元魔王様と強制睡眠 6
眠っていない村人を見つけたジルは皆を集める。
「さて、先ずは自己紹介からだね。お嬢ちゃん名前を教えてくれるかな?」
「名前は、ミナです。」
歳の近いトゥーリが優しく尋ねると少し安心したのか少女が名前を教えてくれた。
「ミナちゃんか、宜しくね。私はトゥーリだよ。そして護衛のジル君にラブちゃん、そして従者のシズルとキュールネだ。」
「お姉ちゃんは偉い人なの?」
これくらいの少女でも護衛や従者を連れている人物がどう言う立場かはなんとなく分かっている様だ。
「そうだよ、お姉ちゃんはとっても偉い人なんだ。だからこの二人みたいな強い冒険者を護衛に雇えるんだよ。」
「あ、あの、お姉ちゃんなら村の皆を元に戻せますか?」
少女が不安そうに尋ねる。
自分以外の村人達が眠ってしまったまま起きないのを心配している。
「眠っている村人達の事だね?事情を話してくれたら力になれるかもしれないよ。教えてくれるかな?」
先ずは原因を知らなければ対処の方法が分からない。
唯一の手掛かりを持っているのがこの少女だ。
「皆が眠っているのは多分魔物のせいなの。」
「魔物か、どんな姿か分かるかな?」
周辺を見渡してみるがそれらしい魔物は見えない。
ここから移動してしまっている様だ。
「大きな羊さんみたいな魔物だよ。最初は皆大きな羊さんが村の近くに現れて喜んでたの。鶏さんみたいに飼えるからって。」
当時の状況を思い出してミナが説明してくれる。
「でも近付いた大人の人達が皆倒れて眠っちゃったの。それを助けようとした人も。それでミナ怖くなっちゃって走って逃げたの。そして戻ってきたら皆眠っちゃってたの。」
悲しそうに顔を伏せながら言う。
「成る程、それはどのくらい前の事か分かるかな?」
「今日の事だよ。朝ご飯を食べた後に羊さんがいて、戻ってきたのはお日様がてっぺんにあった時かな?」
空を見上げながら思い出している。
少し怖い思いをしたからかよく覚えている。
「眠ってから時間は経っていないって事だね。ミナちゃん、有り難う。」
トゥーリは聞きたい事は全て聞けたと満足そうに頷く。
そしてシズルとキュールネに軽く目配せをする。
「ミナちゃん、美味しいお菓子があるので一緒に食べませんか?」
「お菓子!?食べる!?」
キュールネの誘いにミナが簡単に乗る。
子供はお菓子が大好きなのだ。
「ミナちゃんの事は任せるね?」
「はい、私とキュールネにお任せ下さい。」
シズルとキュールネはミナを連れて馬車に向かう。
お菓子を与えて元気付けながらトゥーリ達が自由に動ける様に配慮してくれた。
「って事だけど二人共魔物の正体は分かったかい?」
「我は聞いた事が無いな。」
「私も戦った事は無さそうね。」
冒険者組はどちらも心当たりが無くて何の魔物か分かっていない。
「やれやれ、実戦だけじゃなくて調べ物も大切だよ?と言ってもかなり珍しい魔物だから知らないのも無理はないと思うけどね。」
どうやら口ぶりからトゥーリは魔物の正体に見当が付いている様だ。
「トゥーリは魔物の正体が分かったのか?」
「うん、おそらくスリープシープって魔物だね。」
「初めて聞く名前だな。」
「どんな魔物なのかしら?」
名前を聞いても記憶には無い。
かなり珍しい魔物なのだろう。
「スリープシープはCランクの魔物だよ。と言ってもこのランクは脅威度じゃなくて珍しさで高いだけだけどね。」
魔物のランクは強ければ当然高くなっていくが、個体数が少なかったり遭遇率が低い魔物も高いランクに設定される。
ジルの従魔であるディバースフォクスのホッコも強さと珍しさでランクが高く設定されている。
「Cランクって言っても全く強くなくてね。それこそ普通の動物の羊と変わらないくらいだね。ただ厄介な力を持っている。」
「この眠っている力の事か。」
「そう言う事。スリープシープの体毛は異常な催眠効果を持っていてね。触れば一発アウトだし、目に見えない程小さな毛が周囲を舞っていて、吸い込むだけでも遅延で催眠効果を発揮するらしい。」
一箇所で纏まって眠っている者達はスリープシープに触れてしまい、散らばって眠っている者達はスリープシープに近付いて毛を吸い込んでしまったのだろう。
「攻撃力が無いとは言え、知らなければ恐ろしい力だな。」
ジルやラブリートであってもこの力には抗えない可能性がある。
スリープシープと遭遇した時は充分に注意する必要がありそうだ。
「実際恐ろしい力なんだよね。放っておけば催眠効果は1ヶ月くらい続くらしい。つまり人族であれば餓死してしまう。」
「攻撃力が無くても他の者を殺せると言う事か。気を付けないと厄介だな。」
「相対したら遠距離で戦った方がいいだろうね。」
間接的に他者を簡単に殺せる力なのでスリープシープ自体が強くなくても危険な事には変わりない。
眠らされたら死ぬのと同義とは恐ろしい力だ。
「催眠の解除方法はあるのかしら?」
「激しい痛みか、ポーションだね。」
「痛みは分かるがポーションは何故だ?」
怪我をしている訳では無く状態異常に掛かっているのでポーションで治るとは思えない。
「回復効果じゃなくて味の方だよ。不味さで眠りから起こせるんだってさ。」
「成る程な。」
ポーションの味は相当酷い。
怪我の治療や魔力の回復を簡単に行えると言っても進んで飲みたがる者は皆無だ。
味覚を一時的に殺す様な物を誰も飲みたいとは思わないだろう。
「じゃあポーションを飲ませていけば解決するのね?」
「そうだけど先にスリープシープの対処からかな。二の舞になる人が現れると面倒でしょ?」
せっかく起こしても再びスリープシープに眠らされてしまってはポーションの無駄だ。
先に元凶であるスリープシープの対処をする必要がある。
「それじゃあ羊探しね。」
「そう遠くにいける身体能力じゃないから、村から近い場所にいる筈だよ。」
三人は村の近くにいると思われるスリープシープを探し始めた。
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