元魔王様と強制睡眠 7

 トゥーリの言う通りスリープシープの移動速度は遅い様で、手分けして探していると直ぐに見つける事が出来た。


「確かに大きいな。」


「大きいだけで本当に見た目は羊そのものね。」


 初めて見たジルとラブリートが感想を呟く。

何も知らなければ大きな羊と思って近付いてしまっても仕方無いだろう。

だが万能鑑定で見るとしっかり名前がスリープシープとなっている。


「早速元凶は焼却してしまうか。」


「ちょっと待った!」


 ジルが手に火球を作り出すとトゥーリが腕にしがみついて待ったを掛けてくる。


「何をする、危ないだろう。」


「ジル君こそ燃やそうとしないでよ。スリープシープの羊毛は凄く貴重で滅多に手に入らないんだよ。全身が残る様に倒さないと勿体無いよ。」


 どうやら火魔法による討伐は駄目らしい。

素材として取れる羊毛が高く売れるので燃やすなんて勿体無いと言う。


「それじゃあ私が石でも投げてみる?」


「ラブちゃんの攻撃力じゃ消し飛んじゃわないかな?」


 Sランク冒険者であるラブリートの身体能力は人族の域を軽く超えている。

そこから繰り出される投石も当然人外の威力を持っているだろう。


「手加減して投げるつもりだけど、それくらいしか私には攻撃手段が無いわよ?」


 近付くと眠らされるので得意の近接攻撃は出来無い。

そもそもラブリートの近接攻撃を受ければ、それこそ跡形も無く爆散する可能性が高い。


「我も火魔法が駄目なら剣くらいしかないぞ?」


「うーん、剣かー。」


 トゥーリは剣を使うのも少し躊躇っている。

なるべくスリープシープの羊毛にダメージを与えたくないのだろう。


「そもそもスリープシープってどうやって倒すのが一般的なのかしら?」


「基本的に価値があるのは羊毛だから、側はあまり傷付けたくないね。だから初級水魔法の水球とかで顔を包んで、窒息させるのが一番良い方法かな。」


 確かに水による窒息であればスリープシープの羊毛に被害は無いだろう。

しかしラブリートもトゥーリも水魔法の適性は持っていない。


 ジルの魔法適性について知っているラブリートがチラリと視線を寄越すが、当然トゥーリの前で使うつもりは無い。

価値のある魔物と言っても自分の力をバラして目立つ様な真似はしたくないのだ。


「シズルかキュールネは持っていないのか?」


「残念ながら二人共水の魔法適性は持っていないんだ。」


 トゥーリが残念そうに呟く。

スリープシープと出会えると分かっていれば水魔法適性を持つ従者を追加で連れてきていた事だろう。


 ちなみに万能鑑定で確認すると村人の中には水魔法適性を持つ者が何人かいる。

しかし使えたとしても水球を操ってスリープシープの顔を包んで維持する様な練度には至っていないだろう。

普段から使っている者で無ければ細かな動作は難しい。


「ならば諦めるんだな。剣で倒してもそれなりに素材は手に入るだろう。」


「えー、ジル君何か良い方法はないの?」


 トゥーリは諦めきれないのか食い下がってくる。


「何故そんなに拘るんだ?」


「だってスリープシープの羊毛って貴族でも中々手に入らないくらい貴重なんだもん。あの羊毛に手を加えて作ったベッドは快適な睡眠が保証される世界一のベッドって評判なんだよ。」


 スリープシープの羊毛で出来たベッドを想像しながらトゥーリが説明する。

貴族でも入手困難となるとその価値は相当なものだろう。


「へえ、そんなに良い物なのね。睡眠は美容にも重要だから私も欲しいわね。」


 ラブリートも素材に興味を示した。

美を求める者として関連性のある道具は入手しておきたい。


「そんな事を言われても我は水魔法を使えんぞ?」


「代案はないかな?ジル君は色々と規格外だからさ。」


「ふむ。」


 トゥーリの言葉にラブリートも期待する様な視線を向けてくる。

水魔法を使える事は知られているので使ってほしいのだろう。


「これならば使えるか。」


 二人が中々諦めないのでジルが無限倉庫の中から小さな杖を取り出す。

装飾が施されている見た目が良いだけの杖で特に魔法道具などでは無い。


「何々?何か良い物があった?」


「魔法道具で良さそうな物があったぞ。」


 そう言う杖を持っていた事にして水魔法を使う事にした。

トゥーリには見破る術が無いのでこんな嘘でも誤魔化せる。


「だが使うには条件がある。」


「何かな?」


「ラブリート、トゥーリの目を塞げ。」


「了解よ。」


 ラブリートはジルに言われた通りに素早くトゥーリの両目を塞いで見えなくする。

水魔法を使うのを見られれば気付かれるかもしれないので、一応視界を遮断して情報を与えない様にしておく。


「え?ジル君?ラブちゃん?何で私は見たらいけないんだい?」


「ジルちゃんがそう言うんだから仕方無いじゃない。スリープシープの羊毛を手に入れたいんでしょ?指示には従わないと。」


 ジルが火魔法以外の適性を他人に知られたくない事はラブリートも知っている。

なので雇い主と言えどトゥーリにもその事は知られる訳にはいかない。

ジルが我儘を聞いてくれたのでそれくらいの対応はする。


「それはそうだけど、この行動の理由が気になると言うか。」


「よし、もういいぞ。」


 トゥーリが視界を塞がれている事に不満を抱いている間にジルが水魔法でスリープシープを仕留めた。

目に当たっていた手が外されると横たわるスリープシープがいた。


「結局倒すところは見られなかった。」


「それよりも無事に素材が手に入ったんだから我に感謝するんだな。」


「それはそうだね、さすがはジル君だよ。」


 目的はスリープシープの素材を手に入れる事なので、細かい事は気にせず成し遂げられて満足そうなトゥーリであった。

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