元魔王様と孤児救済の魔物狩り 2

 ティータイムを充分に満喫した後、ジルとホッコは街に繰り出していた。

滞在中に屋台制覇を目指して通り道にある屋台で買い食いをしていると両手では収まりきらない量となってしまい無限倉庫にも収納していく。


「主様とおでかけ嬉しいの!」


 隣りでは上機嫌で歩く獣人姿のホッコ。

変化のスキルを使用する瞬間だけ気を付けてもらえれば、どちらの姿で過ごそうとも構わない。

一見すると狐の獣人族にしか見えない。


「と言っても向かう場所はギルドだけどな。」


「それでも嬉しいの!」


 二人が向かっているのは王都の冒険者ギルドだ。

ミラに王都に着くまでは仕方無いが、着いたら簡単なものでもいいから定期的な依頼は受けてほしいと言われている。

なので暇潰しがてら依頼を見にきたのだ。


「人がいっぱいなの!」


「ふむ、混む時間帯とはずらしてきたのだが王都はこれが普通か。」


 昼を過ぎたくらいの時間帯なのだが、ギルドの中には冒険者が多い。

他の街のギルドとは違って冒険者の母数が多いからだろう。


「さて、良い依頼があるかどうか。」


 Dランクの依頼が貼られているボードを物色していく。

さすがは王都、セダンの街の依頼ボードよりも数多くの依頼書が貼られている。


「ここはお得意の納品依頼にしておくか。」


 薬草や魔物の素材等の納品依頼を何枚も取って受付に持っていく。


「ようこそ王都冒険者支部へ。他の街から来た冒険者の方ですか?」


「ああ、よく分かるな。」


「受付嬢をしていると多くの冒険者の方と接しますから、大体覚えているんですよ。」


 王都の様な冒険者が特に多い場所でも記憶出来るとは、中々優秀な受付嬢の様である。


「それにこーんな可愛い子を連れていたら忘れる筈がありません。」


「ありがとうなの!」


「はぁ~、獣人族は癒されます~。」


 トゥーリの屋敷の者だけで無く、美人受付嬢まで虜にするとはホッコの笑顔は凄まじい。


「それで依頼の手続きをしたいんだが。」


「ああ、すみませんでした。私は受付嬢のユメノです。以後お見知り置きを。早速依頼書と冒険者カードを拝見しますね。」


 ユメノに言われて持っていた複数の依頼書と冒険者カードを渡す。


「納品依頼に納品依頼に納品って、納品依頼ばかりですね。」


「何か問題あるのか?普段活動している場所だと普通なのだが。」


「いえいえ、珍しいなと思っただけですよ。おそらく収納系のスキルや魔法道具を所持しているのでしょうし。」


 そう言ったものを持っている冒険者は納品依頼を受ける者が多い。

多くの冒険者がそれでは納品依頼しか達成されずギルド的には困るのだが、収納系のスキルは珍しく魔法道具も高価なので特に問題は無い。


「そう言う事だな。」


 ジルが受付に納品物を出していく。

納品依頼はこう言った素材系を何かの依頼や用事のついでに集めておくだけで達成出来るので楽なのだ。


「中々の量ですね。」


「手が空いているので手伝いますよ。」


「ありがとうございます。」


 他のギルド職員が素材の確認をする為に受付から持っていく。

王都のギルドは冒険者に合わせて職員も多いので、時間の掛かる作業は分担している様だ。

おかげでユメノは依頼書を処理する作業が出来る。


「これだけの数を一度に達成出来るとは、ランクが上がるのも直ぐですね。」


「そうなるよな。」


「ん?なんですか?」


 ユメノが差し出された封筒を受け取って首を傾げている。

ミラが事前に王都のギルドで依頼を受ける際にと渡してくれていた物だ。


「まあ、読んでみてくれ。」


「はぁ。」


 封筒から手紙を取り出して中を読み進めていくと少し驚いた様な顔をしてジルを見ている。

詳しくは何が書かれているのかは分からないが、ランク上げについてと言う事は分かる。


「ランク上げについてはDのままで処理する様にですか。ギルドマスターの印まであるとは、普通のDランク冒険者ではないと言う事ですね。」


 ジルの事を興味深そうに観察してくるユメノ。

さすがに見た目からSランククラスの実力があるかは分からないだろう。


「想像は勝手にするといい。まあ、そう言う事で頼む。」


「分かりました。一先ず王都で依頼を受ける際には私のところに来ていただければ。その方がスムーズに手続き出来ますから。」


「分かった。」


 それ以上深くは詮索せずに再び依頼書の処理作業に戻る。


「主様、あの子達は冒険者なの?」


「ん?」


 ホッコがギルドの端の方を指差しているので視線を向けると、10歳にも満たない子供が大勢いる。

そして冒険者に声を掛けたり、文字の書かれたプレートを掲げたりしている。


「あれは孤児ですね。」


「孤児?」


「はい、冒険者の手伝いをして金銭を受け取る為にアピールしているのです。稼がなければその日の食事にもあり付けませんから。ギルドマスターも孤児を餓死から救う為に許可を出しているのです。」


 王都であってもそう言った問題は尽きない。

むしろ人が多く集まるからこそ、孤児や貧民の数も相応に多くなるだろう。


「この中で足に自信のある奴はどいつだ?」


 孤児達の方を見ていると一人の冒険者が話し掛けている。

雇おうとしている様だ。


「私が一番速いですけど。」


「ならお前だ、高額で雇ってやる。」


「本当ですか!」


 高額と言う言葉に女の子が喜んでいる。


「ああ、囮役がいなくて困ってたんだ。死ななければ大金が手に入るぜ?」


「えっ。」


 冒険者の男の言葉を聞いて孤児の女の子が困惑した様な表情になる。

どうやら危険な囮役として使い捨て目的で声を掛けたらしい。


「これが王都の冒険者のやり方か?」


「そんな訳無いでしょう?あれは流れですよ。」


 他の街から来た冒険者の事を流れと呼ぶらしい。


「しかし困りましたね。あの冒険者はBランクと実力は…ってちょっと!?」


 ジルがその冒険者に向けて歩き出したのでユメノが焦っている。


「おい、その手を離せ。」


 周りが誰も止めようとしないのでジルが女の子の腕を無理矢理引っ張ろうとしている男の腕を掴んで止めた。

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