元魔王様とエルフの上位種 3

 大木に近付くとにょきにょきと足場となる枝が生えてきて階段が出来上がる。


「これも精霊の力か。」


「ああ、ドライア様が作ってくれたのだ。」


 四人は階段を登って上を目指す。

ツリーハウスの目の前まで階段で上がると、シキと同じくらい小さな少女が飛びながらこちらにやってくる。

葉っぱで出来た可愛らしい洋服を着ている精霊の様だ。


「やっほー、お客さん達ー。」


「森の精霊か。」


「そうだよー。」


 ドライアは物珍しそうにジルを観察しながら答え、その後に少しだけ驚いた様子が伝わってくる。

ジルの何かに気付いた様だ。


「ドライア様がこうも人族と気軽に話しているのは珍しいですね。」


「人族と話す機会自体少ないからねー。」


 普段からエルフの里で暮らしているエルフと契約しているのであれば人族と会う機会は少ないだろう。

エルフ自体が人族との関わりを持ちたいと思わないのだから人族がエルフの里に入って来れる筈も無い。


「でもエルフ達は英断だったねー。この人族は敵対しない方が正解だよー。」


 ドライアがクスクスと笑いながら言う。


「凄まじい実力の持ち主でしたからね。」


「エルフ族が束になっても敵わないだろうからねー。良いお付き合いをする方が賢明だよー。」


 ジルの実力にドライアは気付いている様だ。

ギガントモスとの戦いをどこかで見ていたのかもしれない。

実際にエルフ族が徒党を組んでもジルには敵わないだろう。


「そうしたいと思っております。これから里長も助けてもらう訳ですから。」


「人族にエルフ族が救われるなんて歴史的に見ても面白い話しだよねー。」


「他の人族と一緒にしないでもらおう。我は奴隷狩りなんてしない。」


 そんな事をするメリットが無い。

見目麗しいエルフの奴隷を扱えば金入りはいいかもしれないが魔物狩りでも稼げるので違法行為に拘る必要は無い。


「ごめんごめんー。それとエルティアちゃんならさっき起きたから少し様子を見てくるといいよー。いきなり人族を連れていくと驚かせちゃうかもしれないからエルフだけでねー。」


「分かりました。」


「ジル、少し待ってて。」


「先に会ってくるかのう。」


 ドライアの言葉に従ってエルフ達三人がツリーハウスに入っていく。


「ドライアよ、お前は中級精霊以上か?」


「中級精霊ですよー。その魔力は前世にも見させてもらってますよ魔王様ー。」


 中級精霊以上の精霊は精霊眼と言うスキルを使用出来る。

このスキルの能力の中に相手の魔力の質を見る効果がある。

それは転生しても変わる事が無く、ジルの前世を特定出来る材料となり得る。

なのでジルの前世が魔王だと気付いていた。


「我を分かっている様な口ぶりはそれが原因か。」


「さすがに魔王様だと分かった時は驚いちゃいましたー。有名人のは一度しか見てなくても覚えているものですねー。」


 ドライアと前世で出会った記憶は無いがどこかで精霊眼を使って見た事があったのだろう。

直ぐに気付かなかった契約精霊にも見習わせたいところだ。


「魔王様は止めろ。今の我はジルだ。」


「了解ですー。ジル様が万能薬を持っていると聞いて安心しましたー。これでエルフ族は救われますー。」


 万能薬が無ければ解呪が出来ず、エルフ族は滅びていたかもしれない。

契約主がエルフなのでそれはドライアの望むところでは無い。


「万能薬には世界樹の素材が使われるから、里にもストックがあると思っていたのだがな。」


「素材が素材ですからねー。その中の一つでもあるSランクの魔石とか簡単に手に入らないですよー。」


 ドライアが困った様に言う。

Sランクと呼ばれるのは化け物ばかりなので、それを討伐出来る者も限られてくる。

エルフ族でもそんな事を出来る強者は片手で数えられるくらいしかいないかもしれない。


「今回のギガントモスの魔石を譲ってもいいが。」


「下さい下さいジル様ー。エルフ族が衰退しない為にも万能薬のストックは欲しいですー。」


 ジルの発言にドライアが食い付いてきた。

ギガントモスもSランクの魔物なので魔石は万能薬の素材に出来る。

この機会を逃せばいつ手に入るか分からない。


「タダでは譲らんぞ、Sランクの魔石は高値で売れるからな。世界樹の素材と交換だ。」


「全然おっけーですよー。私が蓄えている分でも有り余ってますからねー。」


 これで万能薬と魔石でそれぞれ世界樹の素材を手に入れられる事になった。

世界樹の素材なんてここでしか手に入らないので貰えるだけ貰いたい。


「ジル、里長様の準備が整った。」


「分かった、今いく。」


「ジル様ー、エルティアちゃんの治療お願いしますねー。」


 先程もドライアが口にしていたが里長の名前だろう。

治療と言っても万能薬を飲ませるだけの簡単な作業なので、ジルは軽く手を挙げて応えておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る