元魔王様と三人目の魔法生命体 6

 凡ゆる魔法の適性を持つ魔法生命体のタイプDは、早速結界に群がる魔物達を殲滅する為に魔法を使う事にした。

長杖に多くの魔力が集まっていく。


「超級爆裂魔法…。」


「ん?おい、ちょっ…。」


「エクスプロージョン!」


 不穏な単語が聞こえたのでジルが止めようとしたが一足遅かった。

タイプDの魔法は発動してしまい、魔物達の後方が一瞬強く光る。

直後耳をつんざく様な爆音が辺りに響く。


「タイプD、やってくれたな。」


 地上を見下ろしてジルが溜め息混じりに呟く。

数秒前までいた研究施設があった場所は、タイプDの魔法によって瓦礫の山へと変わった。

もはや何の為の施設だったのか調べようもない有様だ。


「ななな、なんだ今のは!?それに何故空にいる!?」


 直ぐ近くで何が起きたのか理解が追い付いていない白衣の男が叫んでいる。

男が言う様に今は二人共空に浮いている。


 爆発に巻き込まれない様に自分と男を咄嗟に結界で覆って魔法を防ぎ、安全になってから重力魔法で結界を浮かせて上空に退避したのだ。


「まだ生き残っている様ですね!存分に楽しめそうです!」


 地上では爆裂魔法に耐えた魔物達とタイプDが対峙している。

さすがにSランククラスの魔物達は耐久力も高い。

殆どが傷を負いながらもまだまだ戦える状態だ。


「さあさあ、殺り合いましょう!」


 タイプDが長杖を構えて嬉しそうに言う。


「はぁ、今後は更に使い所を気にする必要がありそうだな。」


 その様子を見てジルが小さく呟く。

実はタイプDには少しだけ注意しなければならない点がある。

それは戦いとなるとテンションが上がって周りが見えなくなる、つまりは戦闘狂と言う事だ。


 元々多用性型機械人形である魔法生命体のゴーレム達を造った理由は自分を殺す為だ。

そこで交戦的な性格の方が自分を是が非でも殺してくれるのではないかとタイプDの性格を戦闘狂にしてしまった。

つまり魔王時代のジルの自業自得である。


 だが今と昔では状況が違う。

魔王時代であれば結局自分を殺す事が出来無かったのでタイプDの性格は大して気になっていなかった。

しかし今は人族に転生して弱体化した状態なので、近くにジルがいるのに危険な魔法を使われると万が一が怖いのだ。


「まあ、今回は情報元を確保しているし他はいいか。使い所を間違わなければタイプDの力も有り難いしな。」


 地上ではタイプDが各種魔法の大技を放って魔物達を蹴散らしている。

ちなみにタイプDは殺傷力の高い魔法を好んで使う傾向にあり、基本的に扱うのは超級魔法か極級魔法のどちらかと言う危険人物だったりする。


「な、なんなんだあいつは!?」


「あれか?戦闘狂の我の仲間だ。」


「あんなに魔法を連発出来る化け物の情報は聞いていないぞ!?間違い無くSランククラスだろう!」


 確かにタイプDの戦闘能力は冒険者をしていればSランククラスはあるだろう。

そして情報が無いのも当然である。

ずっとジルの無限倉庫に仕舞われており、最後に出したのは転生前なのだから。


「お前達に情報提供するつもりは無い。お前を生かしたのは情報を引き出す為なのだからな。」


「誰が話すものか!死んでも口は割らん!」


 ジルを睨んで男が口を紡ぐ。

何が何でも情報を与えるつもりは無いと態度が物語っている。

だがジルには幾らでも手段があるので本人の意思は関係無い。


 一旦は連れ帰って衛兵にでも突き出して人族のやり方に任せるつもりだが、それでも情報を引き出せなければセダンの街に移り住んできた元配下のレイアとテスラに頼めばいい。

眷属にしたり魅了して言いなりにすれば情報なんて幾らでも引き出せるのだ。


「おっ、そろそろ終わるか。」


 時間にして数分、相手は複数のSランクの魔物だったがタイプDが最後の一体を倒して殲滅してくれた。

さすがは前世の自分自身を殺す為に造った魔法生命体である。

現状ならばジルよりも強いかもしれない。


「マスター、終わりました!」


 重力魔法を使ってジルのいる位置まで浮上してくる。

派手な魔法を沢山使えて満足気な表情である。

そんなタイプDの頭にチョップをお見舞いしてやる。


「イタッ!?マスター、何するんですか!?」


 タイプDは頭を抑えて涙目で訴えてくる。

戦いに夢中で何をやらかしたのか全く気付いていない様子だ。


「魔法で我を巻き込みそうになっていたぞ。今回はこれで勘弁してやる。以後気を付ける様に。」


「ううう、初めて怒られました。」


 タイプDが悲しそうに呟く。


「以前とは状況が違うのだ。下手をすればお前に殺される可能性もある。」


「マスター、逃げれていたじゃないですか。」


 結界が間に合ってその場から離脱出来ていたが結果論に過ぎない。

攻撃範囲や威力がもっと高い魔法であったら、結界を破壊して攻撃を受けていた可能性もある。


「だからと言って我を巻き込む様な魔法を使っていい理由にはならない。今後も変わらないなら活躍の場は無いからな。」


「そ、それは勘弁して下さい!もっと沢山魔法を使って戦いたいです!」


 せっかく久々にマスターと自分の為に戦えたのに、また暫く無限倉庫に入るのは嫌だとタイプDは懇願する。


「ならば魔法の扱いに気を付ける事だな。」


「ど、努力はします!」


 戦闘狂は直らないので、戦う前に周りをもう少し気にする様に心掛けようと誓うタイプDであった。

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