元魔王様と強制睡眠 5

 馬車を止めて御者台から降りたシズルが倒れている人に近付く。

意識が無い事を確認して声を掛けたり揺さぶって起こそうとするが眠ったままだ。


「周辺に待ち構えている盗賊なんかはいないみたいだな。」


「囮とかじゃなくて本当にただの行き倒れかしらね。」


 ジルとラブリートが周辺を見回ったが怪しいものは見つからなかった。


「格好からして狩人でしょうか?しかし特に酔っている訳でも無いのに起きる気配がありませんね。」


 シズルが倒れている男の近くで臭いを嗅いでいるが酒気は感じられない様だ。

ただ単に眠っているだけの様子である。


「近くに家も無く、こんな道端で深く眠っていて、酔っている訳でも無い。中々不思議な状況だね。」


 男は外傷も無く顔色から健康状態も悪くなさそうだ。

しかしどれだけ揺すっても起きる気配が無い。


「トゥーリ様、どうしましょうか?」


「確か少し進んだ場所に小さな村があった筈だ。そこの出身者かもしれないし、乗せていってあげようか。」


「畏まりました。」


 シズルは自分よりも体格の大きい男を軽々と持ち上げて馬車に向かっていく。


「我が持とうか?」


「いえ、このくらい大した事はありません。従者の私にお任せ下さい。」


 そのままシズルは馬車に男を乗せて御者台に戻った。

貴族の出と聞いていたがしっかりと鍛えている様だ。


「では進むとしよう。シズル、頼むね。」


「はい。」


 シズルが馬を操り再び馬車が走り出す。

10分程馬車を走らせると遠くに村が見えてきた。

先程トゥーリが言っていた村だ。


「皆さん聞こえますか?少し様子が変です。」


 御者台にいるシズルが馬車の小窓を開けながら話す。


「変?」


「村の入り口なのですが、複数の村人が倒れています。警戒をお願いします。」


 どうやら村に何かあった様である。

何人も倒れているとなると盗賊の襲撃を受けた可能性がある。

このまま近付けば戦闘になるかもしれない。


「少し遠くに馬車を止めて警戒しながら近付こうか。」


「分かりました。」


 村から見える道沿いに馬車を止めて全員が降りる。

確かにシズルの言う通り村の入り口で倒れている人が見える。


「キュールネは馬車と男の人を見ていてもらいたい。ジル君とラブちゃんは先導、シズルは私の護衛を頼むね。」


 全員がトゥーリの指示に頷き、四人は村に近付いていく。

そうすると村の中も入り口から少し見えて、倒れる村人が何人も視界に入る。


「血を流している奴はいないみたいだな。」


「襲撃じゃないのかしら?」


 二人は村の入り口に近付き、村人達の様子を確認する。


「寝てるな。」


「寝てるわね。」


 先程発見した狩人の男と同じでその場に倒れて眠っているだけであった。

しかし村人達もどれだけ強く揺すろうと起きる気配は無い。


「何が起こってるんだ?」


 全く起きる気配が無く眠り続けている村人達。

なんとも異様な光景である。


「村の中も人や家畜問わず皆眠っているね。一先ず起きている人がいないか手分けして確認しよう。」


 状況が分からないと対処のしようが無い。

万能鑑定で一応村人を確認してみると状態が深眠となっていた。

寝ている場合だと普通は睡眠となるので、何か起こっているのは間違い無さそうだ。


 早速手分けして村の中を皆で調べる。

家の中、畑、道と所構わず眠っている村人ばかりである。

特に手掛かりが無いまま調べていると近くの家からガタンと物音が聞こえてきた。


「皆は反対方向だから村人か犯人かもしれないな。」


 ジルは家の扉を開けて中に入る。

他の家と同じで簡素な作りの家である。


「隠れているのは分かっている。外の惨状に付いて知っていれば話しを聞かせてくれ。」


 ジルが中に向けてそう呼び掛けるが誰も出てこない。

犯人であれば警戒して出る訳も無いだろう。


「別に我はこの家を燃やして炙り出してもいいんだぞ?」


 そう言ってジルは火球を生み出す。

そんな手荒な事をするつもりは無くてただの脅しなのだが、このくらいの家なら簡単に焼き滅ぼす事が出来る業火なので言われた側はたまったものではない。


「ま、待って!私の家を壊さないで!」


 相手の出方を伺っているとそんな声が聞こえてきて、隠れていた者が姿を現した。


「子供?」


 まだ10歳にも満たない少女であった。

火球で印象が悪くなったのか少し涙目である。


「あ、あの誰ですか?」


「そう警戒するな。別に盗賊とかでは無い。少し外の事について教えてもらいたいだけだ。」


「外、皆眠っちゃったの?」


 少女が恐る恐ると言った様子で扉の方を見る。

どうやら何か知っていそうだ。


「我の仲間達がいるだけで他に危険な存在はいなかったぞ。一先ず外に出てみないか?」


「う、うん。」


 ジルに促されて少女は怯えながらも家の中から出てきてくれた。

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