元魔王様と強制睡眠 9
全てのスリープシープを討伐出来たので今後こそ村人達を起こせる。
一応空間魔法でスリープシープが村の周囲にいないかこっそりと確認済みなのでもう心配いらない。
「それじゃあ村人達を起こしていこうか。ポーションはジル君に預けているのを使用する事にしよう。」
王都を目指して進むにあたって必要になる物資が多かったが、それは全てジルの無限倉庫の中に入れてある。
なので馬車には殆ど荷物が積まれておらず、一台でも窮屈な思いをせずに移動出来ている。
「だが人数分のポーションは無いぞ?」
見える範囲に倒れている村人だけでも五十人はいそうだ。
それに対してポーションは十本程しか預かっていない。
「心配いらないよ。今回は治療目的じゃなくて、その味を活かすだけだからね。一本飲ませる必要は無いんだ。」
そう言ってポーションを受け取ったトゥーリが近くの男性の口に少しだけ流し込む。
「ごふっ!?不味い!?なんだこれは!?」
男性は直ぐに目を覚ました。
ポーションの不味さは相当なものである。
「無事に目覚めたみたいだね。」
「ん?誰だあんた達?この村の人じゃ無いな?」
「私はトゥーリ・セダン。セダンの街の領主さ。」
「…も、申し訳ありませんでした!」
男性は少しフリーズした後に言葉の意味を理解して地面に頭を擦り付ける。
貴族とは思わず失礼な言動をしてしまい、相当焦っている様子だ。
「あーあー、そこまでしなくて大丈夫だよ。私はこれくらいで不敬罪なんて言ったりしないからさ。頭を上げて上げて。」
トゥーリがそう言うと男性は恐る恐る顔を上げる。
子供とは言え貴族のトゥーリを前にかなり緊張している様子だ。
「お父さん!」
「ミナ?一体何が何やら。」
突然涙目で抱き付いてきた娘にミナの父親が困惑している。
起きたばかりで状況が分かっていないのだろう。
「お父さんや皆は魔物に眠らされちゃったんだよ。それをお姉ちゃん達が助けてくれたの。」
「魔物?そう言えば羊に触った途端に眠気が。」
意識を失う前の事を頑張って思い出している。
「その羊が魔物だったんだ。珍しい魔物だし羊にそっくりだから気付かないのも仕方無いよ。」
「そうだったんですか。助けて頂きありがとうございました。」
トゥーリに助けられたと知って父親は深々と頭を下げてくる。
「うん、無事で何よりだよ。これから他の村人達も起こしていくから手伝ってくれるかい?それと事情説明もね。」
「お任せ下さい。」
手分けして村人達をポーションで起こしていく。
子供達が苦々しい表情で起きると言う可哀想な光景もあったが、嫌がらせでは無いので我慢してもらうしかない。
そして皆の反応を見て改めて緊急時以外ポーションは飲まないとジルは心に誓った。
「トゥーリ伯爵様、無事に村人全員が助かる事が出来ました。何とお礼を言ったらいいか。」
「村長さん、気にしなくていいよ。今回のは偶然通りがかっただけだからさ。」
代表してトゥーリが村長や村人達から感謝や謝礼を受け取っている。
「ねえお兄ちゃんとお姉ちゃん。」
「何かしらミナちゃん?」
ミナにお姉ちゃんと呼ばれて嬉しかったのか、異常な反応速度でラブリートが笑顔で尋ね返す。
ミナにはラブリートが女性として映っている様だ。
「二人って冒険者さんなの?」
「そうよ、とっても強い冒険者よ。」
「本当に言葉通りだな。」
他の冒険者が言えば謙遜しろと言われるかもしれないが、国家戦力のラブリートが言うと誰も何も言えない。
「じゃ、じゃあ強いゴブリンも倒せる?」
「強いゴブリン?ゴブリンの上位種かしら?」
「ゴブリン種くらい我らなら余裕だな。」
統率個体とも戦った事はあるが仕留め損なった事は無い。
一番強かったゴブリンと言えばトレンフルのダンジョンで戦ったゴブリンニンジャだが、さすがにそのレベルの話しでは無いだろう。
「本当!?村の近くに住み着いたのを倒してほしいの!」
「こらミナ、突然何を言うんだ。お二方に迷惑だろ。」
「だ、だって…。」
「まあまあ、お父さん落ち着いて。ミナちゃん詳しく聞かせてくれるかしら?」
お姉ちゃんと呼ばれたのが嬉しかったのかラブリートは上機嫌だ。
父親を宥めて話しの続きを促す。
「最近ゴブリンが村の近くに住み着いて、お父さん達が毎日大変そうなの。だからいなくなってほしくて。」
「そうなのか?」
ジルが真偽を確かめる様に確認するとミナの父親が頷く。
「はい、村の者では戦闘員も少なくて討伐までは。狩りをする者達で頑張って追い払っているのですがいつまで続けられるか。」
どうやら村人達では対処出来無いレベルらしい。
ゴブリンは比較的弱い魔物と言っても数が多ければ厄介な魔物だ。
「成る程ね、それを私達に討伐してほしいって訳ね?」
「そうしたいところなのですが、残念ながら村には高ランクの冒険者を雇える程のお金がありません。」
「つまり我らに依頼したくても難しいと言う事か。」
「そうなります。」
冒険者に依頼するのであれば報酬は必要だ。
一度善意でタダ働きをしてしまうと、何故こちらもタダで引き受けてくれないのかと別の依頼で揉める可能性があるのでギルドでは善意でもタダ働きは推奨されていない。
「ミナちゃん、私の事をもう一回呼んでみてくれる?」
「え?お姉ちゃん?」
ミナは意図が分からず首を傾げながら言う。
「ふふふっ、素直な子供って可愛らしいわね。失礼な冒険者共にも見せてやりたいわ。」
「…そうだな。」
ラブリートが何を言いたいのかを察して余計な事は言わない様にしておく。
「あの、一体どう言う?」
「ミナちゃんの笑顔が見られれば報酬としては充分よ。私達で倒してあげるわ。」
自信満々にラブリートが宣言するが、言葉通りならばジルも強制参加させられそうであった。
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