元魔王様とエルフの上位種 5
エルティアの放ったその一言、つい先程も聞いた言葉である。
「ドライア、まさかお前。」
「勘違いですよー。私は何もしてませんー。」
ジルが視線を向けるとドライアが焦った様に首を振っている。
どうやら正体を教えたと言う訳では無さそうだ。
「魔王様、他の誰かに聞いたのではありません。私が貴方様を覚えていたのです。」
「そうか、だがその前に魔王様は止めろ。前世の名は隠して人族として生きているのだからな。今世の我はジルだ。」
「分かりました、ジル様。」
先程まではエルフ達がいたからか随分と口調が変わっている。
一応配慮はしてくれていた様だ。
「それで覚えていたと言ったがそもそも我の見た目は全く違うぞ?」
今のジルは転生した事で種族も変わっているので、そう簡単に気付かれる筈が無い。
「私は精霊眼のスキルを所持しているのです。なので他者の魔力を視る事が出来ます。」
「成る程、気付いたのはドライアと同じ理由か。」
精霊眼を持っているとなれば納得である。
前世の魔力も見ていたのならそれで魔王だと断定する事が出来る。
「それにしても精霊以外が所持するとは珍しいな。」
「それは種族が関係しているのでしょう。」
「種族が?」
確かにエルフ族はその魔力量の多さから精霊と結び付きやすい種族である。
だからと言って中級精霊以上が持つ精霊眼のスキルが宿るなんて話しは聞いた事が無い。
「私は普通のエルフではありません。母と同じハイエルフと言う上位種へと進化したのです。」
「ほう、ハイエルフか。」
ジルが万能鑑定を使用してみると確かにエルティアの種族はハイエルフとなっている。
エルダードワーフのダナンの様に始祖の血を色濃く受け継ぐ者だけがなれる純血種である。
そしてハイエルフとはエルフでもあるが精霊にも近しい存在である。
なので精霊に宿る精霊眼のスキルが使える様になったと考えられる。
「ハイエルフと言うと我が知っているのはエルティナだが、名前が似ているな。」
「はい、エルティナは私の母です。今は放浪の旅に出ていますので、里長は娘の私が代わりを勤めています。」
「エルティナの娘と言う事は、お前はあの泣き虫エルフか?」
魔王時代にエルフの里を訪れた際にエルティナに娘を紹介された事があった。
その時の子供エルフは魔王を見て常に怖くて泣いており、泣き虫と言う印象がしっかりと残っている。
「その時の事はお忘れ下さい。恥ずかしくて顔から火が出そうです。」
エルティアは両手で顔を覆っている。
エルフ耳まで赤くなっているので相当その記憶が恥ずかしいのだろう。
「エルティアちゃんが泣き虫だったんですかー?」
「ああ、エルフの里に我が滞在している間ずっと泣いていたな。別に何かした訳では無かったんだぞ?」
「あの頃の魔王様のお力は強大でしたー。何をするつもりが無くても周りの者は怖かったのですよー。」
ドライアは子供のエルティアの気持ちが分かると頷いている。
何もしていなくても他の者が感じるプレッシャーが凄まじかったのだ。
「それにしてもあの子供がこう成長していようとはな。記憶に無い筈だ。」
子供のエルティアも泣いていない姿は可愛らしかったが、これ程美しく成長するとは予想出来無かった。
随分と美しく立派に成長したものだと親の様な気持ちになってしまった。
「ジル様、そろそろ私の話しは終わりにしましょう。遮音結界まで使ったのは私を恥ずかしめてもらう為ではありませんので。」
「そうか、では何の用だ?」
「ギガントモスの話しです。」
「ふむ。」
ジルもその件についてはエルティアと少し話したいと思っていた。
気になる点があったのだ。
「ギガントモスの素材の件なら私が既に話してるよー。」
「素材の話しでは無いのですがいつの間に。抜け目がありませんね。」
魔石は既に世界樹の素材とトレードするとドライアと約束している。
「エルフの里には万能薬のストックが必要だよー。今回みたいな非常事態の為にもねー。」
「それはそうですね。私が万全であれば皆の解呪も簡単でしたから。」
エルティアの呪いの中には魔封じの呪いもあった。
魔力が回復しないので神聖魔法を使いたくても使えなかったのだ。
「そもそもの話しだが、何故お前が呪いを受けていたのだ?ハイエルフでありエルティナの娘と言う事はそれなりに戦える筈だろう?」
魔王時代に会った時のエルティナはエルフ族の中でも実力が突出していた。
元魔王軍の側近達と互角と言える強さを持っていたので、娘のエルティアも相応の強さは持っている筈だ。
「母に比べればまだまだですが、相応の実力はあるつもりです。里の者達と協力していればギガントモスが成長する前に仕留められていたでしょう。」
世界樹からの魔力吸収を許してしまったのでギガントモスが強化されてしまったが、元々の個体であればエルフ達でもなんとか倒せたかもしれない。
「ですが私はギガントモスと戦ってすらいません。」
「ん?戦っていないとはどう言う事だ?呪いを受けていただろう?」
「私が受けていた呪いは魔物では無く魔法道具により齎された呪いなのです。」
そう言ってエルティアがどこからともなくバラバラに砕かれたネックレスを取り出した。
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