元魔王様と孤児救済の魔物狩り 3

 ジルに腕を掴まれた男は振り向いてジルを睨み付ける。


「なんだお前?」


「聞こえなかったのか?手を離せと言っているんだ。」


「俺に指図するんじゃねえ!」


 男がジルに掴まれていない方の手で殴り掛かってくる。

それをジルは空いている手で軽々と受け止める。


「穏便に済ませてやろうかと思ったが暴力を振るってきたな?これは正当防衛って事でいいよな?」


「ぐああああ!?」


 ジルは両方の手に力を入れていく。

すると男の腕と拳が締め付けられて、思わずその痛みに悲鳴を上げて女の子の腕から手が離れる。


「よし、離したから許してやろう。さっさと去れ。」


 子供達が怯えてしまっているのでこれ以上近くにいさせるのはよくない。

ジルは男を追い払う様に手を振る。


「はぁはぁ。なめんじゃねえ!」


 男は一方的にやられてばかりで頭にきたのか、怒りに任せて腰の剣を抜き放つ。

そして目の前のジル目掛けて振るってきた。


「ちょっ!?ギルド内で剣なんて!?」


「やれやれ、短慮な奴だ。」


 ユメノが声を上げるが既にジルに向けて剣が振られているので静止は間に合わない。

人族の世界で暮らしてそれなりに経つので、殺すと言う選択肢を簡単に取らない方がいいのは分かる。

だが多少は痛い目に合わせても文句は出ないだろう。


 ジルは開脚して身体を沈ませて振られた剣を避ける。

そして片手を床に付いて自身の身体を軽く浮かせて、身体を回転させながら足で無防備な相手の足を払う。

ジルの足払いにより体勢を崩した相手は床に倒れ、その腹に掌底を叩き込む。


「かはっ!?」


 男は掌底で床に叩き付けられて強制的に息を吐かせられる。

その衝撃はギルドの床に伝わって建物を少し揺らす程であった。

そんな威力なので男は白目を剥いて気絶している。


「殺されないだけマシだと思えよ。」


「さっすが主様なの!」


 主人の鮮やかな攻撃を見てホッコが喜んでいる。


「この馬鹿から仕掛けてきたんだから我に文句は無しだぞ?」


 唖然としながらこちらを見ていたユメノに言う。


「…分かっていますよ。言動に態度、どちらも最悪でしたからね。それにしてもBランクの冒険者をこうも圧倒するとは。」


 態度が悪くても実力は確かな冒険者だった。

それを一方的に圧倒したジルの実力がDランクで無いのは明らかである。

セダンのギルドが優遇するのも納得であった。


「大丈夫?」


「う、うん。助けてくれてありがとうございます。」


 ホッコが尋ねると腕を掴まれていた女の子が深々と頭を下げてくる。


「あ、腕が腫れちゃってるの!」


「えっ?」


「少し貸してみるの!」


 掴まれて腫れてしまった腕に手を向けて魔法を使用する。

神聖魔法による優しい光が当てられて腫れた部分が治っていく。


「な、治ってる。でも、治療費を払うお金は。」


「そんなのいらいの!治って良かったの!」


 お金を気にしている女の子だがホッコは善意で治しただけなので貰うつもりはない。

純粋に治った事を喜んでいる。


「で、でも。」


「ホッコがいらないと言っているんだから金なんて取らないぞ。」


「本当にありがとうございます。」


 女の子はまたもや深々と頭を下げてくる。

するとその身体からぐぅーと言う音が聞こえてくる。

そして女の子は恥ずかしそうにお腹を抑える。


「お腹減ってるの?」


「あ、うん。」


「主様、屋台のあれを分けてあげたいの!」


 お腹が空いていると聞いてホッコがジルに言う。


「ん?後から食べるんじゃなかったのか?」


「ホッコはもうお腹いっぱいなの!」


「そうか。我の相棒は優しいな。」


 ジルが頭を撫でてやってから無限倉庫のスキルを使用して、屋台で買った食べ物を出して渡す。


「他にも食べたい者は並ぶといい。」


 ジルが後ろの子供達に向かってそう言うと一斉にジルの前に並び出す。

皆お腹を空かせていた様だ。


「さて、お前達は冒険者の手伝いをして金銭を貰っているらしいな?」


「は、はい。」


「ならば我が雇ってやろう。」


「え?」


「それは名案なの!」


 ジルの言葉にホッコは大賛成とばかりに両手を上げて喜んでいる。


「と言う事で報酬に加えて腹一杯食べたい者は幾らでも付いてこい。屋台の食べ物くらいでは満腹にはならないだろう?」


 そう言ってからジルが依頼ボードの方に歩いていく。

すると女の子がその後を付いてきて、一人また一人と結局子供達全員がジルの後に付いてきた。


「ちょ、ちょっとジルさん!?」


「なんだユメノ?」


「そんなに大勢引き連れてどこに行くんですか!?」


 さすがに人数が多過ぎるとユメノは言いたいのだろう。

こんなに戦えない子供達を引き連れていては依頼どころでは無い。


「それをこれから決めるのだ。だから手頃な依頼がないか探してくる。」


「え、本気ですか?」


 ユメノの困惑する様な声を残してジルは依頼ボードを見にいった。

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