元魔王様とエルフの上位種 2
ジルの提示する条件を聞いて一部のエルフは渋い顔をしている。
先程ジルに万能薬を譲る様に強要してきたエルフ達だ。
世界樹の素材を人族に渡すのが嫌なのだろう。
「私は是非受けるべきだと考えている。他の者はどうだろうか?」
一部のエルフを除いて皆頷いている。
世界樹の素材は世界的に見れば貴重な素材なのだが、エルフ達から見ればそこまで貴重と言う訳でも無い。
世界樹の側で暮らしているのだから入手出来る機会はいくらでもある。
世界樹の素材を提供する事でエルフ族全体が救われるのであれば殆ど無償で手に入れたのと変わらない。
エルフ達にとって好条件な取り引きと言える。
「ジルはその条件で構わぬのか?素材は世界樹の素材以外にも必要じゃろう?」
「まあな。だが構わないぞ。」
エルロッドの言う通り万能薬を製作するには他にも貴重な素材が必要となる。
しかしそれらは素材の状態で無限倉庫に多少在庫があるので直近では困らない。
それに万が一緊急で万能薬が必要な事態になってもジルには異世界通販のスキルがある。
素材はもちろんの事、万能薬自体も買おうと思えば買えるのだ。
「我にとっても貴重な世界樹の素材が手に入る良い機会だからな。」
「そう言ってもらえると助かるのう。」
「ジル、ありがとう。」
エルロッドとエルミネルが頭を下げるとエルフ達も続いて頭を下げてきた。
「それで神聖魔法の使い手はどこだ?万能薬を渡してやりたいんだが。」
「ここにはいない。安全な場所に避難していただいている。」
「里長様じゃな?」
「そうだ。」
エルロッドの言葉にエルフの男が頷く。
エルフの里を束ねるエルフ族の長が神聖魔法の高い適性を持っている様だ。
「里長様のところに案内しよう、付いてきてくれ。」
「おい、人族を里長様に合わせるというのか?」
エルフの男が歩き出すと一部のエルフが文句を言う。
「里長様を心配する気持ちは分かるが、この者がエルフを害そうとしていないのは行動で分かるだろう?それにエルフ族と世界樹の危機を救ってくれた者を蔑ろにするなど、それこそ里長様の望むところでは無い。」
エルフの男の言葉に文句を言っていた者達は黙ってしまった。
ジルがいなければエルフ族も世界樹も無事ではすまなかったと理解しているのだろう。
「別に万能薬をここで渡して届けてもらう形でも構わんぞ?」
里長のエルフに直接会う必要は無い。
万能薬さえ渡ればジルがいなくても解呪は可能だ。
「里の危機を救ってもらったのだ。里長様なら直接会って礼をしたいと言われるだろう。」
「そう言うものか。」
随分と義理堅い性格の様だ。
「エルロッドとエルミネルもだ。普段里で暮らしていないお前達にも今回は世話になった。里長様も久しぶりに会えれば喜ばれるだろう。」
「長と会うの5年ぶりくらい。緊張する。」
「わしなんて100年ぶりくらいじゃぞ?年甲斐も無く緊張してしまうのう。」
二人共久しぶりに会う里長に緊張している様子だ。
それくらいエルフ族にとっては敬われている存在なのだろう。
里の前にいた全員で森の中を移動していく。
「自然に草木が別れて道を作るのは精霊のおかげか?」
「その通りだ、人族なのに詳しいな。私の契約している森の精霊ドライア様の力だ。」
エルフの男の声に反応する様に草木が揺れて踊っている。
森の精霊には嫌われている感じは無さそうだ。
「ドライア様に歓迎されるとは不思議な人族だな。」
精霊によって契約するかどうかの決め手は違うが、基本的には魔力量の多い者を選ぶ傾向にある。
なので種族的に言えばエルフと契約する精霊が一番多い。
逆に言うと人族と契約する精霊は稀なので、もし契約するとなれば魔力量では無く別の目的で選ぶ特殊な精霊くらいだ。
「ジルも精霊と契約してるから分かった?」
「おそらくそうじゃろうな。その力を感じ取ったのかもしれん。」
「人族が精霊と契約だと!?」
人族と精霊が契約するなんて滅多にある事では無い。
男は心底驚いたと言った反応をしており、後ろに付いてきているエルフ達も驚いている。
「ここにはいないけどな。」
そう言ってジルが契約した証を見せる様に手の甲を向ける。
「これは真契約の紋章か。普通の人族では無いと思っていたがこれ程か。」
魔王の転生した姿なのだから確かに普通の人族では無い。
だがそんな事を言える訳も無いので黙っておく。
「そろそろ見えてくるぞ。」
男の言葉の通りに草木が別れて広い空間が現れる。
そこには世界樹程では無いが大きな一本の木が立っており、その上に簡易的なツリーハウスが建てられていた。
「あそこに里長様がおられる。魔物が来たのは急な事だったのでな、ドライア様の力を借りて簡素な家を作る時間しか無かった。」
「急造にしては充分だろう。」
森の精霊ドライアの力が働いているのか、大木には里長を守る様に自然の武器が大量に備わっている。
鋭利な枝やトゲトゲした葉、万が一魔物が近寄ってきても防衛は問題無さそうだ。
「私が案内してくる。ギガントモスはいなくなったが一応皆は周囲の警戒を。」
他の者達が頷いたのを確認して、四人は大木に近付いていった。
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