元魔王様と孤児救済の魔物狩り 8

 早速ギルドで待っていた子供達を呼び寄せて調理場に向かうと、ユメノが渡しておいたグレートバッファローの肉を一口サイズに切り分けて大量の串焼きを焼いてくれていた。


 次々と焼かれる串焼きを見て子供達は涎を我慢するのに必死であり、受け取ったホッコや子供達が美味しそうに頬張っていた。


 中にはこんなに美味しい肉を食べたのは初めてだと泣いている者までいたので、沢山狩ったので満足するまで食べてもらうとする。


「本当によかったのですか?私達まで頂いてしまって。」


「解体を手伝ってもらった礼だ。あいつらもお前達がいた方が安心出来るだろうしな。」


 テーブルで串焼きを味わうジルに話し掛けてきたのは同席している美酒の宴である。

美酒の宴にも子供達と同じく串焼きを振る舞っていた。

解体に参加してくれたおかげでかなり効率を上げて作業出来たのでそのお礼である。


「約束を破ったのに懐が深いねー。まあ、私達もグレートバッファローのお肉なんて高級な物をタダで食べようとは思ってはいないけどね。」


「酒か?」


 テールナが収納系魔法道具の中から取り出したのは高級そうな酒だ。


「知る人ぞ知る高級ワインっすよ!高いお肉にばっちり合うんす!」


「ほお、なら少し貰おうか。」


 ジルが差し出されたワイングラスを持つとメリッサが注いでくれる。

深い紫色の濃い液体がワイングラスを満たしていき、美味しそうな香りが鼻に抜ける。


「少しと言わずどんどん呑んでくれても構わないよ。美味しいお肉のお礼さ。」


「気に入ってもらえると良いのだけれど。」


 三人に勧められてジルはワインを呑む。

ほんのりとした上品な甘さが口の中に広がる。

口当たりが良くていくらでも呑めそうだ。


「美味いな。」


「おっ、いいっすね、じゃんじゃん呑むっす!」


 メリッサも魔法道具の中から同じワインを何本か取り出してテーブルに並べていく。


「そんなに呑むのか?」


「私達は三人ともお酒が大好きなの。パーティー名の由来でもあるのよ。」


「それで美酒の宴か。」


 既に三人はワイングラスを何度も空けている。

それなのに全く酔っている気配が無い。

パーティー名通り、かなり呑み慣れているのだろう。


「酒は大好きっす!呑んでいる間は最高に生きてるって実感出来るっす!」


「宴も大好きだから冒険終わりは毎回こんな感じなんだ。」


「成る程な。」


 依頼の疲れを癒す為に宴をする冒険者は多い。

いつ死ぬか分からない職業なので楽しめる内に楽しむのだ。


「ジルさーん、呑んでまふかー?」


 フラフラとした足取りで近付いてくるのはユメノだ。

こちらも美酒の宴の出したワインを呑んだ様で、呂律が回らないくらい酔っている。


「ユメノ、そんなに酔って大丈夫か?」


「酔ってないれすよー。」


 それは酔っている者しか言わない台詞である。

串焼きを作るのは子供達の年長組に変わってもらって、自分も呑んだり食べたりを楽しんでいる。


「そんな事より査定が終わりまひたよー。」


「おっ、早速貰おうか。」


「はいー、どうぞー。」


 ユメノが手に持っていた袋を渡してくれる。

受け取った袋は軽かったが、中身を見ると安くはないのが分かる。


「大金貨まであるとはかなりの値段になったな。」


 中には金貨どころか大金貨も数枚入っている。

高ランクの魔物の群れの素材なので中々の金額になった様だ。


「状態の良いグレートバッファローがあんなにいたんれふからねー。」


 ギルドとしても状態の良い素材は大歓迎である。

高ランクの魔物と言うのはランク相応に強いので戦闘も長引く傾向にある。


 そうなると魔法や武器によって身体が傷付けられて素材が傷んだり使い物にならなくなる事も多いのだ。

故に良質な素材と言うのはそれだけで高額で買い取ってもらえる。


「これなら一人金貨2枚くらいは配れるか。」


「えっ!?そんなに!?」


 ジルが子供達の人数を見ながら呟くと、ミチチカが驚いている。

子供達の依頼料としては破格過ぎる。


「いいんれふかー?ジルさんの儲けが少ないのではー?」


「我も大量の肉を手に入れられたから構わないぞ。これで少しは美味い物が食える様になるだろう。」


「あれだけの人数が金貨2枚ずつも貰えたら暫く困らないだろうね。」


 こんなに大勢の孤児達が大金を得るのは初めてだろう。

定期的に国から支給される孤児院の経営費よりも高いかもしれない。


「そろそろ年長組には戦う術を教えて孤児院に安定した収入を得られる様にするのもいいかもしれないわね。」


「Aランクパーティーが教えるなら安心だな。今回の報酬はその装備代にしてくれてもいいぞ。」


「それなら直ぐにでも戦う基盤は整えられるっすね。」


 装備と言うのは何かと金が掛かる。

その初期投資と考えると金貨なんて直ぐに無くなってしまうかもしれないが、今後の安定した収入に繋がるなら良い金の使い道だろう。

これで冒険者達に使い潰される事も無くなる。


「ならば早速報酬を渡してくるとしよう。後の事は面倒を見るお前達に任せるとする。」


 ジルが孤児達に金貨を配って回るとこんなに受け取れないと年長組が慌てている。

だが小さい子供達は嬉しそうに受け取っており、ジルがいらないなら報酬は無しになると言うと年長組は深々と頭を下げながら受けとってくれた。


「Dランク冒険者とは思えない程に優秀で強く慈悲深いね。」


「今回は素晴らしい冒険者と出会えた良い日でした。」


「また一緒にお酒呑みたいっすね。」


「王都に移籍してくれないれしょうかー。」


 ジルの知らないところで女性陣からの評価が相当高まっていたが、さすがに遠いのでジルの耳に入る事は無かった。

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