり会いたくなかった人物の様だ。
「相変わらずいい男ね。」
「ありがとうございます。」
「ろ、ローレッド様、お久しぶりですね。」
振り向いたトゥーリが笑顔で対応するが若干引き攣っている。
そしてラブリートが面白いものを見る様な視線を向けている。
「以前王都にいらした時以来ですか。また一段とお美しくなられましたね。」
「ハハハハハ。」
笑い声が棒読みと言う器用な事をしている。
「ローレッド様、そろそろ殿下がいらっしゃいますので中にお入り下さい。」
「おや、残念ですが時間の様ですね。もっと貴方とお話ししたかったのですが。」
「殿下がいらっしゃるなら仕方ありませんよ!」
トゥーリの表情が一気に明るくなる。
ローレッドと言う青年と離れられるのが嬉しいと顔に書いてある。
「そうですね、ちなみに王都にはまだ滞在されるのですか?」
「えっ?えーっと。」
「もし宜しければどこかで我が屋敷に招待させて下さい。それではまた。」
「あっ。」
言葉に詰まっているとローレッドがそう言い残して付き人と共に去っていく。
「モテモテね。」
「はぁ~、やめてくれよラブちゃん。」
トゥーリは大きな溜め息を吐きながら言う。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。相手は将来有望な侯爵家の跡取りなんだから。」
ローレッドと言う青年は高位の貴族らしい。
トゥーリの伯爵家よりも爵位が高い。
「だから困っているんじゃないか。周りの貴族令嬢達からの視線が痛い。」
「どう言う関係なんだ?」
「そう言えばジルちゃんは知らなかったわね。トゥーリちゃんはローレッドちゃんに求婚されているのよ。」
「ほお、そんな相手がいたのか。中々良さそうな相手ではないか。」
ジル達にも軽く会釈してくれたので印象は悪くない。
「面白がってるね?他人事だと思って。」
「嫌なのか?」
「君と同じさ。確実に面倒な事になると分かっていて結婚したいとは思わないよ。それに私は自由恋愛に憧れているんだ。政略結婚なんてまっぴらさ。」
「貴族の発言とは思えないわね。」
トゥーリの言葉を聞いてラブリートが呆れていた。
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