元魔王様と三人目の魔法生命体 7

 この短時間で色々あったがタイプDのおかげで魔物達は一掃出来た。

殲滅能力だけを見ればこれ程優秀な者はいない。


「Sランククラスの魔物達がこうも簡単に…。お前達は他国の者だな?」


 男が何を思ったのか確信的な表情で尋ねてくる。


「そう思う理由は?」


「この国に住む厄介な冒険者は全て記憶している。可能性があるとすれば周辺諸国の高ランク冒険者しかいない。」


 どんな情報網を持っているのか分からないが、冒険者のトップ層は軒並み把握している様子だ。

しかしジルはDランクだし、タイプDに至っては冒険者ですら無いので情報網に引っ掛からないのも当然だ。


「スタンピードの援軍として他国から呼び寄せられたと?」


「それ程の力を持っているのであれば、声が掛かっても不思議は無い。」


 スタンピードは滅多に起こる事は無いが災厄として広く知られている。

早期解決の為に実力者を呼び寄せる事態もあり得る。


「成る程な、想像に任せるとしよう。」


 丁寧に答えてやる訳も無く、そう言って会話を打ち切る。

今の会話でフードを被る謎の連中が貴族並みの情報網を持っていると知れただけでも収穫としておく。


「そんな事よりもタイプD、もう一仕事付き合ってもらうぞ。」


「もう一仕事ですか?」


 長話しに付き合っている余裕なんて無い。

ジルにはまだやらなければならない事が残っている。


「ああ、魔の森の近くにあるセダンの街が魔物の大群に囲まれているらしくてな。」


 先程シキから連絡が入っており、白衣の男も自分がやったと認めていたが、現在セダンの街がピンチなのである。

急いで向かって防衛に参加しなければならない。


「その魔物の討伐ですね!魔法で一掃しちゃいますよ!」


 タイプDはまた魔法を使って戦えると聞いて嬉しそうに長杖を掲げて喜んでいる。

危なっかしい部分はあるが、今は自分並みに強いタイプDの力が必要だ。


「ふははは、それはもう手遅れだ!魔の森の奥地であるここからセダンまではそれなりに距離がある!道中魔物に襲われる事を考えれば、魔装による全力疾走でも数十分は掛かるだろうな!」


 セダンから魔の森の外周部まで10分程掛かるのは実際に走ったから知っている。

そして男の言う通り、ここは魔の森の奥地と思われる。

現在重力魔法によって空中に浮いているが、全方位見回しても森の外が見えないのだ。


「マスター、どうしますか?」


「まあ、少し待て。」


 実はタイプDが戦闘している段階からジルはある魔法を使い続けていた。

それがもう少しで状況を変えてくれる。


「よし、ようやく見えた。」


「何がですか?」


「セダンの街だ。」


 ジルは今目を閉じているが脳内には違う景色が見えている。

現在地から離れた場所にある、普段住んでいるセダンの街だ。


「何?セダンだと?適当な事を言うな!」


「適当では無い。街を防衛する為に走り回っている兵や冒険者、それに向かう陸空の様々な魔物の大群、魔の森から急いで援軍に駆け付ける高ランク冒険者達、全て見えている。」


 あまりにも具体的な内容に男は困惑する。

まるで本当に現場を見ながら話している様である。


「分かりましたマスター、空間把握ですね?」


「正解だ。」


 挙手したタイプDがジルの行っている事を言い当てた。

ジルの話す内容から魔法を特定した様である。

タイプDの言った通り、空間把握の魔法を使用して認識範囲を広げていき、セダンの街を補足したのだ。

なので街の近辺の情報も全て見えている。


「本当にセダンの状況が見えていると言うのか…。」


「希少魔法は適性者が少ないからな。魔法に関する情報があまり知られていないのも仕方の無い事だ。ならば証拠を見せてやろう。空間置換!」


 そう言ってジルが新たに時空間魔法を使用する。

空間把握の認識範囲内は魔法の発動が自由に行える。

なのでどれだけ距離が離れていても関係無い。

それを利用して離れた空間同士を入れ替える魔法を使用して、三人は一瞬でセダンの街上空に移動した。


「せ、セダンの街!?」


「すごい魔物の数ですね!」


 二人は違う内容ではあるがどちらも驚いている。

そしてタイプDの言う通り、下ではとんでもない数の魔物達が街に向けて進行している。

Sランク冒険者のラブリートが街の防衛として残ってくれているが、さすがにこの数は厳しいだろう。


「ここなら視認される心配も無いから自由に魔法を使えるな。あの男の記憶は、後でレイアかテスラにでも任せるとしよう。」


 人を操る事に長けている二人であれば、記憶の改竄くらいお手のものだ。


「マスター、早く始めましょうよ!」


 魔物の大群を見て我慢出来無くなった戦闘狂のタイプDがそわそわしながらそう言ってきた。

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