元魔王様と王都ジャミール 8

 女性の奴隷が静かになったので子供の奴隷達同様に奴隷の契約を行う。

スムーズに作業が出来て助かると礼を言われた。


「これにて奴隷の受け渡しは完了となります。伯爵様、またのお越しをお待ちしております。」


 奴隷商人に見送られて商館を後にする。

盗賊の奴隷達も引き取ってもらえたので次はスリープシープの素材だ。


「その前に皆には先に戻っておいてもらおうかな。」


 奴隷をぞろぞろと引き連れて行動するのは目立つ。

王都は人通りも多いので逸れてしまう可能性もあるので少人数の方が良い。


「シズル、キュールネ、皆の事は任せてもいいかい?」


「はっ、先に屋敷に戻っておきます。」


「ジル様、トゥーリ様の事はお任せ致しますね。」


「ああ。」


 ジルが護衛であれば安心だと二人は馬車に乗り込み、奴隷達も同じく馬車に乗せていく。


「エレノラちゃんも大人しく待っていてね。悪い様にはしないからさ。」


 エレノラとは片目を失っている殺気を放っていた女性の奴隷だ。

トゥーリの言葉を受けてジルの方に視線を向けてくる。


「何か問題を起こせば…分かっているな?」


「っ!?」



 エレノラは身体をビクリと震わせている。

シズルの助けを借りて馬車に逃げる様に乗り込んでいく。

最初に出会った時に放っていた殺気もすっかり消え失せており、ジルへの恐怖しか感じられない。


「あーあー、可哀想に。怯えちゃってるじゃないか。」


「トゥーリの為にしてやってるんだぞ?暴れて配下が傷付けられたら困るのはお前だろう?」


「確かにね。」


 全員乗り込んで出発する馬車を見ながら呟く。

打ち解けるのは難しそうだが、こればかりは時間を掛けていくしかないだろう。


「それで高位の司祭とやらは直ぐに来てくれるのか?」


「貴族とは言っても事前の面会予約も無しに簡単に動いてはもらえないよ。教会は教会で権力を持っているからね。」


 教会の高位の司祭を動かすとなると王族ならまだしも貴族では予約は必要らしい。

それだけ神聖魔法の高い魔法適性を持つ者が少ないのだ。


「だから先にスリープシープの素材をやってしまおうか。エレノラにはもう少し待っていてもらう事になるけど、必ず治してみせるよ。」


 せっかく戦闘の出来る奴隷として購入したのにあの状態ではまともに戦う事なんて難しいだろう。

それに何やら深い事情もあるみたいなので、そちらも主人として解決してあげたい。


「さあ、到着だよ。」


 雑談しながら移動して目的の店の前に辿り着いた。

冒険者ギルドと変わらない程のかなり大きな店舗である。


「王都支部魔法道具専門店メイカー?」


「あれ?メイカーって聞いた事無い?結構有名な魔法道具を扱うお店なんだけど。」


 戦闘で扱う魔法武具では無く、生活や日常に使える便利な魔法道具を専門に取り扱っている店らしく、様々な街に支店を持っている大手の店舗らしい。

魔法道具の製作依頼や素材の加工ならば、取り敢えずここに持ち込めば安心だと言う。


「スリープシープの素材なんて下手に素人が扱えば大変な事になるからね。」


「確かに。」


 近付く者全てを眠らせる強力な催眠効果を持つ羊毛は非常に危険だ。

適切な加工を施せないと羊毛の餌食になって眠らされてしまうだろう。


「いらっしゃいませ!メイカーへようこそ!」


 中に入ると元気な店員が迎えてくれる。

そのまま複数ある受付の一つに通される。


「本日はどの様な用事でしょうか?」


「解体も含めて素材の加工をお願いしたくてね。」


「承りました、こちらへどうぞ。」


 店員に促されて奥へと通される。

店の中を進んでいくと広い倉庫の様な場所に出る。

魔物の解体をする者、素材を仕分けている者、魔法道具を作っている者と皆忙しそうに働いている。


「解体する魔物の名前を教えて頂けますか?」


「スリープシープだよ。」


「珍しいですね。ではこちらに。」


 店員は解体する魔物の名前を聞いて少し驚いている。

こう言った素材が多く持ち込まれる場所でも珍しい魔物の様だ。


「お二人共一応こちらを付けて下さい。魔物はここに出して下さい。」


 スリープシープと言う事を考慮して隔離された解体部屋に案内される。

ここならスリープシープの被害が広がる事も無さそうだ。

ついでに顔を覆う布も渡されたので鼻と口が塞がる様に身に付ける。


「おおお、スリープシープが三体も!」


 無限倉庫の中から取り出す。

水による窒息で倒したので素材の状態は非常に良い。


「普段使いでも問題無い様に素材の加工をお願いするね。それとベッドシーツと枕を三つくらい作ってほしいかな。」


 自分用だけで無くジルやラブリートの為にも作ってくれる様だ。

欲していたのを覚えてくれている。


「分かりました。お届け先はどちらでしょうか?」


「貴族街のセダン伯爵家の屋敷って分かるかな?」


「お貴族様の依頼でしたか!場所も分かりますよ!精一杯やらせてもらいます!」


 店員がやる気を漲らせて答える。

貴族からの依頼を成功させて満足してもらえれば店の評判は更に上がる。

大手店舗としては失敗出来無い依頼だ。


「うん、お願いするね。ちなみに素材の方は王家にも贈る予定だから。」


「メイカーの職人達にお任せ下さい!必ずやご満足頂ける出来に仕上げてみせます!」


 王家と聞いて目や背後にメラメラと燃える炎が見える。

店に箔を付ける為にも全力で取り組んでくれそうであった。

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