51章

元魔王様とエトワールの生誕祭 1

 王都に着いてから依頼をしたり観光したりしながら過ごしていると、あっという間に日にちが経過して生誕祭の日となった。


「ふいー、なんとか間に合ったかな。」


 ジル達が寛いでいるとトゥーリがやってきてソファーに深く腰掛ける。

生誕祭当日だと言うのに今日まで一人忙しく動いていた。


「お仕事が一段落したのかしら?」


「うん、生誕祭が終わった後も直ぐに帰る訳じゃないからね。これなら少しは観光出来そうだよ。」


 頻繁に来る事が出来無い王都を観光する為に持ってきた仕事を頑張って終わらせたらしい。

ジルやラブリートが王都を出歩いている間、ずっと屋敷にこもって書類と見つめ合っていた成果が出た様だ。


「初耳なんだが直ぐに帰らないのか?」


「あのね、貴族には色々とあるんだよ。殿下の生誕祭で王都には貴族が集結しているんだ。挨拶回りとか交流のある貴族とお茶会とか付き合いがあって直ぐには帰れないんだ。」


 トゥーリの表情を見るに楽しみ半分面倒半分と言ったところだ。

会えるのを楽しみにしている貴族もいれば、あまり顔を合わせたくない貴族もいるのだろう。


「その為に急いで仕事を終わらせたけど、それ以外にもやる事が増えちゃったからね。生誕祭ギリギリまで掛かってしまったんだ。」


「例の奴隷の子かしら?」


「そうだよ。」


 ラブリートも屋敷に帰ってから何度か顔を合わせているエレノラの事だ。

エレノラの主人としてトゥーリが毎日話しを聞いたり、食事を一緒に食べたりと心の距離を縮めていたりした。


 ちなみにジルは初対面の印象からかすっかり怯えられてしまうので、トゥーリが許可するまであまり接触しない様にと言われている。

そしてラブリートの方も実力を感じ取ったのか、エレノラが怯えるのでジルと同じ対応となっている。


「君達が近付けないから色々と話してみたんだけど、随分と可哀想な事になっていてね。」


「可哀想な事?」


「うん、簡単に言えば貴族に嵌められたらしいね。」


 詳しく聞くとエレノラは他の何人かと冒険者のパーティーを組んでいて、貴族の目に止まり専属の護衛として雇われていたらしい。

貴族に雇われるのは冒険者にとって一つの目標であり名誉な事なので皆充実した生活を送れていたと言う。


 そんなある日、パーティーメンバーの一人が屋敷の一室で主人である貴族が違法奴隷を扱っている証拠を見つけてしまったらしい。


 貴族であっても違法奴隷を扱うのは重罪となり、それを近隣の信用出来る貴族に密告しにいこうとしていた道中に、まるで待ち構えていたかの様な盗賊の襲撃にあったらしい。


 その盗賊の連携や練度が騎士の様な腕の立つ者ばかりだったので、主人である貴族が口封じをしたと考えた。

エレノラ以外の仲間はあっさりと殺されてしまい、容姿が優れていたエレノラだけは殺すのは勿体無いと依頼主には内緒で盗賊達が違法奴隷にしたらしい。


 そして盗賊達に犯されている最中に気分が良くなって口が滑ったのか、依頼主の名前を教えてくれたと言う。

それはやはり元主人の貴族であり、その段階でエレノラは仲間の為にも復讐を誓った。


 夜中に盗賊達の目を盗んで逃げ出した後は、魔物に襲われながらも必死に元主人の領地から遠ざかる事だけを考えて走った。

途中で空腹から力尽きて気絶した後は、気付いたら奴隷商人に拾われていたらしい。


「辛い経験をしてきたのね。」


「だからその分、私のところで幸せになってもらうつもりさ。」


 トゥーリは平民だけで無く奴隷にも分け隔て無く接している。

この屋敷で働いている奴隷の待遇も素晴らしく、皆生き生きとしている。

エレノラもトゥーリの下でなら平穏に過ごせるだろう。


「その貴族については分かったのか?」


「うん、中々因縁のある相手だったよ。生誕祭にも来ている筈さ。」


 エレノラが少しずつ心を開いてくれて教えてくれたらしい。

トゥーリも知っている人物であり、生誕祭で顔を合わせる可能性もある。


「エレノラの復讐の手伝いでもするのかしら?」


「そうだね、悪い噂も絶えないし王国にとっては害悪な存在だ。殿下と直接話せる良い機会でもあるし告げ口でもしてみようかな?」


 トゥーリは邪悪な笑顔を浮かべて言う。

王族の力を利用してその貴族を潰すつもりらしい。


「何よりエレノラは奴隷とは言え、もう私の大切な領民だからね。領民の為なら格上の貴族であろうと断罪してみせるさ。この若さで領主をこなしている私がいかに優秀なのか見せる時だね。」


 夜に始まる生誕祭を楽しみにしつつティータイムを満喫するトゥーリだった。

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