元魔王様と強制睡眠 4

 セダンの街を出発してからの道中は平和そのものであった。

大きなトラブルも無く順調に王都を目指して進んでいく。


「ちょっとジル君、だらけ過ぎじゃないかな?一応私の護衛なんだよ?」


 広い馬車の中で寝転んでいるジルに向かってトゥーリが言う。

とても護衛とは思えない姿勢であり、外を警戒しているのかも怪しい。


「そう言われても平和そのもので出番なんて無いではないか。護衛の仕事が無いのだから仕方無いだろう?」


「それはそうなんだけど。」


「ジルちゃんと一緒だから退屈しないと思っていたのに当てが外れたわね。」


 ラブリートも暇そうにしている。

盗賊どころか魔物との戦闘も殆ど無くて護衛であるジルとラブリートは暇を持て余していた。

一応寝転んでいながらも警戒はしているので護衛の仕事はしている。


「まあ、力量差の分かる魔物ならそもそも近付いてはこないだろうからな。」


 ジルやラブリートは冒険者の中でもトップクラスの実力者である。

高ランクの魔物であればその強さを感じ取って自然と離れていく。


 なので襲ってくるのは低ランクの魔物が多くなるのだが、馬車での移動なのでそもそも速度的に追い付けない魔物も多い。

そう言った魔物に一々構っていてはキリが無いので、追い掛けてくる魔物だけを相手にしている為戦闘回数が少ないのだ。


「来るとしたら盗賊くらいかしら?」


「そうだな、こんな化け物に挑もうとする奴の気が知れん。」


「ほんとよね、ランク詐欺もいいところだわ。」


 お互いがお互いの事を見て言い合う。

どちらもこんな相手に挑む盗賊が可哀想だと口にしている。


「一般的な目線から言わせてもらうと君達どっちも化け物だけどね。」


 その様子を見てトゥーリが呆れながら言う。

その言葉にキュールネもこくこくと頷いている。

どんぐりの背比べと言ったところだ。


「それにしても本当に退屈ね。快適なのは良いけれど、このままじゃ1月後には王都に着いちゃうんじゃないかしら?」


「何だと?」


 ラブリートの呟いた言葉にジルが反応する。


「このまま順調に進めばそうなるだろうね。」


「おい、エトの生誕祭はいつ頃だ?」


 詳しい日にちまでは把握していなかった。

生誕祭についてはトゥーリが知っているので付いていくだけでいいと認識していたからだ。


「だいたい1月半後くらいだったかしら?」


「それなのに後1カ月で着くだと?早く出発し過ぎだろう。」


 順調に進めば生誕祭まで2週間も王都で暇を持て余す事になる。

そんなに早く出発しているとは思わなかった。


「そんな事を言われても順調に進める保証なんて無いんだから仕方無いよ。万が一遅れたら貴族としての私の立場が崩れるんだから、これでも普通なんだよ?」


 トゥーリとしてはそれくらいの時間の余裕を持つのは当然であった。

ジルの意見も分からなくはないが、余裕を持たずに遅れましたでは話しにならないのである。

数週間早く到着するくらいが丁度良い。


「さすがに心配性過ぎるのではないか?」


「まあまあ、王都なんて頻繁に訪れないんだしいいじゃない。四六時中トゥーリちゃんの護衛をしていろって訳でも無いんだから。」


 ラブリートは早く到着する事に肯定的だ。

その時間を使って王都を満喫するつもりなのかもしれない。


「無事に送り届けてくれたら自由時間は設けるつもりだよ。その間は王都を観光したり、やりたい事をするといいさ。」


「まあ、暇潰しの材料があるならいいんだけどな。」


 王都に訪れる機会もそんなに無いので、観光時間を貰えるのであれば納得しておく。

国の中心部ともなればセダンとは違ってジルが興味を持つ物も少なからずあるだろう。


「まあ、それも順調に進んでいければの話しだしね。」


「そろそろジルちゃんがトラブルを引き寄せてくれるかもしれないし。」


「ふっ、今回ばかりは…。」


 ジルが否定しようとしたところで馬車がガタンと揺れる。

そして少し進んだ後に馬車は完全に停止した。

先程馬を休ませたばかりであり休憩では無いので、何かあったと考えるのが普通だ。


「トゥーリ様、急に止まってしまい申し訳ありません。進行方向に人が倒れていまして、盗賊かどうか確認して参ります。」


「分かったよ、気を付けてね。」


 御者台から降りてきたシズルが馬車の扉を開けて報告してきた。

トゥーリが許可を出すと倒れている人に駆け寄っていく。


「今回ばかりは何かしら?」


「…はぁ。」


 ジルはまたいつもの流れかと思いつつも、面倒事に発展しないでくれと心の中で祈る事しか出来無かった。

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