元魔王様と三人目の魔法生命体 3
施設の関係者と思われる者が向かってきているので、同じくその方向に進んでいく。
すると前方から白衣を見に纏った男性が歩いてきている。
「何やら異音がするから来てみれば、鼠が紛れ込んでいたか。」
ジルを見て不快そうな表情をしながら男が言う。
「この施設の関係者だな?」
「そうだ。私の研究施設に勝手に侵入するとは無礼な。これだから常識に欠ける低脳な冒険者は嫌いなのだ。」
ジルの見た目から冒険者だと直ぐに分かった様だが特に慌ててはいない。
戦闘になっても何らかの対処手段を持っているのかもしれない。
「そんなのは我からすればどうでもいい事だ。何の施設なのか大人しく答えてもらおうか。」
銀月の柄に手を添えて脅す。
この施設の関係者なのは確実なので情報を得たい。
魔の森に怪しい施設を建てており、最強の魔物とも言えるドラゴンを飼っているなんて普通では無い。
「ふん、何故私が貴様の様な無礼者の言いなりにならねばならない?答える義務は無いな。」
「非人道的な研究をしているのは見れば分かるけどな。」
辺りを見回すと魔物の死体が解剖されて様々な色の液体に入れられて保存されている。
中にはこの世界に存在しないキメラの様な姿をした魔物までいる。
ここで実験されて作り出されたのだろう。
「凡人に私の研究は理解出来んさ。それよりも冒険者が何故こんなところにいる?魔の森の深部だぞ?」
男の言葉からここが魔の森の中でもかなり奥深くだと言う事が分かった。
魔法陣による転移で相当な距離を移動させられたらしい。
「高ランクの魔物をどうやって退けたかと言う話しか?それとも今スタンピードが起こっているのに何故ここにいるのかと言う話しか?」
「ふっ、想像に任せるとしよう。」
スタンピードが起こっているのは知っていそうな反応だ。
「まともな施設では無い事は確かだし、まさかスタンピードにも関わっているのか?ここでは化け物も飼っている様だし、あれがスタンピードの原因になっている可能性もある。」
既に討伐済みではあるがドラゴンは簡単に使役する事は出来無い。
魔物の中でも次元が違うドラゴンと言う種を従魔に出来る者なんて前世の自分くらいだろう。
「ほう、気配でも感じたか?それでも侵入してくるとは恐れ知らずの馬鹿だな。」
男が余裕の態度を保っていられるのもその存在が大きかった。
冒険者の一人くらい簡単に殺してくれるので焦る必要は無いのである。
「スタンピードの原因を排除したかったものでな。」
「そうかそうか、確信までには至っていない様だが感は確かなものらしい。概ね正解とでも言っておこうか。」
「いいのか?そんな事を教えてしまっても。」
「知られても生きて帰らせなければいいだけの事だからな。」
男は懐から取り出した笛を吹く。
施設中に笛の音が響き渡る。
しかし少し待っても何も起こらない。
「何を呼んだんだ?」
「…ちっ、肝心な時に役に立たん奴だ。だがここは私の庭、戦力なら揃っている!」
地面に無数の魔法陣が出現する。
そこから高ランクの魔物が次々に姿を現していく。
「単独ならば数で当たって消耗させてやろう。一体一体が高ランク故にそう簡単に倒せはしないぞ。」
「我と戦うには役不足だな。」
ジルが銀月を抜き放ちながら言う。
そして銀月を魔物達に向けて振るう度に面白い様に次々と倒れていく。
高ランクの魔物であろうとジルの攻撃力が高過ぎるので耐えられる者の方が少ないのだ。
「ほう、相当な実力者の様だな。ならば更に数を増やしてやる。」
倒される度に新たな魔法陣が出現して戦力が補充される。
そのまま数分戦いが続いた結果、魔物の死体だけが量産されていく事になる。
「な、何故平然と戦えている…。消耗していないのか?」
「してはいるぞ。この程度の敵では微々たるものだがな。」
銀月を魔装しているので魔力は減っていっているが、それで無くなる程ジルの魔力量は貧弱では無い。
「ならばこれでどうだ!」
一際大きな魔法陣が現れ、そこから巨大な魔物が召喚された。
「私が高ランクの魔物を掛け合わせて作り上げた最高傑作、キマイラだ!その戦闘力はSランクにも匹敵する!」
男は自信満々に言い放つ。
Sランクと言う化け物しか存在しないランクに匹敵する力を持つ最高傑作が一人の冒険者に負けるとは思ってもいないのだろう。
「こんな使われ方をして、魔物達も報われないな。」
姿を見るに様々な魔物が使われていそうだ。
中途半端に生かされ、他の魔物と勝手に掛け合わされて醜い姿となったキマイラからは、苦しんでいそうな感情が伝わってくる。
早く殺してほしいとでも言ってそうな目を向けてくる。
「グガアアア!」
「楽にしてやる。」
雄叫びを上げて向かってくるキマイラに膨大な魔装をした銀月を一閃する。
それだけでキマイラの身体が二つにズレて地面に崩れ落ちた。
「一…撃?あ、あり得ん…。」
それを見て男が肩を振るわせて驚愕の表情を浮かべている。
「私の最高傑作がたったの一撃だと!?貴様何をした!」
こんなに簡単に倒されるとは思ってもいなかったのか、ジルに指を差して激昂している。
「目の前で斬られていたのを見ていなかったのか?」
「Sランク相当の魔物をそんなに簡単に倒せる訳が無いだろう!」
「そう言われてもな。出来るのだから仕方無いだろう?」
Sランク相当と言ってもその中で比べると弱い部類だろう。
だからこそ比較的簡単に倒す事が出来た。
もし先程のドラゴンが相手であれば、こうも上手く事が運びはしなかっただろう。
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