50章

元魔王様と孤児救済の魔物狩り 1

 奴隷の売買を行い、スリープシープの素材加工を依頼し、屋敷に戻ったのは日が暮れる頃であった。

王都には訪れた際に滞在する拠点として別荘を持っている貴族が多いらしく、ジル達が王都に滞在する間もトゥーリの屋敷で世話になる事になっている。


 普段は使用人達が過ごす場所として使われているらしく、手入れも行き届いているので快適に過ごせそうだ。

そして無事に王都に到着した事を記念して夜は盛大にパーティーが行われて盛り上がった。


 奴隷商館で購入された子供達も、早速身だしなみを整えられて給仕の手伝いをしてトゥーリに褒められ喜んでいた。

エレノラに関しては教会へ書簡を送ったので治療までは暫く掛かるらしい。


 一先ず傷くらいは治そうと上級ポーションを与えたり、エレノラの話しを聞いたりとトゥーリ自らが世話を焼いていたので任せても問題無さそうだ。


 到着した次の日、ジルは屋敷のテラスで優雅にティータイムを楽しんでいた。

トレンフルぶりの貴族の屋敷での贅沢、せっかくならこの機会にとことん楽しむつもりである。


「主様、これとっても美味しいの!」


「良かったな、トゥーリが幾らでもくれるから好きなだけ食べるといい。」


「嬉しいの!」


 獣人化したホッコがテーブルに用意されたお菓子を頬張って幸せそうな表情を浮かべている。


「全く、朝起きたら知らない獣人の美少女がいるから驚いたよ。」


「姿を変えられるスキルを持つ魔物なんて珍しいわよね。」


 トゥーリとラブリートがホッコを興味深そうに見ている。

朝のティータイムにホッコと二人でやってきたのだが、浮島では人型で食べる事が多くてその方がホッコも食べやすいだろうと変化のスキルの使用許可を出したのだ。


 ここはトゥーリの屋敷内なので気を付けるとすれば外でスキルを使用して姿を変える時くらいだ。

それに人の姿に変わるスキルと言うのは珍しいが持っている魔物も発見されているので大騒ぎになる程でも無かったりする。


「一応あまり広めないでくれ。珍しい事には変わりないから騒がれると面倒だ。」


「分かっているよ、屋敷の皆には後で伝えておくとしよう。と言っても皆ホッコちゃんにメロメロだけどね。」


 今もメイド達に囲まれて甲斐甲斐しくお菓子を与えられているところだ。

無邪気な可愛さに心打たれて皆の目がハートマークに見える。


「君達はティータイムの後に何か予定はあるのかい?」


 トゥーリがお菓子を口に放り込んで紅茶を飲みつつ尋ねてくる。


「私は王都の店を回るつもりよ。美容グッズを扱う店が多くて困っちゃうわ。」


「昨日行ったのに今日もか?」


 奴隷商館や魔法道具店に足を運んでいる間にラブリートは別行動をしていた。

それなのに昨日だけでは足りなかったらしい。


「分かってないわね。美容グッズと一言に纏めても種類は豊富で用途も様々。滞在中全てを注ぎ込んでも足りないのよ。だから早速行かないと。」


 ラブリートの体格からするとおもちゃの様なティーカップを飲み干してから立ち上がる。


「一応護衛って事忘れてないよね?」


「殿下の生誕祭は三日後でしょう?いつもの護衛通りならこれから三日間屋敷に籠るんだから護衛なんていらないじゃない。」


「はぁ~、思い出させるのはやめてくれよ。今から考えても憂鬱だよ。」


 ラブリートの言葉を聞いてトゥーリが大きな溜め息を吐き出す。

そして心底嫌そうな表情を浮かべている。


「何で引き篭もるんだ?」


「仕事だよ仕事。こっちに来てる分、セダンで仕事が出来無いから書類なんかはこっちで片付ける為に持ってきてるんだよ。」


 王都を往復する間も領主としての仕事は溜まっていく。

少しでも片付けられる様に王都までわざわざ仕事を持ってきているらしい。


「領主様も大変よね。それじゃあ私は楽しんでくるから頑張ってね。」


 ラブリートが上機嫌に手を振って去っていった。


「ぐぬぬぬ、本当は私だって王都散策がしたいのに。」


 立場と距離の関係上、王都には頻繁に赴く事は出来無い。

だからこそトゥーリもせっかくの機会に街を見てまわりたいのだ。

それは自分の領地の発展にも繋がる事であるし、純粋に観光を楽しんで日々の疲れを癒したい。


「先に言っておくが我は手伝わないからな。」


「薄情な護衛を持って私はなんて可哀想なんだろう。」


 よよよとトゥーリが目元を手で隠して泣き真似をしている。


「そんな事をしている暇があるならさっさと取り掛かるんだな。」


「はぁ、君までシズルみたいな事を言わないでくれよ。仕方無い、頑張って早めに終わらせて自由時間を勝ち取るとしようかな。」


 トゥーリもティーカップを一気に飲み干して執務室に向かっていった。


「さて、我はこの後どう過ごすかな。」


 残されたジルは暫しティータイムを楽しみつつ、後の予定を吟味した。

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