元魔王様と三人目の魔法生命体 8
先程魔の森で魔物を相手に魔法を撃っていたが全然満足していない様子だ。
寧ろ標的が多くなった分やる気に満ちている。
「防衛も大変だろうしな。我らで数を減らしてやるか。だが魔力を使い過ぎた、半分は任せるぞ。」
研究施設に向かう道中での連続戦闘、広範囲探索と長距離間での時空間魔法の使用と随分魔力を奮発してしまった。
ジルの残る魔力量では殲滅させるには足りない可能性がある。
「お任せ下さい!全力魔法をくらわせてやります!」
タイプDが魔杖を高々と掲げながら嬉しそうに言う。
早く魔法を放ちたくて仕方無いと言った様子だ。
「その前に注意しておくぞ。街や街の住人、魔の森から向かってくる冒険者には当てない様に。」
先程のジルの様に巻き込まれでもしたら大変だ。
威力が高過ぎるのも考えものである。
「了解です!当てない様に全力で撃ちます!」
ジルの言葉の意図をしっかり理解出来ているのか怪しい返答だ。
「…直接当たらなくても余波で大怪我とかも困るからな?ある程度攻撃範囲を指定出来て、周りに影響が出にくいのを使えよ?」
「残念です。広範囲の極級爆裂魔法とか使いたかったのですけど。」
タイプDがしょんぼりとしながら呟く。
やはり理解していなかった。
「念の為に注意しておいて正解だったな。明らかにそれは駄目だろう。」
「分かりました、魔法は選びます!」
今後こそ理解してくれたと信じたい。
「よし、北側は我がやる。」
「では魔の森の方面を殲滅しますね!」
二人はそれぞれの方を向いて魔法を撃つ為に構える。
詠唱を必要としない二人の周りに膨大な魔力が集まってくる。
魔法に通じる者であれば、その尋常では無い魔力を感じただけでこれから起こる規模の大きさが予測出来るだろう。
「極級土魔法、ヒュージロックスパイク!」
ジルの放った魔法により北側の地面が激しく脈動し、その直後地面から尖った岩が広範囲に突き出してくる。
とにかくその数が多くて、魔物達は成す術も無く身体を鋭利な岩に貫かれて倒れていく。
魔物の悲鳴だけが響く地獄の空間を作り出した。
「極級氷結魔法、フローズンミスト!」
タイプDの放った魔法により魔の森の方角に広範囲の霧が発生する。
その霧に囚われた魔物や新たに霧に触れた魔物は、等しくその身体を凍らせられる。
逃げ出そうと踠く魔物もいるが誰もタイプDの魔法に抗う事は出来無い。
1分もすれば魔の森の方角にいる魔物達は氷の彫像と化していた。
「これで半分近くはやったか?」
「私の氷結魔法でカチンコチンにしてやりましたよ!」
どちらも極級魔法の面目躍如と言える威力だった。
大量にいた魔物の過半数が今の攻撃で戦闘不能となった。
「な、なんて馬鹿げた威力の魔法だ…。」
白衣の男はその魔法を目の当たりにして空中で腰を抜かしている。
極級魔法自体滅多に見れる魔法では無いのに使い手が最高クラスともなれば驚くのも無理はない。
「街や冒険者に近い部分は巻き込む可能性があるから地上に任せる事にする。」
多少魔法の範囲外にいて生き残った魔物もいたが、タイプDに任せると冒険者を巻き込みかねないので、理由を付けて放置する事にした。
数はかなり減らしたので地上の冒険者達に任せても大丈夫だろう。
「了解です!残る東西を狩りましょう!私は強そうな魔物が沢山いるので東がいいです!」
そう言ってタイプDが東を指差してはしゃいでいる。
高ランクの魔物の姿が多く見えており、飛んでいる魔物も多い。
冒険者達では苦労するかもしれない。
「では我は西だな。」
こちらは強い魔物こそ少ないが数だけは多い。
再び魔法を放とうとする二人の周りに膨大な魔力が集まる。
「極級重力魔法、デスクラッシュ!」
ジルの放った魔法により西側の全ての魔物達が一瞬で血肉を撒き散らして圧殺された。
広範囲の魔物達全てに強烈な重力が加えられ、誰もその力に抗えず押し潰された。
「極級雷霆魔法、サウザンドボルト!」
タイプDの放った魔法により東側の空から雷が落ちる。
一回や二回では無く、まるで雨でも降っているかの様に無数の雷が連続して空から降り注ぐ。
一発一発の雷が相当な破壊力を持っており、陸の魔物も空の魔物も等しく一撃で身体を焼き焦がされている。
雷が降り止む頃には無事な魔物は殆ど残っていなかった。
「ふむ、綺麗に押し潰せたが魔石も砕けていそうだな。」
魔石は魔法にある程度の耐性を持っているが、極級魔法ともなると砕けていても不思議は無い。
それ程圧倒的な破壊力を持つ魔法だった。
「弱い魔物の魔石なんて欲しいのですか?」
「一応倒した者に所有権があるからな。金になるなら回収はしておきたい。」
人族として生きていくのなら何かと金が掛かるので持っていて困る事は無い。
「魔法生命体の私にはよく分からないですね。私は魔法を放てればそれでいいので!」
「やれやれ、戦闘狂過ぎるな。」
今回は魔法を思う存分放てたので大満足と言った様子だ。
「後は掃討戦だな。ラブリートや高ランク冒険者がいるし、残党は問題無いだろう。」
「私も残党狩りに参加したいです!」
まだ魔物が残っていると聞いてタイプDが挙手している。
「却下に決まっているだろう?お前みたいな大魔法使いが突然現れたら確実に厄介事になるのは目に見えている。」
おそらく地上では今頃とんでもない威力の魔法を放ったのは誰かと皆思っているだろう。
それを行った人物が現れればタイプDを巡って面倒な事態に発展する可能性がある。
「残念です。でも今回は沢山魔法を使えたので満足出来ました!マスター、またお願いしますね!」
「ああ、その内な。」
曖昧な返答をして誤魔化しておく。
超級魔法や極級魔法を連発しなければならない出来事なんてそう簡単に起こる筈が無い。
そして主人であるジルすらも危険な目に遭わせる可能性があるタイプDの認識が、この一連の戦いで魔法生命体から危険生命体へとジルの中で変わった。
今後余程の事が無ければ出す事は無さそうだ。
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