元魔王様とエルフの上位種 4

 エルミネルの後に続いてツリーハウスの中に入る。

ドライアの力によって急遽建てられたらしいので中は殆ど何も無い。

唯一設置されている家具はベッドくらいであり、その上には上半身を起こした美しいエルフが座っている。


 エルティアと呼ばれた里長のエルフは今まで見たどのエルフよりも美しいと感じる。

その前でエルロッドとエルフの男が膝を付いており、エルミネルもそれに倣っている。

エルフ達にとって里長は敬愛すべき対象なのだろう。


「里長様、先程話したのがこの人族です。」


「私達の為に万能薬を譲って下さると言う話しでしたね?」


 そう言って開いた口からは音色を奏でるかの様な心地よい声が聞こえてくる。

姿だけで無く声も美しく、聞いているだけで癒される様だ。

そして声音からあまり人族を嫌悪している様子は感じられない。


「ああ、神聖魔法の使い手と聞いてな。手っ取り早くエルフ族を救うにはそれが一番なのだろう?」


「そうですね、私が解呪されれば皆の呪いも取り除けると思います。」


 皆に掛けられている光魔法では解呪出来無い呪いであっても、神聖魔法ならば解呪出来ると確信している様子だ。

かなり高い適性を持っているのだろう。


「ならばこれを渡そう。だが約束は守ってもらうぞ?」


「世界樹の素材の件ですね?我々は持て余していますから問題ありませんよ。」


「ならばいい。」


 ジルが近付いて無限倉庫の中から万能薬の入った小瓶を取り出す。

そしてエルティアに手渡すと早速中の丸薬を取り出して口に運び飲み込んだ。

すると身体から呪いによる痣が消えていく。


「ふぅ、身体が楽になりました。万能薬の効き目は凄いのですね。」


 エルティアが身体を伸ばしながら嬉しそうに言う。


「人族のお方、名前は確か…。」


「ジルだ。」


「ジルさん、改めてありがとうございました。貴方のおかげで我々エルフ族は救われます。エルフ族を代表して御礼申し上げます。そして申し遅れましたが、私が現エルフ族の里長をしているエルティアと申します。」


 深々と頭を下げながらエルティアが礼を言ってくる。

人族と過去に違法奴隷で関係が悪化しているのに、ジルと言う一人の人族には心から感謝しているのが伝わってくる。

エルティアは同じ人族だから悪だと決め付けたりはしない様だ。


「我は報酬を貰えればそれで構わん。早くエルフ達を治してやるといい。」


「そうですね、猶予はありますが解呪しなければ命に関わってくる呪いもありますから。」


 エルミネルに掛けられていた魔封じの呪いであれば魔力が回復しないだけで命に関わる事は無い。

しかし徐々に生命力を削る呪いや精神を蝕む呪い等もあり、それらは放置すればエルフ達の命に関わってくる。


「三人共、散り散りになっているエルフをこの周辺に集めてもらえますか?」


 エルティアも万能薬で解呪出来たとは言え、普段の万全な状態では無い。

解呪の為に森中を走り回る余裕は無いので一箇所に集めてもらった方が早い。


「それは構いませんが人族とお二人になるのは…。この人族を信用していない訳では無いですが、また里長様の身に危険が迫るやもしれません。私が護衛として残ります。」


 エルフ族のトップであるエルティアを人族であるジルと二人きりにするのはまだ少しだけ抵抗がある様だ。

何もされないと分かっていても簡単に了承する事が出来無いのは仕方無い事だろう。


「それには及びませんよ。この方は他の人族とは違います。私に危害を加える心配はありません。」


「しかしですな…。」


「はいはいー、心配なら見ててあげるよー。だから安心して皆を呼んできてねー。」


 エルフの男が渋っているとツリーハウスの入り口から契約精霊のドライアが入ってきた。


「…ドライア様がそう仰るなら。」


「ジルなら変な事はしない、大丈夫。」


「うむ、わしから見ても信用の出来る人族じゃ。それに何か起きてもジルの側が一番安全じゃろう。」


 ドライアに続いて二人が説得する様に言葉を掛ける。

随分と信頼を勝ち取れている様だ。


「それでは皆を集めてきます。ドライア様、里長様の事は頼みましたよ?」


「はいはいー、いってらっしゃいー。」


 ドライアに手を振られて三人は外に出ていく。


「三人を追い出してまで我に何か用か?」


「はい、その前に。」


 エルティアが片手を挙げて魔法を発動させる。

すると三人を取り囲む様にドーム状の結界が現れる。

希少魔法である結界魔法の適性を持っているとは、さすがは魔法に通ずる種族だ。


「遮音結界か。」


「その通りですジルさん。いえ、魔王様。」


 そう口にしたエルティアが先程とは違って敬う様な目をしながら優雅にお辞儀をしてきた。

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